53-自尊心と信念
葵と白檀は式典会場の門を出て葵達の部屋に向かおうとするが、ふたりの支獣のエールとオーレがパタパタと騎士団の演習場へ行くように葵の袖をアマガミしたり白檀をつつく。
「エールどうした?」
「クーンワァン!」
「クフッ!ホーホー」
「信治達がいるのか?」
「オーレわかったつつくな!」
葵と白檀がエールとオーレについて行く、すると演習場から、金属の弾く音がする。更に女性の声で誰かを鼓舞するような声が聞こえる。
「そうです!そこですぐに身をかわして、相手の急所を狙うのです!剣は振るだけでなく突くことも可能です!そうです!攻撃がパターン化しています!相手に読まれないようにアレンジしてください!」
柊が信治に稽古をつけているが、この稽古が予定されていたものでないのは、葵と白檀にもわかる状況である、それは柊がドレス姿のままで、信治に稽古をつけているからだ。
「防御がおろそかです!魔族との戦いは競技ではありません!魔族に殺す以外の目的は持っていません!稽古で躊躇していたら、本番で必ず死にます!頭で考えるのでなく、カラダに剣技を覚えさせるのです!」
「柊さん腕がもう上がらないよ~」
「弱音を吐いたらそこで終わりです!」
柊が自身の刀で信治の剣を弾く
「信治さん剣を拾って!もしくは、腰のナイフを構えて!」
白檀が柊に声をかける。
「柊!せっかくのドレスが台無しだぞ!」
「白檀団長お見苦しい姿をお見せして申し訳ありません」
「俺は構わん!なんで着替えもせずに稽古をこんな時間に?」
柊は信治を一瞥し口を開く。
「先程の式典で守星調査隊の任命式で信治さんが呼ばれなかった事を信治さんが気に病んでいたので…」
白檀が信治に向き信治話しかける。
「俺の事を覚えているか?」
「お、覚えてますよ、騎士団団長で…文月さんお兄さんですよね?」
「お前は選ばれなかったって思っているのか?」
「ぼ、僕が弱いから…足手まといになるからですよね?」
「違うな」
「じゃあなんで!」
「お前は一昨日の勝手な行動の後に自ら皆に対して行動を起こしたか?自分でミスだと思うなら頭を下げる必要があるし、間違っていないと思うなら、自分が独断専行した理由を皆がわかるように説明する必要がある。でも、お前は何もしなかった。違うか?」
「そうですけど…でも…みんなが僕の事を責めるから…」
「お前が逆の立場だったらどうする?命をかけて戦う場で命を互いに預けた仲間が必要判断した行動でミスをするなら、周りはお前を責めなかったんじゃないか?しかし、お前の行動はみんなを思っての行動か?葵達の命を救うつもりだったのか?俺はお前が自分も戦果を上げて認めてもらいたいと思った行動に見えるけどな」
白檀に全て見抜かれたのか信治は下を向いたまま黙っている。白檀が話を続ける。
「信治、お前の名前を呼ばなかったのは、お前の意志を尊重する為だ。環がもし昨日のことで旅の同行をお前が諦めるなら公にしてしまうと、プレッシャーになるんじゃないかって、気を使ったんだぞ!まだ出発まで時間がある。良く考えろ。お前や葵の世界じゃまだ未成年で学生なんだろう?自分の生き方を決めろって無理があるよな!けどな、だからこそまだ経験の浅い今のプライドなんてゴミと一緒だ!誰だって傷つくのは嫌だよな、だから自尊心が自分の心を守るために存在するんだ。誰にだって自尊心はあるけどなお前は経験が浅いわりにちょっと高過ぎだ。俺が良いことを教えてやる。信念を持て自分がどうありたいか?だ。自分のあるべき姿がハッキリすりゃ自分もそのように行動できるだろう、他人の目もそこまで気にならなくなる。もし、自分の考えが間違っていたら修正すりゃ良いんだよ!」
葵はニュアンスは違えど白檀と考えが近いと思ったので共感できた。葵も昔くだらないプライドを優先して失敗した記憶がある。だからこそ信念を優先する生き方に共感できた。白檀が最後につけ足す 。
「ただ、どうするかはお前しか決められないんだよ。誰かに言われたからなんて、言い訳の逃げ道を作るだけだ。最後は自分が決めるんだ。」
白檀は信治の肩をポンとたたく。
「葵にできてお前にできない理由はお前が選択しなかっただけだ。自分がどう生きていくか良く考えるんだな」
白檀は次に柊に声をかける。
「柊もあまり自分を追い込むな!」
「いえ、昨日の信治さんの行動はわたしにも責任がありますので…」
「そう、力むなよ!皆無事だったんだからさ!ところでな、信治の体力向上の為に稽古するならそれはかまわないんだが…正直日数的に出発までに物になるのは厳しいだろ?」
「それは、道中も稽古は続けるつもりですが」
「それは身を守るために必要なんだけど~信治他に何か得意なことないのか?得意なもの技能を習得すれば役に立つかもって思ってな!」
「確かに白檀様のおっしゃる通りですね。信治さんが何か得意なことあるか一緒に考えてみます!ありがとうございます!」
柊と信治が演習場を後にして部屋に戻る。葵は少しだけ白檀を見直した。信治みたいなタイプは突き放すかと思っていたが、信治の感情を考慮しながら助言ができる人だった。これが若くして団長を務めている風格だろうかと葵は思う。葵が白檀に声をかける。
「信治も見つかったし、団長飲みに行きますか?」
「おっ!のってきたか?」
「団長を少しだけ見直したので!ちょっとカッコいいとか思いました。」
「お前らより、少しだけ長く男しているからな!」
「じゃあ~今日もご馳走さまです!」
「任せておけ!…おいっ!昨日いくら使ったと思ってんだー!」
葵と白檀は今日いつもよりも楽しい酒が飲めた夜だった。
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冬童話2021投稿用に、連載中のSTRAIN HOLEの世界とキャラクターを使用して短編を書いてみました。
本編を読まなくても、完結するように書いておりますが、時期的なものや状況は本編とリンクさせておりますので、合わせてお読みいただければ、より楽しんでいただけるかもしれません。
【短編】姉妹のさがしもの
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