551-届かない一刀
その容姿はいまだに柴崎の姿をしている。しかし、葵たちに向ける笑みは、まるで獲物を捕らえようと迫る猛獣の物である。
「さぁ 余興の続きをしようではないか人間…… 」
「ふざけてる」
猫が獲物を弄ぶように余裕の笑みで葵の剣を寸前でかわし、明らかに手を抜いているとわかる蹴りで葵を蹴り飛ばす。
「ならこれならどうだ! 」
邪神の直上から梔子が両手にかまえた剣に渾身の剣技を蓄え突貫する。
「派手だが届かんな、見えてないとでも思うてか? 」
「なっ! うっ! 」
「あらぁ もぉ残念」
邪神は寸前で梔子をかわし、同時に死角から妖術で攻撃を仕掛けたアイへと梔子の腕をつかみ投げ飛ばした。
「一斉に攻撃を! 」
「どうせなら己の最大の攻撃を一斉に仕掛けて見せよ! 」
白檀の言葉に邪神は挑発を見せる。
「だったらお望み通りにしてやるよ! 」
白檀は大太刀に炎を何重にも纏わせ大技を繰り出す。葵をはじめ全員が一斉に邪神めがけて攻撃を放った。邪神の周囲が爆発と砂埃が立ち込める。そこに白檀と葵が飛び込みさらに剣技を放つ。
「まぁ悪くはないが…… それではわたしを倒せぬ。絶望を思い知るが良い」
白檀の大太刀と葵のブロードソードを素手で受け止めその邪神手から青い血が滴るが、その血糸のようにふたりの剣へと絡みつき始める。
「放せ! 」
「放せと言われて話すバカがいるか? さんざん貴様らの攻撃を受けてやった次はわたしの番だ」
邪神がそう言い放ち、葵と白檀の剣に絡んだ血が熱を持つかのように黒い光を放ち爆散する。葵と白檀は爆散と共に邪神から距離を取って、改めて剣をかまえると邪神は感心したように声を漏らした。
「わたしの力でも壊れぬ剣…… お前らの剣はアマテウスの聖剣なのか? 」
「ご名答だ」
白檀が邪神へと返答するが邪神は鼻で笑い気だるそうに口を開く。
「剣はわたしをも殺せるものだが…… 残念だったな人間。貴様らの力が足りんなぁ」
「なんだと」
白檀が反射的に返答し、葵も邪神へと声をかける。
「かもしれない…… けど抗うだけだ! 」
「好きにするが良いが、そろそろ飽きてきたからな先に進むとするか…… 」
「させない! 」
「あなたに決定権はないわよ! 」
邪神が葵へと返答するが、そこへ麻衣の歌による攻撃とマノーリアの剣技が邪神へと放たれた。
「無駄なことを死にたいやつはそこへ並べ順に殺してやる」
「させるか! 」
葵がマノーリアに続きブロードソードを邪神へと突き立てる。
「バカどもが…… 少しは思いしれ…… 」
邪神がそう言い放つと指先から黒い糸のような光が攻撃に加わっていた皆へと忍び寄り拘束される。
「なんだよ! これは…… 」
「切れない! 」
黒い光は皆の身体を拘束すると鎖のように形を変えて皆を締め上げる。拘束されていないのは後方にいた環の結界の面々だけだ。
「環様我々も前に皆を助けないと」
「いけません。攻撃面で彼らより劣る我々が出れば、同様に拘束されるだけです。何か策を考えなければ」
「策なんてありません……」
代行者たちは歯噛みしながら見ているしかできないでいる。邪神はそれを見て高笑いをひとつし環たちへ聞こえるように口を開く。
「安心しろアマテウスの眷属代わりの人間たちよ! こいつらを順に殺したら次は貴様らだ! その結界がわたしに破れないとでも思うてか? 」
「………… 」
想定はしていた。邪神以外の魔族はサタナキアやワァプラですら結界領域には手を出せない。しかし、その魔族が崇拝する神である邪神に攻撃が通用していない今、防御である結界がどこまで意味があるのかと、だが、他の魔族に有効である以上結界は必要だ。しかし、皆を救出する術もない以上目の前で仲間が殺される姿を傍観するしかない。邪神はすべてを把握しているかのように笑みを深めて環たちへと声をかける。
