60-悪魔の種子
その姿は異様と言うしかない。しかし、その者の元の主である男は、まだ意識があるようで、自分の変わり果てた姿を最も間近で見て、絶叫に近い声で何かをわめいている。男の体は胸から腹が縦に裂け、そこから黒い犬の頭が3つと両腕が出て来ている。犬と言ってもかわいいものではない。今にも、近くにいる者を噛み殺そうと周りを薄ら笑いを浮かべて品定めをしている。その目は黒く濁り瞳孔は縦と横に避けて怪しく光る。身体の元の主の仲間なのか周りで叫んでいる。
「どうなってるんだ! 今助けるからなー! 」
「いったいなんなの! 」
「死にたくない… 死にたく… ない」
身体の主の男が叫ぶ
「俺が何したって言うんだ!お、お前はいったいなんなんだよ!」
すると、犬の頭の1つが男の方に向き口を開く、その声は、聞くだけでおぞましく、心の底から恐怖を抱く濁った低い声だ。
「わたしが何か? お前が気にするような事ではない、既にお前の役目は終わったのだ。お前が今、意識があるのは特等席で仲間が殺されていく様を見せてやろうと言う、わたしの配慮だ。わたしはとても優しいのだよ」
「人の身体を奪っておいて何が優しいだ!この悪魔!」
身体の主は、その3犬頭の悪魔に悪態をつくが、好きにしゃべっていろと聞き流される。すると、男の仲間のリーダーらしき男が周りの仲間に声をかける。
「あいつは、もう助からん!すまないが安らかに眠ってくれ!冒険者としてお前も覚悟を!みな戦闘準備!」
仲間らしき者達が、ひとりはその男に対して謝罪し、もうひとりは泣きながら剣をかまえ、またひとりは首を横に振り後ずさりをしている。すると3犬頭の悪魔にリーダーが先陣をきり剣を振りかぶる。
「くたばれ!悪魔!」
「くだらん!」
3犬頭の悪魔は左手で剣を握りへし折る。折った刀身で、リーダーの男の首を切断する。
「わたしはとても優しい、自身の剣で苦しみも与えずに殺してやっているのだ。次はお前か?」
ひとり戦意喪失して、後ずさりしていた女に突進して、左胸を鷲掴みにしてそのまま心臓を潰す。
「やはりわたしは優しい、この者は自分の豊満な胸で男を虜にしていた。だから、わたしも体感してみたかったのだよ!しかし、こんなものに虜になるとは、くだらん!」
残った男と女の冒険者は、まったく動けなくなっており声すら出ない。そこへ騎士と兵士、更に神官数名が到着し加勢する。3犬頭の悪魔がつなぎを脱ぐかのように男の身体を自身から脱ぎ捨て、男の頭を踏み潰す。騎士のひとりが、冒険者を後ろへ下がらせ、精神安定の魔法をかけて事情を尋ねる。
「何があったんだ?既に門の兵士とお前らの仲間か?5人も犠牲者が出ている。」
「わ、わからない。いきなりアイツが暴れ始めて、そしたら腹から、あの悪魔が出てきて、兵士2人と門を爆発して…本当についさっきまでいつも通りだったんだ……」
「神官殿あの悪魔がなんだかわかるか?」
「おそらくは、ケルベロスの上位種かと…?」
「ケルベロス?あれは四足の悪魔ではないか?」
「ですから、上位種かと…言語も使用していますので…」
「では、ケルベロスよりも強者の可能性が高いか…」
騎士達が前に立ち、兵士達がエマージェンシーの魔法を顕現させ、光の柱が空に昇る。別の兵士は市民達を避難誘導する。神官達が騎士達へ高位の防御魔法をかける。騎士の隊長が騎士達へ命ずる。
「抜剣!」
3犬頭の悪魔が楽しませろと騎士達を挑発する。総勢10名の騎士が攻撃を仕掛ける。
「死に急いでるのは貴様か?」
3犬頭の悪魔が、一番手短にいた騎士の頭を鷲掴みにして頭を潰す。その身体を持ちかえて、近くにいた騎士をなぎ払う、とっさにベテラン騎士は、エスケープの魔法を顕現させて回避するが、新人騎士の2人が頭のない騎士の亡骸と共に家屋に打ちつけられる。
「一度引けー!密集陣形!盾かまえ!」
隊長が残りの騎士へ防御の命令を出す。
「援軍が到着するまでの辛抱だ!皆もちこたえろ!」
「おおー!」
騎士達は声高々に自身を鼓舞する。3犬頭の悪魔が薄ら笑い、低い声で見下すように騎士達へ声をかける。
