566-生まれる世界
地球:21年前5月13日
「お母さんもう少しですよー! はーい! いきんでください」
「う、うー ひー ひー ふー …… うー んー ひー」
「さくら! がんばれー 」
産婦人科の分娩室で、今まさに新たな命が誕生しようとしている。分娩室では、苦しみに耐える妊婦へ更に頑張れとむごい応援しか言えない立ち会う夫。分娩室の前では、夫婦の両親や妹がその時を待っているが、女性陣は談笑する余裕を見せているが、病院なのに産婦人科特有の女性の園のような雰囲気と初孫の誕生にそわそわと居場所なさげに無意味に歩き回る男性陣。
「お母さーん! 頭出ましたよ! もう少し!はーいいきんでー 」
「頭出たって! がんばれー ひーひーふー! ひーひーふー! 」
手慣れたベテランの助産師の言葉をオウム返しとがんばれと呼吸法しか言えない夫にイラつきを覚える頃、助産師の言葉が分娩室に響く。
「はいお母さん頑張りましたね~ 産まれましたよ~ 男の子です」
『違う…… わたしのからだがない…… 』
その声は誰にも届かない。
「お母さんもう少しですよー! はーいいきんでください」
「う、うー ひー ひー ふー うー 」
「さくら! がんばれー 」
先程の夫婦の出産の様子が繰り返される。
「お母さーん! 頭出ましたよ! もう少し! 」
「頭出たって! がんばれー ひーひーふー! ひーひーふー! 」
「はいお母さん頑張りましたね~ 産まれましたよ~ 女の子です」
『これじゃオレが産まれてこないじゃん! 』
そしてまたその声は誰にも届かない。夫婦の出産の様子が幾度となく繰り返される。
「はいお母さん頑張りましたね~ 産まれましたよ~ 男の子です!? 」
「!?」
『またぁ…… えっ?! 』
その声は男の子が産まれてうんざりした声を漏らした瞬間なにかに引っ張られるように消えていく。
「お母さん! 双子だったみたいなんでもう少し頑張りましょ! ね! 」
「えー ふ、ふたご…… は……い…… ひー ひー 」
「ふふ、ふたご? さ、さ、さくらがんばれー ひーひーふー 」
「先生呼んできました! 」
「ふたご? エコーにまったくうつらなかった? おかしいな…… 」
妊婦も夫も助産師と医師も誰もふたごが産まれてくると思わなかった。
「はいお母さん本当に頑張りましたね~ お疲れ様です。2人目産まれましたよ~ 女の子です」
ふたごの赤ちゃんがきれいにされ、おくるみに包まれて母親の脇に寝かせられ助産師が母親に声をかける。
「お母さんお名前決まっていれば呼んであげてください」
父親が動揺したように妻に尋ねる。
「さ、さくら…… 名前…… どうしよう…… 」
母親はふたごを見つめながら優しく微笑み口を開く。
「男の子がちょっと季節早いけど…… 葵で、女の子は5月だから瑞希でどうかしら? 」
「葵と瑞希か…… うん! あおいー! みずきー! パパだぞー! 」
父親はふたごを呼びながら涙こぼしている。それを見て母親がクスリと笑いながら口を開く。
「なんで樹くんがそんなに泣いてるのぉー」
「だ、だって、こ、こんなうれしいことないだろうぉ う、うー 」
『そうか…… わたし瑞希か…… 』
『それにオレが兄だぞ! 』
『昔は後から産まれた方が上だったらしいよ! やっとスタートラインにたったね』
『まぁでもあっという間だろ? 』
『なんかもったいない気はするね』
『体感は変わらん20年はここで家族と暮らす』
『事故死するってわかってるのも微妙だね』
『でも戻らないと…… アオイ改めて瑞希行くぞ! 』
『うん…… 後はあっちでもアマテウス様がカラダを作ってくれていることを祈ろう。ありがとうママ、パパ産んでくれて…… 』
葵と瑞希はふたりにだけ通じる声でそんな会話をする。器となるカラダを手に入れたふたりはこの世界で20年の時を過ごす。
―――――――――
現在:緑星ロスビナス皇国戦場
邪神に拘束された最高神女神アマテウスはもうろうとする意識をなんとかつなぎ止め、先程の少女の声に答えるように人を生み出す準備を脳裏で進める。
「こんな時に希望の多い娘だけど…… 頼む…… 」
―――――――――
星形要塞東門物見棟
「嵐と地揺れが静まった…… 」
「大気が凪いでます」
「戦闘が落ち着いたのですか? デイト、カーラス」
「アマテウスさまぁ」
そこに集まりアマテウスと邪神戦闘の行く末を見守る眷属神4人の身体にアマテウスとの同調が届く。
「?! 」
眷属神4人は声を漏らすことなく次の瞬間姿を消し、アマテウスの元へと転移した。
「ふんっ まだ意識があるか…… ぶざまだなアマテウス」
邪神は蔑むようにアマテウスを見るが、アマテウスはどこか誇らしげに口元に笑みを浮かべ口を開く。
「愛する民たちの為に…… 」
「ほざけ…… ?! 」
邪神はなにかを察する。アマテウスの周囲の景色が歪んだように見えたからだ。アマテウスの前に薄いフィルムのような物が幾重にも重なり、人の形を作り出す。
「葵の力を借りるから! 」
いきなり現れた少女が邪神へと斬りかかる。
「ロックブラスティング! 」
少女は邪神の手前で範囲攻撃である技で邪神の目を眩ます為に石の爆煙を発生させる。
「わたしひとりで勝てる相手じゃないからね。でもこの剣使いづらくない? 」
少女は手につかんだブロードソードを見て苦笑しながらアマテウスの元へと戻り、アマテウスのカラダを締め上げる邪神の黒い糸を絶ちきる。
「さすが聖剣! 切れ味は最高! アマテウス様助けに着ましたよ! あっ ちょっとの間借りるね♪ 」
ほとんど気を失ったアマテウスの脇にあったアマテウスの槍を手に取る。
「槍だけどまぁ良いや、わたしは剣道より薙刀の方が向いていたんだよね~ 道場を薙刀の先生に貸してくれてたおじいちゃんに感謝!」
「なんだ貴様!」
「貴様ってなによ~! 女の子をこんなにして! 恥を知れ! 」
邪神に対して毅然と立ち向かう少女はアマテウスのことも「女の子」と言ってしまう程に信仰心はない。邪神は少女の返答を聞いて表情も変えずに、黒い糸を少女へ向ける。
「なら死ね! 」
「スパイダープラント! 」
「ダイヤモンドエッジ! 」
「疾風迅雷! 」
「オーバーウェーブ! 」
少女を襲う邪神に対して別方向から攻撃が入り、邪神のカラダを植物が拘束し、デイトとカーラスが斬りかかり、サヨリが邪神を押し流す。
「邪神は倒せてない! すぐに退避を! 」
デイトがアマテウスと少女に歩みより声をかけ、星形要塞へと転移する。エーテルがアマテウスを回復している様子が横目に見えた。
「デイト様アマテウス様を救出に? 」
連絡を受けた環がデイトに声をかける。守星調査隊の面々もデイトたちの元へと集まってきた。
「はい、やはりアマテウス様だけに頼るのは違うと思いまして…… 」
「ところで彼女は? 」
アマテウスとともにいた少女を環が尋ねる。少女は満面の笑みを携え目元の脇にピースを作り口を開く。
「みんな! 久しぶりー 神無月アオイ改め! 神無月瑞希だよ! 」
葵の身体にともにいたアオイは、葵の力によって神無月瑞希として産まれた。そして新たな命とともにその世界は広がる。
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