58-デート前編
休日2日目は、少しゆっくりと葵は起きた。昨晩、柊にはゆっくりしてほしいので、朝食はみんな別々でと頼んでおいたが、しっかりとキッチンには朝食が用意されていた。そこには手紙も一緒に置かれていた。
「萌さんが、一生懸命作った朝食なので食べて下さいね。わたしは、ゆっくりさせていただいているのでお気遣いなく、部屋にいますので、何かあれば気兼ねなく言って下さいね。柊」
葵は、信治じゃなくても惚れると思うよ、と思いながらありがたく朝食をいただく、しかし作った萌でなく、柊の株が上がるあたり、やはり魔性だなとも思う。すると葵に声がかかる。
「おはようございます。葵さん」
「柊さん。おはようございます。朝ごはんいただいてます。」
「お味はどうですか?」
「美味しいですよ!本当に萌が作ったんですか?」
「そうですよ!ちゃんと後で、萌さんを誉めてあげて下さいね。なんだかんだ言って、葵さんが料理上手なのに自分ができないこと、悔しがっていたので」
「萌も案外、昭和って事か…」
「しょうわ?昨日、萌さんも言ってましたね」
「日本の年号の事です。今は令和でその前が平成でその前が昭和ですね。30年以上前が昭和になるので、古いとか古風みたいな時に、比喩で昭和って言ったりしますね。世界的には西暦って言うの年号を使うで、西暦和暦なんて状況に応じて使うんですよ。でもこの世界は言語が統一されてて良いですね」
「葵さん達の世界は言語がいくつもあるんですか?」
「はい、たくさんあって、通訳が必要な事多いです。実際、俺も日本語以外は、喋れるって言えるレベルじゃないんで」
「この世界も以前は西と東で言語が違ったようですが…1000年くらい前から、共通言語になったようですね。」
柊と雑談をしながら葵は朝食を済ませる。葵が柊に尋ねる。
「信治と萌は部屋ですか?」
「信治さんは、はりきって騎士団演習場の隣にある武具製作室に行きました。萌さんは買い物に行きましたよ」
「じゃ、俺も出かけるので、柊さんゆっくり休日過ごして下さいね!」
「葵さんは、本当に気配りがお上手ですね。」
「そんな事ないと思いますけどね」
葵は、マノーリアとの待ち合わせ場所の大樹木蓮の広場へ向かう。昨日マノーリアが、施設に来ると言っていたのだが、あちらの世界では、スマホに依存していたからできなかった。待ち合わせを葵はしてみたかったので、ここで待ち合わせすることにした。なので柴崎からもらったイヤリングはしてこなかった。葵が先に着いたようで、ベンチに座り待っている。
「あっちじゃ、いまどこ?ですぐに会えちゃったからな、けっこう楽しいかも?この不便な感じ~」
葵は異世界で昭和のデートを体感する。マノーリアが今日は、どんな服装で来るのかもわからない、あちらの世界では、元カノが初デートの時は「どっちが好み?」なんて写真を送って来ていたが来るまでわからないのは、これはこれで楽しいと思った。葵が笑いを隠そうと下を向いてニヤニヤしていると声がかかる。
「葵くん!ごめんねまった?」
葵が声の方を向くと、マノーリアだった。今日のマノーリアは髪を下ろし軽く巻いている。服は襟つきでパステルカラーの春っぽいミニワンピースで、生足に少しかかとが高めのアンクルブーツをはいている。いつもよりもメイクもしっかりとしているデート仕様だ。葵は毎日会っているのにも関わらず。胸を撃ち抜かれた気分だ。おそらく過去デートした女性の中で、この衝撃を味わった事はないだろう。恐るべし昭和シチュエーションと、葵はシチュエーションのせいにして、理性を取り戻す。
「全然まってないよ!今日のワンピースかわいいね!」
「あ、ありがとう♪王国で買ったんだけど、やっと着れたから、わたしも嬉しい♪」
大人っぽいマノーリアが、ハニカミ少し照れながら喜ぶ。葵は今日のマノーリアは、かなり強敵じゃないかと焦る。葵には珍しく余裕がない、それだけマノーリアの外見と仕草を意識してしまっている。マノーリアが葵に尋ねる。
「葵くんどうしたの?」
「いや、どうもしてないよ、じゃ行こう!」
葵は、自身が冷静になる為に不本意だが日常的会話に逃れる。
「今日天気良くて良かったね~」
「そうね。」
「昨日は楽しめた?」
「うん、どのお食事も凄く美味しかったわよ♪ねぇ葵くん?」
「何?」
「いつもより、よそよそしくない?」
マノーリアは葵の感情を察しているのか訪ねてくる。葵はこのままやり過ごしても、自分を追い込むと思い、素直に白状する。
「実は、今日のマニーを見てドキドキしてた。毎日会ってるのにね。初めて会った時以上に意識しちゃったかな…ハハハ…」
葵が素直に自分の気持ちを吐露すると、マノーリアが安堵したのか、深いため息をつく。
「マニー?」
「良かった…」
「えっ?」
「わたしもね、夕べからずっとドキドキしてて、お洋服選びもヘアスタイルも、葵くんにかわいいねって言ってもらいたいし、だ、だって、きょ、今日デートだし…」
マノーリアは、少し頬を赤く染め照れている。いつもマノーリアがする態度だが、今日のマノーリアのそれは破壊力が違う、葵が意識してしまっているせいもあるが、マノーリアを愛おしいく感じると同時に葵のオスの部分がムクムクと反応する。やはり、葵の感情をここまでさせる女性は今まで出会った事がない、ここがハチ公前なら、マノーリアの手を握って、スクランブル交差点を渡り道玄坂を駆け上がって連れ込んでいたところだ。しかし、騎士になったとは言え、マノーリアは肩書き上上司で、これからも旅を続ける仲間である。軽率な事はできないと、葵は自分に言い聞かせる。でもキスぐらいは今日しようかなと、葵の本能が企てる。葵は平然を装いマノーリアに返答する。
「うん、ありがとう!マニーが俺のために一生懸命考えてくれたことが嬉しいよ!お互い意識し過ぎたから落ち着こう!でも、本当にいつも以上にかわいいよ!」
「何度もほめられたら、恥ずかしい…」
「ごめんごめんじゃ街の案内してもらえる?」
「そうだね♪じゃ、いしましょう♪」
こうして、葵とマノーリアの初デートが始まったのであった。
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冬童話2021投稿用に、連載中のSTRAIN HOLEの世界とキャラクターを使用して短編を書いてみました。
本編を読まなくても、完結するように書いておりますが、時期的なものや状況は本編とリンクさせておりますので、合わせてお読みいただければ、より楽しんでいただけるかもしれません。
【短編】姉妹のさがしもの
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