537-後衛突貫
マノーリアの実力は大陸全土を合わせても、両手の指で収まる強者で、眷属神のデイトやカーラスを除けば、葵や白檀に次ぐ強者であり、マノーリアと梔子が拮抗している。そんなマノーリアでも単身でサタナキアと剣を交えるには荷が重すぎる相手だ。葵でなんとか互角に近い闘いができる程度にはなったが、マノーリアはまだそこに至っていない。葵とアガリアレプトが葵の作り出した谷底に落ち、マノーリアとサタナキアの一騎打ちが始まり、ダメージを受け始めたマノーリアを助けるべく後衛の皆が動き出す。
「マニーが危険よ! あたしたち前に出るわよ! 信治行くわよ! 」
「わかったよ麻衣さん! 」
麻衣と信治がマノーリア救援に向かおうとするとベルーフが声をかける。
「麻衣、信治、それなら前衛の僕が! 」
「そうです。わたしもベルーフさんと行きます」
「麻衣さんと信治さんは援護してください」
ベルーフに続き咲とナズナが前衛の仕事だと主張すると環が皆を落ち着かせるように声をかける。
「相手が相手です。マニーちゃんを助けるために全員で突貫します。各自最大防御強化を! 麻衣さんも防御強化をみんなにお願いします。ロゼッタさん聞こえますか? 」
環は更に後方にいるロゼッタへと念話を繋ぎ話し終わると皆へと声をかける。
「急ぎましょう! 」
「環様ロゼッタさんには何を? 」
環と同じ馬車に乗る花が環に声をかける。
「援護を依頼しました。サタナキアの位置を正確にね」
環が花に返答し終わる頃には上空を魔法の光が馬車を追い越しサタナキア付近へと着弾する。
「遠距離魔法か? 悪あがきを…… 如月死ね」
サタナキアは魔法攻撃をかわしつつ、マノーリアへと攻撃を再度しかける。マノーリアは薙刀を防御のかまえで凌ごうとするが、蓄積したダメージも重なり、後方へと吹き飛ばされる。マノーリアは薙刀を杖のようによろよろ立ち上がる。
「なかなか頑丈だな如月だがもう限界だろうて、神無月が戻るまで楽しもうと思ったが残念だったな」
サタナキアは笑みを貼りつけマノーリアの元まで優雅に歩いて見せる。マノーリアの支獣のアリスがマノーリアを回復しようと現れるがサタナキアがそれを見逃すわけがない。サタナキアは素早く跳躍しアリスを一刀両断し、アリスの姿は一時的に霧散する。
「回復はこれでできぬな…… 」
サタナキアはマノーリアの前に立ち長剣刃にマノーリアの顎を乗せ上げさせる。
「ま、まだ…… ま…… 」
「ふんっ 戯け ふっ!! 」
サタナキアはマノーリアの顎に当てた長剣を引いて、いきなり狙われた高圧の魔弾をその長剣で弾く。
「貴様らには腕のいい狙撃手がいたのだったな」
花の必中を長剣の一振で弾き返す当たれば確実な弾道はサタナキアに感ずかれてしまう。
「あなたたちもベルーフたちと! あたしの歌を聴きなさい! 」
「ウェポンブック!! 」
麻衣と信治がサタナキアへと目掛けて攻撃をしかけるが、ふたりの攻撃を軽々とかわしてみせる。そこへ麻衣の眷属たちが麻衣の歌に合わせて踊るようにサタナキアへと攻撃をしかけるが、当然サタナキアの敵ではない。
「雑作もない…… 少しはやるか? しかし、神無月の劣化品のようだな」
「それはどうも」
サタナキアへと攻撃を仕掛けたのはベルーフだった。ベルーフの渾身ハンマー剣技はやすやすとサタナキアにかわされる。
「行きます! 」
「数で来るか? 邪魔だ小娘! 」
姿を撹乱したナズナがサタナキアに奇襲をかけるが見破られていたようでナズナが蹴り飛ばされる。
「次は矢か? 」
ナズナと入れ代わるように咲が弓をかまえた状態で至近から矢を放ち、すぐにショートソードに持ち替え斬りつけようとするが、この人数でサタナキアをひき止めているのも限界がある。定期的に後方からロゼッタたち魔導師隊の遠距離魔法も着弾するが、サタナキアにかすり傷ひとつつけられずにいる。
「マニーさんダイジョブですか? 環様こちらです」
「マニーちゃんすぐに回復を」
花と環がマノーリアを救出する。環が麻衣と信治に念話で指示を出す。
「マニーちゃんを救出しました。結界を張ります急いで! 萌さんみんなの回避できるようにお願いします」
「了解! 」
萌が乗るSUVからビットを全て射出しサタナキアへと攻撃を集中砲火を浴びせる。ベルーフたちがサタナキアから離れ回避する。麻衣と信治も同様に遠距離攻撃でサタナキアの足を止める。
「これでもアイツダメなの? 」
「ヤバすぎるあんなヤツ! 」
「葵は何やってるのよ! こんな時に! 」
信治と萌と麻衣の攻撃でサタナキアを牽制することはできた。その間に環が結界を完成させる。環の結界に合わせ麻衣も結界作成に加わると近付いてくるサタナキアの頭上に今で以上に大きな魔法の攻撃が降り注ぐ。
「ロゼッタさんたち上がってきたの? 」
「当然でしょ! マノーリアを救出するのでしょう」
「ロゼッタは言い出したら聞きませんから…… とはいえマノーリア騎士長なら無理をしてでも助けるのは我々も同意でありますけどね」
ロゼッタたち魔導師治療師混成部隊が無理やり前線に上がってきたのだった。視認できる距離での強大な一撃はさすがのサタナキアも回避することとなる。護衛のアイズたち騎士が魔導師たちを護るように囲んでいる。
「一度体制を整えます。ロゼッタさんたち来てくれたから、ベルーフさん、麻衣さんたち 我々でなく団長やクーちゃんたちをお願いします」
「了解」
麻衣たちが環の指示により他前衛たちの助っ人に向かった。




