582-限界
「お願い早く…… 」
マノーリアは、葵の指示通り薙刀をかまえたまま、その時を待つ。
「葵くん、瑞希さん…… お願い…… 」
マノーリアの呟きは、祈りに近い目の前では仲間たちが必死に邪神を倒そうと攻撃をしかけるが、まだまだ邪神に倒すに至らないどころか、ひとり、またひとりと攻撃を返された挙げ句に離脱していっている。まだ、重傷の者はいないが、このままでは誰が犠牲になりかねない。そんな状況の中、マノーリアはひとりただ待機している。自身も攻撃に参加するべきではないかという葛藤と仲間を助けたい衝動を抑えながら、葵の策を信じ待ち続けるしかない。マノーリアの葛藤にさいなまれる中、我慢できなかった麻衣が上空から現れた。
「あたしも攻撃するわ！ 」
先程まで、歌姫たちと歌で援護していた麻衣が、眷属を引き連れ、上空から邪神へと攻撃をしかける。
「麻衣さん！ 」
麻衣の眷属たちが邪神の大剣一振で一掃され、麻衣へと邪神の大剣の剣先が向けられ、マノーリアが思わず前に出ようとしたその時。
「マニーは葵の指示を待て！ 」
白檀がマノーリアに声をかけると走り出し、カラダに烈火の炎を纏い邪神と麻衣に割っては入る。さらに、デイト、カーラス、環、梔子が同時に邪神へと攻撃をしかける。
「貴様らの剣は見切った！ 」
邪神は、片手を頭上に上げると、指先から黒い光の糸を無数に伸ばし、周囲のデイトたちを縛り上げた。邪神の糸も今の力ではマノーリアまでは届かないようで、マノーリアだけは邪神の糸が絡みついていない。マノーリアが皆を助けようと前に出ようと走り出すが、縛り上げられた梔子がうめきながらマノーリアに声をかける。
「うっ…… マニーはダメ！ 葵を信じて！ わたしたちは大丈夫だから！ く…… 」
環もマノーリアに声をかける。
「…… マ…… マニーちゃん葵さんを待って…… 」
ふたりの言葉に、マノーリアは唇を噛み立ち尽くしながら目を伏せ呟く。
「ごめんなさいみんな…… 葵くんお願い…… 」
糸でからめられながらも、皆がマノーリアの盾になるように邪神とマノーリアの動線を塞ぐように立つ。
「マニーに手を出させるわけにはいかねえ！ 」
「こんな細い糸なのに切れないなんて！ 」
白檀や梔子が抵抗を試みるが、邪神の糸は緩まるどころか皆を縛り上げていく。
「安心しろ全員順番に殺してやる。貴様と後ろの女からは、アマテウスの眷属以上にアマテウスの力を感じるな」
邪神は環とマノーリアに視線を向けた。
「させるか！ 」
デイトが邪神へと体当たりをしようと突進するが、縛り上げられたデイトでは何もできないのをいいことに、邪神はデイトを蹴り飛ばす。
「デイト！！ 」
「鬱陶しい！ 」
カーラスがデイトに続き邪神に組つこうとするが、邪神はカーラスを殴り飛ばした。
「貴様らは後だ！ 確か貴様はアマテウスの代行者だったか？ 人間」
邪神はニヤリと笑い環へと歩みより問いかける。
「やめろ！ 」
「なんだ人間、いや鳳凰か？ 貴様はオスか？ なるほど…… このメスが無惨に死んでいく姿はたまらなく貴様に影響を与えそうだな？ 」
「貴様ぁ！ 」
邪神の言葉に白檀が怒りに満ちた声音で睨みつける。
「貴様は特等席で見ていろ、楽しませてやる」
邪神は白檀を糸で身動きがとれないようにさらに縛り上げていき、環をそばにあった魔艇の残骸へとはりつける。
「イヤ！ やめ…… うっ…… 」
邪神がはりつけた環の頬を掴み、顔を擦り付けるようにして耳元で声をかける。
「ふふ…… いい声で鳴けたら褒美をくれてやる…… 」
邪神はそう言って、楽しむように環の顎から頬を舌でなめる。
「やめろ！ 」
白檀の言葉を無視するように邪神は、環の胸を鷲掴みにしてイヤらしい笑いを環に浴びせる。
「本来ならこのまま心臓をえぐるのが我々の快楽ではあるが…… 人間はちと思考が違うようだからな…… もう少し楽しみ方を婀娜に聞いておくべきだったな…… 」
苦悶の環の表情に皆が声をあげるが邪神はその手を止める様子はなく、邪神が手を止めると大剣の剣先を環の胸元へと向けると器用に環の魔装衣をそれで切り裂いていく。
「環さん！ 」
「マニーちゃんダメ！ わたしは大丈夫です…… 」
環は再度マノーリアを制止の声をあげ、邪神へと無言で強い意志をこめた視線を向ける。
「ほぉ…… 鳴かぬか？ つまらん…… もう少し可愛がるか…… しかし、その反抗的な眼は興奮を覚えるな…… 」
邪神はそう言って、環を縛り上げていた両足の糸を操作して、環の足を開かせる。
「イヤぁーーー！ 」
「環ィィィーーー！ 」
環の悲痛の悲鳴に白檀を血を吐きそうな勢いの怒号を吐くが、邪神は鼻を鳴らしながら自身のベルトを緩めはじめる。
「葵くんごめんなさい！ もう待てない！ 」
マノーリアは、一言そう呟いて次の瞬間には邪神の背中へと渾身剣技を浴びせていた。
お読みいただきありがとうございます。
次話も引き続きお楽しみいただければ幸いです。
いいね、ブックマーク、評価、感想、レビュー何かひとつでもちょうだいいただければ、励みとなりますのでよろしくお願いいたします。
ぜひ、下の☆印にて評価してただければ幸いです。
