545-振り回される葵
信治のチート召喚術によって、強力な助っ人たちを召喚しアガリアレプトを倒すことに成功した葵と信治は、休む暇もなく地上への帰還が求められる。地上では今尚、邪神軍との戦闘が継続している。守星調査隊が一度後退しているとはいえ、他の騎士や兵士たちが入れ替わったに過ぎない。
「メフィスト…… お前の身体は自由になったからな次は魔族になんかにのまれるなよ…… 」
葵はアガリアレプトの亡骸を見て口を開いた。メフィストを許すつもりはないが、転移場所が悪かったメフィストには一定の同情は今も感じる。同じ日本人であっても、本来の人間性が合わないのであればこういった感情は抱かなかったろうが、メフィストは遭遇時点で半人半魔となり、人としての人間性を失っていた事を考えると、宮前の時とは違った感情が葵の中に存在する。言葉にするとチープだが、ふたりとも嫌いだが嫌いの方向性が違うような感覚で、葵自身もその感情を分ける気もないので嫌いひとくくりは変わらないのだけど、ようやくメフィストの魂も輪廻へと進み浄化され、新たな転生への準備に入るだろう。
「信治地上に戻……? 」
葵は信治に声をかけようとしたが違和感を感じ改めて信治にその違和感の原因について尋ねる。
「信治彼女たちはまだ消えないのか? 」
違和感の理由は、信治のチート召喚術により召喚した少女たちがまだいるのだ。今までは、一戦闘が終わるとそれで召喚契約が終わるようで去るように消えていくのだが、今回はアガリアレプトを倒したにも関わらずまだ消える様子はない。信治も不思議そうな声を漏らして返答する。
「うーん、ん? あ~ 戦闘は終わったから消えると思うけど…… 」
「信治が何かしらの召喚契約の定義してないのか? 」
「特にそういうのはないんだよね。あ、これは古式召喚魔法も一緒だからね。このまま邪神も一緒に倒してくれるなら楽なんだよね~ 」
信治は落ち度がないと言わんばかりに葵に返答する口調は他人事のようだ。
「そういうわけでもないんだろう? 」
「たぶんね…… 」
「役不足の英雄たちか? 」
葵たちの後方から深淵から響くような男性の声が聞こえた。葵と信治は声の方向に顔を向けると、そこには漆黒のボディスーツにロングコートにフードを被る少年が立っている。
「彼女たちのボスってところか? 」
葵が小声で信治に尋ねると信治はコクりと頷くが、その表情はニヤついている。少女たちは花道を作るようにその少年の両脇に膝をついている。葵はやれやれと言わんばかりにため息をついてから改めて信治に尋ねる。
「どうでもいい質問なんだけどさ」
「何? 」
「彼も彼女たちも姿を隠す目的でフード被ってるんだろうけど…… フツーに顔見えてるよなぁ? 」
「顔が見えてなかったら面白くないじゃん」
「はぁ? 」
葵は信治の返答に理解ができずに間抜けな声が漏れる。信治はむしろ葵の質問に呆れたような口調で返答する。
「だから~ 見えていないていでいないと、アガリアレプトは本当に見えていない感じだったけどね。僕と葵くんには見えているけどそこは演出なんだから」
「視聴者視点ってことか? 」
「まぁ そういうことかな」
「で、あの少年は何をしたいんだ? 」
「役不足の英雄って言ってたから、謎の実力者が手解きをするムーブとか? 」
「魔族倒すために召喚したのに戦うのか? 」
信治はワクワクと楽しそうに話すが、葵は余計なことにつき合わされる感覚でいるとコートの少年が口を開く。
「さぁ我力に抗うがいい! 」
「マジかよ」
コートの少年は黒い剣をかまえて葵の前に立つ。葵がいやいやながら返答する。
「別に大丈夫なんだけど…… 」
「ふっ自惚れているのか? 」
「そういうわけでもないんだけど…… 仕方ない…… 」
葵はしかたなくブロードソードをかまえフードの少年に対峙する。
「来ないのか? 」
「信治~! ちゃんと援護しろよ! 」
葵は信治を見ると完全に傍観者として楽しんでいる。葵はさっさとこの茶番を終わらせようと少年へと斬りかかる。葵のブロードソードと少年の漆黒の剣が弾き合う。
「剣さばきは悪くないが魔力の使い方がなってないな」
「あいにく魔力は借り物なんでね」
葵は剣技を次々と少年へと叩き込むが、少年は体さばきでそれをかわす。
「では、こちらからも行かせてもらおう」
少年は青紫の魔力を纏い葵へと斬り込む。葵はその攻撃にかわす事すらできずにひたすら防御をしてしのぐ、葵は魔力を紫炎へと極振りする。魔力量、魔法の技量では、少年勝てないと判断し、防御と自身の速度に魔力を使用したのだ。葵の身体が紫炎によって赤紫の炎に包まれる。葵はグラビティコントロールを少年にかけると、少年は自重によって地面へと埋もれるが、そのまま少年は葵へと詰め寄る。葵は今度は自身へとグラビティコントロールをかけて身軽にして中に舞う。葵のいたところへと少年の一撃が入り、大きな地響きと岩盤が崩れる。
「なんなんだよあの破壊力は! 洞窟ごと埋まるぞ! まともにくらったら、死んでるレベルだぞ! 何が演出だよ! 」
葵が少年の一撃に驚愕しているところへ、瞬間移動したかの速度で少年が現れ、葵へと一撃を放ち葵は地面へと叩きつけられる。
「ふっ やはり見かけ倒しもいいところだな…… 」
「たくっ! 何キャラなんだよ! 」
「まだ立てるか……」
葵が一気に少年へと接近し剣と剣で弾き合う、赤紫と青紫の淡い光とカン高い金属の弾き合う音だけが洞窟内に響く
「そろそろ潮時か…… 」
少年はそう言って葵を蹴り飛ばし、葵は吹き飛ばされて洞窟の壁へと叩きつけられる。
「チート過ぎるだろ! 倒せる気がしない…… 」
葵は血の混じった唾を吐き捨てて、腰のポーションバックからポーションアンプルを取り出し飲み干す。葵は改めてブロードソードをかまえ、目を閉じて深呼吸を繰り返す。一方少年は漆黒の剣を天にかざし魔力を開放する洞窟内が少年の魔力で満たされていき、葵は目を開き軽く口角をあげる。少年は気にせずに自身の満ちた魔力を爆発させた。
地上では今尚邪神軍との戦いが続いてる中で大きな地震が発生し、その直後地鳴りと共に、邪神軍の最前列の魔艇付近で大きな爆発が起きたのだった。
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