588-時空を越えた家族たちへ
STRAIN HOLEをお読みいただきありがとうございます。この588話で完結となります。
処女作として連載をはじめてから4年となります。多くの方にお読みいただき、励みとなりました。書き始めの頃は、ブックマーク100件を目標にしていましたが、既に200件越えととても嬉しい結果となりました。
最後までおつきあいいただき感謝の言葉以外にありません。
ありがとうございます。
では最終話をお楽しみください。
都内某ホテル
「どう思う? 彼女たち」
「まぁルックスはいいし、有名大の学生で頭もいいから、話題性はあるんだけどなぁ 本人たち次第ではバラエティ班になって、すぐに埋もれるかな? かなりの不思議ちゃんらしいよこの双子」
ホテルの大広間に作られた会場で会見前の記者たちが雑談をしている。今日の記者会見は、今年彗星のごとく現れ、絶大な人気を誇り社会現象を起こした作家が、確たる賞をいくつも総なめにし、日本ではアニメ化、ハリウッドでは実写化されるということで、その発表記者会見が行われることとなった。社会現象を起こすほどの人気ぶりに会場に集まるメディアの数も多い。作者は現役女子大生でしかも美人な双子で、それもまた人気に拍車をかけた。双子の妹は数年前から読者モデルをしていた関係で、元々同年代女性のファンも多かったことが、宣伝効果に拍車をかけた。
「定刻になりましたので会見をはじめさせていただきます」
進行役の司会者が、壇上脇のマイクでそう伝えると、今回の関係者が壇上の席に並ぶ、外国人監督や日本人の監督やプロデューサーらしき男性と作者である双子が中央に座る。司会者から会見の説明やら監督たちへの製作の意気込みなど、ありふれた質問がされ、最後に作者である双子の姉に司会者が声をかける。
「では、原作者のひとりである神無月 菖蒲先生、今回、アニメ化と実写化となったご感想は? 」
「ええ、そうですね。読書が苦手な方でも映像化することや、他言語でも製作していただけることで、この物語を多くの皆さんにご覧いただける機会が増えることを嬉しく思います」
「今の気持ちを一番誰に伝えたいですか? 」
司会者の質問に菖蒲は一度となりに座る妹へと視線を向けると、妹は何かイタズラを思いついたようなあどけない笑みを向けて頷いた。
「家族ですね。その中でも兄の葵ですね 」
司会者は一瞬沈黙する。その顔には打ち合わせと違うと書いているが、気を取り直して返答する。
「あ、お兄さんなんですね。確かお兄さんは失踪されたとお伺いしたと思いますが…… この作品をご覧になってまた再開できるとよろしいですね」
「会えるかは難しいかもしれませんね~ 」
口を開いたのは妹の方だった。司会者が表情を固くしつつも妹へと尋ねる。
「えー、神無月百合先生それは…… 」
「だって他の星に転移しちゃってるからぁ しかも、別の銀河ですよフツーなら無理って感じじゃないですかぁ あーでもあーちゃんなんかチートな力もってるからヒョイって顔出すかも? そしたらマジウケますよね」
「あー 別の銀河に転移ですか…… 」
「そっ! 異世界転移ってヤツですよ! ホントにあるんだなぁって、ユリも最初はヤバいって思いましたぁ 」
ユリは、ケラケラと笑いながら返答するが、その様子は、自然体で記者会見に用意されたPRの類いでないことは、会場の雰囲気が示している。会場にいた女性記者が手を上げると司会者が助けを求めるようにその記者を指名した。まだ質疑応答の前だけに会場の記者たちから非難されるかと思いきや、司会者の心情に同情すら感じている記者が多く、そのまま質疑応答に進める方向に全員納得する。
「本の内容も異世界転移した主人公やその仲間たちのお話ですが、両先生はこのお話は創作ではないと? 」
女性記者の質問にユリが答える。
「もちろん全てが真実とは言いませんよぉ でも、アヤちゃんと話して、夢で見た世界こんな感じだったよねぇ~ なんて話ながら設定とか考えたりとか、キャラクターも実名出せないですもんね♪ アハハハ あたしはキャラクターのデザインとか挿し絵が主な担当なんでできる限りの忠実再現したつもりですよ」
ユリは当然の事と言わんばかりに明るく話す。アヤメがユリを補足するように話を引き継ぐ。
「わたしたちを不思議なことを言う双子と言われているのは承知していますよ。でも、わたしも百合も夢で同じ出来事を体験しました。わたしたちだけでなく、最初は祖母、今では両親も同じ夢を見ることあります。わたしたちの兄は死んでいません。それに数年前まで頻繁に起きていた10代の失踪事件の事を皆さん覚えていますか? 」
