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【祝! 完結】STRAIN HOLE ~よくあるフツーの異世界でフツーに騎士になりました。だってフツーでもそこそこ楽しめますよね? ~  作者: 橘 弥鷺


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563-撤退と交代

 デイトは全部隊撤退合流地点である谷付近へと転移し、撤退路の防衛を皆に指示する。邪神とアマテウスの戦闘は気になるが、アマテウスの命令は絶対である以上デイトたち眷属ができるのは、一般の騎士や兵士を星形要塞へと帰還させ、最終防衛の準備を進めることだ。撤退をはじめる守星連盟部隊に邪神軍の魔族が襲いかかる。


「魔族にかまうな! 集合地点へと走れ! 谷に接岸した船に乗船せよ! 」

「回復は後だ! 」


 士官たちが指示を出すが魔族たちの攻撃をかわしながらの後退は容易ではない。


「撤退を支援します! 」

「デイト・ア・ボット様だぁ~ 」

「おお~ みんな今のうちに急げ! 」


 デイトが魔族の群れへと立ちはだかり、兵たちの撤退を支援する。空を見ればカーラスも支援に駆けつけている。


「まだこれだけの数がいるか」


 カーラスが上空から魔族の群れを見渡し、腰の羽団扇(はうちわ)持ち仰ぎ突風を発生させて魔族を吹き飛ばす。守星調査隊の面々も撤退路の確保へと魔族に立ちはだかるが、皆の表情は曇っている。


「クーちゃん、麻衣ちゃん葵ちゃんの事は後で考えるわよ! 今はひとりでも多く集合地点へ…… ね」

「アイさん…… 」

「わかってるけど…… 」

「マニーちゃんのためにもわたしたちはしっかりしないとね…… 」


 アイが近くにいた梔子と麻衣に声をかける。梔子と麻衣は気丈にも撤退路を確保する為、魔族と戦っているが、どことなく危なっかしい、アイの経験がふたりの危うさに警鐘鳴らした結果の声掛けだ。葵がどうなったか不明だが、間違いなく致命傷であることに間違いない。しかし、葵の身体は霧散して消えてしまった。だから死んだとは思えないが、腹を槍で突き抜かれ、それまでの体調も魔法でも回復もできないほどの重傷だった。マノーリアは葵が消えたことで放心状態となり、さすがに戦闘に参加させられる状態でないので、環たちとともにいる。アイからしすれば、実力は遥かに上の梔子と麻衣だが、今のふたりにはアイのような頼れる大人が一緒でないと危ういほどに憔悴している。


「アイさんオレも入る」

「あら白檀 もう平気なの? 」

「大丈夫だ! 」

「あなたの面倒は見ないわよ~ 」

「アイさん! オレはもうオムツがとれてるからな! 」

「あらそうだったの? てっきり環ちゃんにお願いしているのかと思ってたわ~ 」

「いいから! 来るぞ! 」


 白檀が遅れて戦列に加わった。白檀とアイが梔子と麻衣に聞かせるように軽口を言い合っている。白檀の左腕には信治が急遽作成した義手を装着している。


「新しい鳳凰白檀のお披露目といこうか! 」


 白檀が大太刀を引き抜きかまえ、さらに左腕の義手に烈火の炎が纏わりつく。


「順番に甲板に! 」

「ほらっ! こっち! 」


 里菜とワークがWBHの甲板へと案内している。すでにWBHも騎士や兵士がすし詰め状態で座り込んでいる。


「里菜ちゃん全員は乗れないよね? 」

「星形要塞からもさらに船が来てくれるって萌さん言ってましたから…… 」

「けど、用意した船もたいした数はなかったと思うけど…… 」

「何度か往復するしかないでしょうね」


 ふたりが話しているとどこからともなく声が聞こえてきた。


「はははははっ! このウチが来たからなんの問題もござらぬ! 戦闘場所を選ばぬこのウチが多くの民を救ってご覧に入れようぞ! 」


 声は空から聞こえたように思うと騎士や兵士たちの撤退路側へと移り、ランドセルを背負ってハンマーを持っている少女が高笑いをしている。


「チョウノスケちゃん! 」


 チョウノスケがウインクをして親指を立てている。次の瞬間、巨大ペンギンとなり魔族たちへと突貫する。周囲の騎士や兵士はいきなり現れた巨大ペンギンに腰を抜かしているが、チョウノスケは気にせず走っていった。