「わたしを止められると本気で思っているのか?そうかそうか、わたしは優しいからな、望み通り一人づつ遊んでやろう」
3犬頭の悪魔が、密集した騎士達へ突進して陣形を崩し、1人の騎士を足を掴み宙吊りにする。騎士も剣を振り回すが、3犬頭の悪魔に刃が通らない。すると隊長が飛びかかる。
「これ以上部下をやらせるか!」
隊長は、魔法の連撃と剣技の連撃を放つが、3犬頭の悪魔は魔法を払い、長い爪で剣を交わす。力尽きた隊長が片膝をつき肩で息をしている。それを見た3犬頭の悪魔は、隊長へ言葉を吐き捨てる。
「そんなに死にたいのか?希望通りお前を先に殺してやる」
掴んでいた騎士を放り投げ、隊長の元へ歩みはじめる。
「お前ら後は頼む!」
「隊長!」
その瞬間、隊長と3犬頭の悪魔の間に岩壁が地面から隆起する。
「何?」
そして、上空から葵の支獣のエールとマノーリアの支獣のアリスが攻撃を仕掛ける。葵とマノーリアが隊長を後ろに下げさせ、マノーリアが声をかける。
「大丈夫ですか!」
「ええ、如月騎士長!感謝します。」
「非番だったので、私服で申し訳ありませんが加勢します!」
葵がマノーリアに声をかける。
「マニー、今日は丸腰だ。俺達魔法しか使えない、マニーは後方支援してくれるか?魔装依も着ていないし俺がエール達と斬り込むからさ」
「でも、葵くん厳しければわたしも前に出るわよ!」
「そうならないように俺がする。隊長すみませんが剣借ります」
「わ、わかりました」
葵は隊長から剣を借り、更に倒れた騎士達の落ちている剣も拾い、紫炎をまとい3犬頭の悪魔に攻撃を仕掛ける。
「クラッシュロック!ランドスライド!」
葵はクラッシュロックで陽動し剣技を放ち、ダメージを与えるが片方の剣が折れる。
「加護の力に剣がついてこれない」
3犬頭の悪魔が葵を見て不快そうに言葉を吐き捨てる。
「貴様は少々力があるようだな? しかし、その程度ではわたしは倒せん」
3犬頭の悪魔が攻撃に移る。葵はグラビティコントロールをかけるがあまり効いていない。3犬頭の悪魔の爪が葵を襲う。葵は剣でかわすが、いつもと勝手が違う為に防戦となる。
「らちがあかない!クソ!」
3犬頭の悪魔が爪の攻撃の後に、黒い炎で攻撃をしてきた瞬間に葵の持った剣が折れる。そして、爪の攻撃がくる。葵は身構えたがマノーリアが槍でその爪を防ぐ、エールが攻撃し、葵は新たに剣を受け取り、再び加勢する。マノーリアと葵の連撃で3犬頭の悪魔がダメージを受け咆哮をあげる。
「マニー行けるぞ!」
「葵くん!次で決めよう!」
葵とマノーリアが攻撃を仕掛けようとした瞬間に、黒い炎ので際切られる。3犬頭の悪魔が不快そうに言葉を吐き捨てる。
「ダニの分際でー!」
黒い炎をまとい、3犬頭の悪魔の身体がボコボコと隆起し、身体が倍に膨れ上がり、ふたりへ拳を振りかぶる。今までとは明らかに力が増している。
「あれはヤバい!紫炎まとっても危険だ!」
「今までの悪魔より手強いわ!」
3犬頭の悪魔が拳を下ろし、葵とマノーリアがバックステップで、下がった瞬間にマノーリアのブーツのヒールが折れマノーリアがつまずく、無理もない今日のブーツは戦闘用の物ではない。紫炎をまとった動きに耐えられるわけがないのだ。マノーリアへ3犬頭の悪魔の爪が襲いかかる。
「マニー!ぐはっ!」
「葵くん!」
葵はマノーリアをかばうように抱き、爪の攻撃をまともに背中へ受けてしまった。
「あ、葵くん! あおいー!ヒール!ヒール!」
マノーリアの悲痛の叫びが響き霧散した。
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冬童話2021投稿用に、連載中のSTRAIN HOLEの世界とキャラクターを使用して短編を書いてみました。
本編を読まなくても、完結するように書いておりますが、時期的なものや状況は本編とリンクさせておりますので、合わせてお読みいただければ、より楽しんでいただけるかもしれません。
【短編】姉妹のさがしもの
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