558-希釈
守星調査隊は甚大な被害を被ったことにより、前線での待機組とWBHへ帰艦し、治療と休息をとる組へと別れた。特に重傷を負った白檀はすぐに治療室へと運び込まれた。
「マニーさんと花ちゃんが戻らなくて良かったんでしょうか? 」
ナズナが白檀の薬液を浸けた包帯を交換している。それに環が返答する。
「今の白檀さんの状態は、わたしとナズナさんで担当する領分の怪我ですからね。それにエーテル様とマンテマさんがいるので万全です」
「そ、そうですよね」
白檀の状態は治療師の診断と治療で回復する領域を超えている。火傷のような裂傷は治療師でも回復可能だが、その原因が眷属神の炎である為、回復魔法やポーションですぐに回復できる状態ではなかった。薬師の投薬による治療が必要になる。さらに切断してしまった左腕は神官による再生治療が必要になるためだ。それにより、マノーリアと花が後方に下がる理由はなかったことと、マノーリアの戦力と花の後方援護を戦場に残す必要もあったからだ。
「環さんエーテル様とマンテマ女王をお連れしました」
WBHで待機していた里菜が治療室に来るなり環へと声をかける。
「里菜さんありがとうございます。後は休息しているみんなのサポートをお願いできるかしら? 」
「…… わ、わかりました。ワークちゃんだけだと大変ですからね。あちらに向かいますね」
里菜は白檀の身体中の傷となくなった左腕を見てうろたえるも治療室を後にする。戦闘に参加していない上に転移者である里菜には刺激が強すぎるのだろう。
「これは…… 」
エーテルが白檀の身体を見てすぐに沈黙して首を横に振って環に声をかける。
「環ちゃんごめんね。白檀さんの火傷は治せるけど左手はわたしでも無理かな…… 」
「え…… 」
眷属神に依頼すれば白檀の左腕は再生できると思っていたぶん環の驚きも声にならなかった。気丈に振る舞っていた環の瞳にもこらえるには多すぎる涙で潤ませている。
「鳳凰くんの炎をまとったんだもん火傷も簡単に治せる傷ではないのごめんね…… けど、白檀さんは本当の意味で鳳凰白檀になったんだね」
エーテルがそう言うと静観していた梔子がエーテルに尋ねる。
「本当の意味でってどういうことなの? 」
「みんな鳳凰くんは白檀さんを代行者にしたんじゃないのはデイトちゃんから聞いているんだよね? 」
「うん、神降ろしってやつなんでしょ? 」
エーテルが返答しさらに梔子が答える。エーテルはコクりと頷きながら続きを話す。
「今はもう鳳凰くんはいないんだ。白檀さんの力のひとつになってる。鳳凰くんは魂を希釈して白檀さんの身体の一部になってるんだ。鳳凰くんはこれをするために白檀さんに神降ろしして、白檀さんの身体が耐えられるか見定めていたんだと思う」
神降ろしはリスクがあるらしいが、あえて鳳凰が力の一部を与える代行者でなく、自身の力を全て与える神降ろしをし希釈を使ったようだ。そしてそれを受け入れたのは白檀本人である。
「……つっ…… 左手だけで済んだのはラッキーだってオレは思ってるぜ」
「ビャク兄! バカっ心配させるな! 」
「白檀さん…… 良かった…… 」
「心配かけたなけど少し休ませてもらうボロボロだ」
「はい」
白檀は強気に答えているが身体はかなりきついようで起き上がることもできない。そこへ萌と信治その後ろにカーラスが入ってくる。カーラスは入ってくるなりエーテルを見てエーテルはそれに気がつきコクりと頷いた。
「鳳凰との繋がりが消えたのはそう言うことでしたか、白檀さんご無事で」
「カーラス様すまねぇ見ての通りだ。カーラス様は回復したか? 」
「ええもう戦闘可能です。デイトがまだ眠っていますが…… 」
「そっか満身創痍ってやつだな…… 環、クー葵はどうなった? 」
「まだ戦闘中だよサタナキアと…… 」
「白檀さんはゆっくり休んでください」
「わかったそうさせてもらう。信治」
白檀が梔子と環に返答すると信治に声をかける。信治はビクリと身体を振るわせて返事をした。
「自分のせいとか思うなよ…… 頼みがある」
「え…… は、はいなんですか? 」
「お前の錬金術で左手の義手作ってくれ炎の腕じゃ生活するには不便だからな」
「わかりました。スゴいの作ります」
「フツーでいいけど…… 」
信治は、感情を優先した行為で戦線離脱を命令されたことで、役に立たなかったと負い目を感じていたのを白檀は見透かしていたようだ。信治の得意なことで負い目を薄められるように白檀は信治に声をかけたのだろう。皆の負い目や沈んだ気持ちを希釈させ、前を向かせようと、重傷でも皆を気づかう白檀は、やはり守星調査隊にとって大切リーダーであった。
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