「やっと追いつきました。合流します。まずは魔族の排除を…… カトラスさんたちは民たちの乗船を」

「了解しました。サヨリ様」


 サヨリは水瓶から転移して姿が消える。カトラスが各艦艇に指示を出す。


「全艦浮上! 大至急騎士、兵士を乗船させよ! 騎士団は魔族たちを近づけさせるな! 」


 オーシャンガーディアン海上騎士団の艦隊が水面へと浮上する。谷には合わせて10隻以上の船が接岸し騎士や兵士を乗船させはじめる。魔族が逃がさんと攻撃をしかけるが、指揮する上位魔族を失った魔族は、纏まりがなく手短な騎士や兵士への攻撃を個々にする為、撤退の援護をする者たちが立ちはだかることで大きな被害にはならない。



 身体から熱が消えていくのを感じる。どうやっても力が入らない。目蓋を開けているのも重労働に感じる。なんだか寒い。自分の名を呼ぶマノーリアの声がどんどん遠くなる。少し休もう疲れているのだから、女神の力でも完治しないほどに疲弊していたのだから、少しだけ眠らせてもらおうと、葵は自分の意識が遠退く中で、そんなことを考えている。葵の意識が完全になくなる寸前に新たな声が聞こえる。


「葵! こらっ! 葵起きろ! 」


 葵はめんどうと思うほどに重い目蓋を少しだけ開けると、淡い赤紫の色彩の世界が広がる中にあお向けで寝ている。葵を覗き込むようにひとりの少女が立っている。


「アオイか? 」


 葵の身体に宿る本来は双子として生まれるはずだったもうひとりのアオイだ。アオイは腕を組んで呆れた感じに、深く嘆息をついて口を開く。


「アオイか? じゃないわよ! ほんとっツメがアマイよねぇ~ 葵はっ! 」

「悪かったな! 」


 葵は条件反射的に言葉を返すが、アオイに呆れられる理由が良くわかっていない。その表情を見てアオイはさらに呆れた顔をして口を開く。


「まさかあんた自分がサーベラスの槍で刺されたことも気がついてないの? 」

「攻撃をかわせなかったか…… 」

「あんたね~ どうするの? 」

「どうするも何も…… どうする? 」


 葵はアオイの質問に質問で返し、ふたりは頭を抱える。そうしていると景色の端から、まるで糸をほどくように景色がほつれていき、その糸が螺旋の渦を巻いて上昇していくのが、ふたりの視界に入る。


「なんだあれ? 」


 その景色の変化に葵は呑気に声を漏らす。アオイが慌てた声をあげる。


「あ!? 葵! 早く! 輪廻に移動しちゃうよ! 」

「輪廻? 輪廻って輪廻転生とかのそれ? 」

「そうだよ! けど、アマテウス様がいままで寝てて今は戦っているから…… 転生ってするのかな? 」


 アオイはひとつの疑問を口にするがその答えは葵にも答えはでないだろう。葵はアオイに声をかける。


「確か魂って材料のひとつ的な話だったよな? そう考えるとストックになりそうだな…… 」

「なんであんたそんな余裕なの? 」

「なんか気持ちが凪いでいるっていうの? もういいかなとか疲れたというか…… 」

「魂ごと疲労困憊って感じね。ってあんたこのまま死んでマニーはどうすんの! 」


 アオイに胸ぐらを捕まれ葵は目を見開く、魂だけになり、いろいろな感情が希薄になっていると気がつく。その希薄になった感情にも関わらず葵の頬を一筋の涙がこぼれ葵はむせ返るように口を開いた。


「く、悔しいな…… こんな終わりかた…… まだ死ねないよ…… マニー…… 」


 アオイが優しい微笑を浮かべて葵を見ている。葵の頬を指で拭い、両頬を自分の手を添え、優しい声音でまるで小さな弟を諭す姉のような表情で声をかける。


「そうだね。悔しいよね…… 葵は少しだけ休んでていいよ…… わたしが助けてあげるから…… だから休む前にひとつだけやってもらいたいことがあるの」


 その優しさに答えるように葵も笑むが、アオイは葵の両頬に添えていた手に力を入れて葵の顔を挟み、強制的に変顔をさせられたので葵が抗議する。


「なにふんだお! 」

「だから時間がないの! 早くやるよ! 」


 葵は死ぬ寸前で葵に宿るもうひとりのアオイに救われたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

次話も引き続きお楽しみいただければ幸いです。

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