56-大風呂敷の代償
予定の時間より30分早く環、マノーリア、梔子、デイトの4人が連れだってやってくる。環が早く来た理由を葵達に告げる。
「メニューの件も葵さんと話したいのもあるんですが、信治さんにも早速、錬金術の学んでいただこうと思いまして」
葵が返答する。
「じゃ~、信治の話を先にしてください。今、信治燃えてますから!」
梔子が半眼で葵に尋ねる。
「信治になんか言ったの?葵が言うと怪しいよね~?」
「俺は信治のやる気を引き出しただけだ!」
環が信治に尋ねる。
「信治さんがやる気に満ちているのはどんなことかしら?」
「環さん!僕、チート武器か道具を作って、この世界最強になります!」
みんな目が点になる。マノーリアが葵に尋ねる。
「葵くんや信治くんが言う、チートって何の事かしら?こちらの世界にはない言葉なのよ…」
「元々は騙すとか不正するみたいな意味なんだけど、ズルをして強くなったとか、ズルすぎる強さみたいな意味かな?けっこうニュアンスで使っているところもあると思う。信治合ってるか?」
「だいたい合ってる。」
環が信治に尋ねる。
「では、信治さんはそのズルいくらい強い武器か道具を作るのが目標にすると言うことですか?世界最強ということは、神器を超えるもしくは加護を得ずに神同等の力得ると言う事でしょうか?」
「そうです!僕神様から加護を得なくても強くなれるような物造りたいです。」
環が押し黙る。デイトが無表情に口を開く。
「荒唐無稽な話ですが、本人はいたって真面目に考えているようです。民は時によって他者が無謀と思うことを目標にしたがる傾向にあるようですね。環さん別に本人がそのつもりならそうさせればよいでしょう。」
葵が黙っている環に信治のフォローをする。
「まあ、こう言うこと言うからあっちの世界でも人付き合い苦手だったんだと思うんですけど~高嶺を目指すとか信治にも必要じゃあ無いですかね~」
環が葵を手で制止し、何か含みのある笑顔を見せる。その瞳には何が宿ったような爛々としていて、葵は生唾コクンと飲むほどだ。その環が口を開く。
「葵さんそのようなフォローは無用です!わたしは信治さんがそのつもりなら、そのように指導するつもりです。信治さん、わたしは弱音を吐いても逃しませんよ!あなたが、神器を超える物を造れるまで、わたしはあなたへの指導を辞めるつもりはありません。良いですか?」
「望むところです!わかりました!何でもやります!覚悟もできてます!」
「わかりました。では、今日の午後、基本の素材作成はお教えします。その知識をもって、出発日の2日前までに、あなたの主装備武器をひとつと副装備武器ひとつ、そして、防具をひとつ作成して下さい。その出来が基準以下なら、旅への同行は中止します。よろしいですか?」
さすがに素人でも難易度が高い課題なのは理解できる。信治は錬金術のれの字もまだ触れていないのだ。葵が無謀な課題に環に条件の見直しを提案しようとしたところ、信治が返答する。
「環さん!わかりました。やってみます!」
信治も変なスイッチが入ったのか了承している。葵は信治がバカななのかもしれないと思う。次は信治が環に尋ねる。
「環さん!課題の武器と防具に定義や縛りはありますか?」
「ありませんよ!武器は攻撃ができること、防具は敵の攻撃を防げればかまいません。魔法を増幅させる事で攻撃力や防具の力をます道具でもかまいません。ちなみにわたしの金剛杵もわたしが作り出しましたので、おそらく、戦闘時の魔法、技能、代行者としての力を歴代皇女の中で最も増幅させていると思います。」
「じゃあ~何でもアリって事ですよね!」
「何でもアリです!それでズルいくらい最強の武器ができるのであればかまいません。邪神を加護を持たない人でも、倒せるような武器あれば素敵ですね。それはもう神器……いえ、チート武器ですね。」
「絶対に作り出しますよ!」
信治が環に親指を立てる。環がウィンクをしながら親指を立てる。
「造れるまで、精神系魔法使ってでもやってもらいますからね♪」
葵はちょっと環の発言に怖くなった。梔子が肩をすくめて、呆れた感じに口を開く。
「あ~あ、タマちゃんを本気にしちゃった~し~らな~い」
「どういう事?」
マノーリアが補足する。
「環さんは、歴史学と錬金術学に関しては、手が抜けないの、学生の時からどちらの道に歩んでも、期待されるだけの実力者だったの、皇女になった今でも研究を続けている上、さっき環さんが言った金剛杵は、世界を驚かせた法具よ!」
マノーリアの話を聞いてデイトが納得する。
「やはり、環さんはウズメさんの代行者でなく、後継者で間違いありませんね。確かにあのアイテムは、人の力の到達点と言っても、過言ではありませんが、環さんはアマテウス様の代行者なので、本来の力を出せればそれ以上の物を造れると思いますけどね。」
環が信治ウィルスが感染したように叫ぶ。
「では、一時もムダにできません!信治さん基礎早速教えします!葵さん!マニーちゃん!クーちゃん!柊さん!悪いんですけど、お料理はお願いしますね!レシピはこちらに書き写してありますから、相談して下さい。」
環がレシピの書いた用紙の束を柊に渡す。
「信治さん!なに、モタモタしているの!そんなでチート武器造れると思っているのですか!気持ちが足りませんよ!」
「は、はい!師匠よろしくお願いします!」
「挨拶はけっこう!結果あるのみです!」
環と信治は談話室でふたりで何かはじめている。その姿を見て葵が声が漏れる。
「環さんキャラ変わってる。ヤバイくない」
「信治くん本気にしたんだから、責任とってもらいましょ、わたし達は料理の準備しましょ」
予定の時間になっていたのか、咲と花が菅原を連れてやってきたのだった。
「ところで団長は?」
「ビャク兄は俺は飯ができた頃に顔出すって言ってたよ~」
「まぁ、だろうね」
信治の大風呂敷の代償は環に火をつけ、ドS環を引き出すことになった。
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