570-混乱
「精鋭部隊一度後退を…… 魔艇接近につき5分後に一斉迎撃行います」
「わかった」
司令部より後退の指示が白檀へと連絡が入り、白檀は周囲の魔族を範囲攻撃で一気に殲滅し、環がいる馬車の屋根へと飛び乗り、声を拡張する魔道具で戦場にいる全員へと声を届ける。
「魔艇が来る! 一度後退だ! 全員この馬車より城塞側に後退しろ! 巻き込まれるなよ!」
「妨害しても想定より早いですね。魔艇の速度は」
白檀の隣にいた環が声をかけると、白檀は戦場の騎士や冒険者の後退のようすを見ながら返答する。
「充分だ。魔艇の砲撃がない中でこれだけの魔族を倒せているからな…… 」
確かに環の言うとおり魔艇を魔族の軍勢と分断していたわりには魔艇の速度は早かった。
「体力に余裕あるヤツは負傷しているヤツに肩を貸してやれ! 」
白檀は周囲の騎士たちに声をかけ、ひとりも迎撃の巻き添えがでないよう指示を出し、前線の精鋭部隊の後退が完了すると上空から魔族の軍勢と魔艇に向けて一斉に攻撃を開始し、続けて城塞からの砲撃が魔艇を襲う。前線の魔族の軍勢はその攻撃に対し無力であり抗う術を持たない。対抗するにも遥か高みの上空からの攻撃に対しなす術はない。魔族の軍勢は吹き飛ばされ、その後方に見えた魔艇の艦隊からは被弾したであろう煙が立ち上がっている。
「うぉー!! 」
「やった! 」
一斉迎撃の戦果に歓声が上がる。しかし、一番耳が良く、ロングレンジマジックライフルのスコープで戦果を確認した花が口を開く。
「一定の戦果はあるけど…… 団長…… 旗艦はダメージないです」
「想定の範囲だな」
「それと…… あの黒い霧が動きはじめてます」
花の報告に白檀が目を凝らして魔艇を睨みつけ、梔子に声をかける。
「クー、支獣に索敵させる」
「わかった。ユキ行って! 」
梔子の支獣ユキと白檀のオーレが一気に上昇する。静観していた瑞希が魔艇の方向を凝視していたが、一気に息を吐いた。それに隣にいたマノーリアが声をかける。
「瑞希さん何か見えたの? 」
「ここからはけっこうヤバくなる」
「え?! 」
「邪神が戻った。団長、クー、旗艦の艦橋辺りを良く見てみて邪神がいると思う」
マノーリアに返答し、そのまま白檀と梔子に声をかけると梔子が瑞希に尋ねる。
「瑞希ちゃん見えるの? 」
瑞希は首を横に降り苦笑しながら答える。
「勘というか…… ほらわたしのカラダってこの状況を想定して用意してもらったからね。邪神や魔族を感じるようにしてもらったからね。女神様にも葵にも…… それでも邪神に勝てる気がしないってのは言っておくけどね」
「女神が勝てる気がしない相手を瑞希がひとりで倒せるわけないでしょ」
瑞希の言葉に麻衣が笑いながら声をかける。
「そうなんだけどさ」
瑞希もそれに笑って返答するがふたりともその笑いはどことなく乾いた笑いだ。折れる心を隠すようなそんな笑いだ。その時白檀と梔子が肩を揺らした。支獣と同調したのだろうと、皆がふたりを見た次の瞬間。
「なっ!? 」
「きゃっ?! 」
白檀と梔子が何かを避けるようにカラダをよじった。
「白檀さん! 」
「クーさん! 」
白檀に環が、梔子に咲が手を添えると、ふたりとも問題ないと手を振り白檀が声をかける。
「かなり高度をとっていたが、邪神に気がつかれて笑っていやがった。威圧でオーレとユキが消滅した…… 」
邪神と目があった瞬間にふたりの支獣は吹き消すかのように消滅したようだ。支獣は主の霊でできているので、主が命を落とさない限り復活をするのだが、白檀はさらに話を続けた。
「あいつは…… 邪神はオレたちが同調するのを待っていやがった」
「確かにそんな感じはする。あの笑い…… 気持ち悪い…… 」
白檀に同意するように梔子も口を開き、自分のカラダを抱くように腕を回した。その時、要塞の司令部から連絡が入る。
「第2一斉迎撃開始! 」
上空から魔艇に向けて再度攻撃が開始されたのだが、先程とは違い、魔艇の旗艦から黒い霧が魔艇への攻撃を霧散させ、次の瞬間、その霧が黒い大蛇のようになり、最初の迎撃で被弾した魔艇に絡むように伸び、巨大な魔艇を宙へと引き上げ、そのまま城壁へと投げつけた。
「なにっ!? 」
「退避! 退避! 」
巨大な魔艇3隻が城塞前の堀へと落ちて大きな水柱を立てた。オーシャンガーディアンの艦隊は船というよりも潜水艦に近い構造の為、沈没することはないが、巨大な魔艇が直撃すれば被害は大きい。その後2隻の魔艇が降ってきて、運悪くオーシャンガーディアンの艦隊3隻に激突する。迎撃に成功していたが、邪神が加わっただけで、想定できない攻撃を受け星形要塞に混乱をもたらした。
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