アヤメの話に別の記者が訪ね返す。
「それは、事故や事件に巻き込まれた10代が失踪する事件の事ですよね? 確かおふたりのお兄さんは列車の脱線事故に巻き込まれたあの事件ですね? 」
「はい、そうですね。皆さんは見えていないのでわたしたちが不思議なことを言っていると思われることをわたしも百合も否定はしません。でも、わたしたち同様に、家族がいきなり失踪したご家族には、直接お話出来たらなって思っています。わたしたちが、名前を認識できているのは、兄を含めた7名です。転移事態が事故のようで、転移してもそちらで不幸に見舞われた方もいるようです。遠い銀河の星で無関係の方たちが、日本人を保護して、そちらの世界で生活できるように支援してくれているようです」
質問した記者はまったく動じないふたりに対して少し苛立ったようで少し険のある口調で口を開く。
「さすがに被害にあったご家族に失礼じゃないですか? そんな作り話を信じろと言われても無理ですよね」
アヤメがにこりと笑って返答する。
「そのお気持ちも理解しているつもりです。ですから興味を持った方だけ信じていただければ、だから創作物の形で知ってもらうために本にしたんです。並行世界や異世界は物理的に遠くてもすぐそばにあるんです。わたしたちは必ずその都度選択して生きています。選ばなかった方を選択した世界も存在するんです」
アヤメの返答に記者が不快を露にするが、アヤメは笑みを崩さないし、となりのユリはケラケラと笑いながら話し始めた。
「誰だって信じないですよねぇ こんな話 あーでもひとつみんなが知れる方法があるかもしれませんよ♪ 」
「百合先生それは? 」
別の女性記者が催促するように声をかける。
「えーと、ユリは宇宙の事わかんないから説明下手ですけど…… いいですか? 」
「かまいませんよ! 」
「そうですね。宇宙だとNASAとかJAXAとかの人なら調べられるのかな? 太陽のもっと遠くの音とか電波とか拾えたりするのかな? 拾えたらみんなが知ってる人の歌が聴けますよ♪ あたしも大ファンだしふたつの銀河に歌を聴かせるですって♪ やっぱりMAIはカッコいいよねぇ~ 」
「MAIってあのアーティストのMAIですか? 首都高トンネル事故後行方不明の? 」
「そうですよ♪ 前よりさらにパワーアップしてますよ」
記者会見はアヤメとユリのぶっ飛んだ話で騒然としたが、途中スタッフの軌道修正がされてなんとか無事に終わった。
「無駄足だったか? 」
「まぁ美少女ふたりで不思議ちゃんだから紙面は華やかになりますし、他にネタがなければいいんじゃないですか? タバコいいっすか? 」
記者会見に参加していた記者とカメラマンが会場を後に歩きながら話しているとカメラマンが指2本を口元にしながら喫煙所に足を向ける。
「ああ、オレも吸いたいところだった」
ふたりが喫煙所に入ると先客は1人だけのようだ。気にせずふたりは話し始める。
「しかし、異世界転移ねぇ~ 流行ってるらしいけど、宣伝に失踪事件持ち出すとは…… かわいい顔してずいぶんと過激だな」
記者がそう言うと、カメラマンは撮影したデータを確認しながら、ニヤニヤと笑いながら返答する。
「こんなかわいい娘が言うならオレは信じても、いいっすけどね♪ ほらかわいい女神様降臨なんてね♪ 」
カメラマンは自分の納得行く写真が撮れたのかカメラの画面を見せてご満悦だ。
「人間とは見えぬものは信じえない…… しかし、神は見えぬどすがるとは滑稽ですな」
喫煙所の先客がいきなりふたりへと声をかけるように口を開いた。ロングコートにハット少し古くさい服装の痩せ男が長く細いタバコの煙を燻らせ一口吸ってから改めてふたりに声をかける。
「いや、失礼わたしはタバコメーカーの者でしてね新商品のタバコを試煙いかがですかな? 」
ふたりにタバコを差し出すと、ふたりは怪訝ながらもそのタバコを咥え火をつける。ロングコートの男はふたりに興味が失せたかのように別の方向を見て口を開いた。
「救世主が本当に現れるとは…… 厄介なことです。その者血縁ある者がこの星にいる…… 少々計画を変えねばなりませんな、では、わたしはこれで…… 」
ロングコートの男は喫煙所を後にするが、その男を死角から見る影があった。
お読みいただきありがとうございます。
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次回作は年明けから連載をスタートするべく準備しております。次の作品はコンビニとダンジョンがキーワードです。
今後とも橘 弥鷺をよろしくお願いいたします。




