560-終焉神ウルイドの敗北
サタナキアとワァプラが葵と白檀によって倒され、ファーマーがマノーリアたちによって倒された。魔族S級とされた一体で厄災となる魔族は戦場からいなくなり、守星連盟軍は一気に魔族軍殲滅へと舵をきった。戦場より西の星形要塞より進軍した西部部隊の一部も魔艇を迂回し、船が用意され谷を移動し東部方面のこの戦場へと参入した。魔族殲滅ももう少しと鼓舞され、騎士や兵士たちの士気も上がったが、その士気を下げ、絶望へと突き落とされるほどの衝撃が目前で起きることとなった。
「どーなってるんだよ! 」
「女神と同等の神様なんだろ? 」
「邪神は女神以上ってことかよ! 」
兵士たちは空を見上げ、そこにいる男の腕先がもう一人の男の身体を貫いていることに息を呑んだ。互いに光の線のようないし黒と金の糸の束が絡むように戦っていた邪神とウルイドが人の身体へと戻っている。人々には神同士の戦いが目でとらえられものでなかったが、神の眷属と神の力を授かった者たちには、何が起こったのかが理解できていた。葵は傷ついた身体を上半身だけ起こして口を開いた。
「ウルイド様はオレたちをかばって戦うことになったからだ…… 」
「葵くん…… 」
葵はそのまま立ち上がろうとしてよろけ、それでも立とうとする葵を介抱していたマノーリアが葵に肩をかし立たせる。サタナキアとの戦いで疲弊した葵に、ウルイドを助けに行くこともできない今、立ち上がった程度で何ができるわけではない。しかし、本来ウルイドの役目は邪神を倒すことではなく、この星が邪神の手に落ちた際に、この星の消滅を代償に邪神もろとも消滅させる事が最高神である女神アマテウスとの契約だった。しかし、葵たちがウルイドのいる竜大陸に赴き、契約変更を依頼した結果、最終手段の前に手を借りることとなったが、ウルイドの命をかける話ではなかった。邪神がウルイドの身体から腕を引き抜くとウルイドの身体が光の粉となり弾けて霧散する。皆の顔は強ばり、眼前の現実が受け入れられずにいる。そこにウルイドの声が聞こえる。
「やぁみんなごめんね。やはり僕の本業じゃないから邪神を倒すことはできなかったよ…… 」
「う、ウルイド様! 」
誰とはなしにウルイドの名を口にする。その声はさらに続けた。
「僕も少しむきになっちゃって、引き際を間違えたよ。ティール後はキミに頼んだよみんなのことよろしく、僕は元の姿に戻るよ…… 」
「王様! 」
竜族の長であるティールは叫ぶようにウルイドを呼ぶが、ウルイドからの返答はない。ウルイドに同行したティールたち竜族はその怒りを周囲の魔族たちへと向ける。
「手こずらせやがって…… 」
邪神も余裕があるわけではない身体の至るところから、青黒い血が垂れており深傷を負っているのは間違いない。しかし、万全でない今、神にですら倒せなかった邪神にむやみに攻撃を行える余裕はない。強ばった顔をして邪神を見上げる葵にウルイドの声がまた聞こえた。
「葵くん僕の力を与えた唯一のキミには期待しているよ。無の力は僕の手を離れた時点でキミの力になった。だからキミが望む力となるからね。シンプルに考えるといいよ。無とは存在しないんだから、なのに力として存在しているって不思議だろ? 何かをつかみはじめたキミなら使いこなせると思うよ…… 」
「…… 」
葵はウルイドの声に何も答えず。いまだに無の力を完全には使いこなせていない自分の不甲斐なさに歯を食い縛り拳を強く握ることしかできなかった。そんな葵の腰元が明滅するような光を感じる。肩を貸していたマノーリアも感じたようで葵に声をかける。
「葵くんのブロードソード光ってない? 」
葵はマノーリアに肩を借りたままブロードソードをゆっくりと鞘から抜くと刀身が淡く明滅している。
「これは…… 」
WBHの治療室にいる白檀のところでも同様の現象が起きていた。
「大太刀が光っている? 」
「め、女神からの呼びかけでしょう…… いよいよ目覚めの時が…… 」
「デイトちゃん! 」
瀕死の状況まで追いこまれたデイトがよろよろと治療室の入口にもたれ掛かりながら声をかけてきた。デイトに気づいたエーテルが歩みより肩を貸す。
「デイトその姿はなんだ? 」
カーラスがデイトに尋ねる。デイトがエーテルに肩を借り治療室に入ると、パワードスーツを装備する際の内鎧を着ている。
「ウルイド様が倒された今…… 我々がでなければ…… 」
「デイトちゃんまだダメだよ! 」
「エーテルの言うとおりだわたしが行く」
「わたしも援護する! 環ちゃんデイトちゃんをお願い! 」
「は、はい」
エーテルに言われ環が逆側からデイトに肩を貸してデイトを立たせる。そこへ工房に行っていた信治が戻ってくる。
「団長! 義手できたよ!」
「助かる…… 」
白檀は上半身だけ起こして義手を受けとる。信治が白檀に義手を渡すとカーラスに振り向き尋ねる。
「柊さん行くの? 」
「はい」
「僕も準備できてる! もう休憩は終わりだ」
「信治さん女神が目覚めるまでの時間稼ぎをします」
「わかった」
信治は強く頷きカーラスは環に声をかける。
「環様行って参ります」
「ご武運を…… 」
デイトが口を開く。
「は、早くアマテウス様を…… おそらく葵さんの剣にも同様の現象が起きているでしょうから、お二人の剣には元々の聖剣が融合しているので、女神が合図を送っているのだと思います」
「わかった。ベルーフすまない肩を借りれるか? 」
「いや、ワーク団長を支えてやってくれ僕たちももう出るよ」
「了解です。団長無理しないでくださいよ」
「大丈夫だこれくらい」
ベルーフはそう言ってナズナとともにカーラスたちを追って戦場へ戻る。白檀の身長でドワーフのワークに肩を貸すのは無理があるが怪力のワークは腕の力だけで白檀を支える。
「女神を目覚めさせましょう」
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