「殺される姿を傍観する貴様らの悲痛な表情を見たいからなぁ では、最初は貴様からか? 」
邪神はもっとも近くにいた葵に目をやり歩み寄るが葵をスルーして次に近くにいたマノーリアへと歩み寄る。
「やめろ! くそっ! くっ! 」
葵が邪神へと必死に声をかけるが、抵抗虚しくただ縛りつける鎖が締めつける、邪神は嘲笑い葵の問いに答える。
「こやつを先にした方が楽しめるからに決まっておるではないか…… 」
邪神がそう言って指揮者のように指を空に動かすとマノーリアを拘束する鎖が動き始める。
「イヤ…… ううぅ…… 」
「マニー!! 」
鎖がマノーリアの身体をなぞるように走り、マノーリアの両手が頭上引き上げられ身体を吊し上げる。
「人間のメスか…… サキュバスほど楽しめるかは疑問だが…… オークよりかは幾分ましか? 」
邪神は自身の指でマノーリアの身体をなぞり始める。太ももから腰、腰から腹、そして胸その指でマノーリアの魔装衣を容易く引きちぎる。マノーリアの魔装衣は縦に軽く裂けて胸の谷間の肌が露となる。
「きゃっ!イヤ!」
「やめろ! ふざけるな! 」
「やめろと言われてやめるわけがなかろ? 」
マノーリアは身体をよじり抵抗するが、邪神の拘束がそれを許さない。それは葵も同様にただ声をかける以外にない。
「人間の武人のようだが所詮は単なる小娘か…… なかなかいい鳴き声で鳴くではないか…… ただ殺すには芸がないな…… あの男が貴様のつがいか? 人間はつがいが奪われるのも苦痛を感じるのだったな…… 」
邪神はその表情はまるで買い物に来て買い忘れがないか確認するかのような軽い口調で声を漏らす。殺意どころか悪意すら感じさせない態度だ。邪神は何かを思い出したかのような表情をし、マノーリアの身体を締め上げた鎖の先端の形状を蛇のように変えてマノーリアの身体をゆっくりと這わせる。その鎖蛇はゆっくりと首、胸、腰と何かを堪能するかのように下へと這っていく、片足の太ももへと這うとマノーリアの抵抗を嘲笑うかのように ゆっくりとその足を引き上げ股を開かせようとうごめく。
「次は貴様の体内へと這わせてやろう。つがいのオスの前ではずかしめられる姿を楽しむといいそう簡単に根をあげるなよ……? なに! 」
邪神がマノーリアの頬を指でなぞり、マノーリアと葵の悲痛な表情に高揚していたが何かの気配を感じマノーリアから一瞬にして距離を取った。するとマノーリアを吊し上げていた鎖が目映い光に引きちぎられる。さらにその光は皆の鎖も引きちぎっていく。
「貴様は! 」
「そういうの流行らないよ! 葵くんマニーちゃんを! 」
「はっ はい! 」
どこからともなく聞こえた声に、葵はすぐさまマノーリアのところへと走り出し抱き抱える。皆を鎖から解放した光が集合し形となる。
「やはり貴様かウルイド…… 貴様が出ばるということは星を破壊するつもりか? 」
邪神がそういうとウルイドは肩をすくめて返答する。
「残念だけどそれはまだだね。契約変更したからね~ 僕は彼らを助けに来た」
「貴様にしては珍しいな」
「そうだね。けど、キミの配下に僕の民をふたりも殺された…… その責任は取ってもらうよ」
ウルイドは軽い口調で邪神に返答するが、最後の言葉には怒気が宿っていた。
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