535-マノーリアの危機
四面魔神アガリアレプトの容姿は、間違いなく魔王メフィストだが、明らかに以前のメフィストとは違い、身のこなしや槍さばきに迷いがなく、戦闘経験も高い事が相手をしているマノーリアにも理解できた。おそらくカラダの持ち主であった青年は、すでにその存在はなくカラダをアガリアレプトの苗床として利用されたのだろう。青年の悪感情が招いた結果とは言え、転移した場所が悪く魔族を取り込んだことにより、その魂の拠り所はなく、悪感情を抱きながら彷徨い続けるのであろう。その上に魔族にカラダは奪われており、戦いながらもマノーリアは、転移者の青年を助けられなかった事に悔いを感じるが、今のマノーリアにできることは、アガリアレプトを倒し、そのカラダを自由にしてやることしかない。それで青年の魂のあり方が変わるわけではないので、自己満足に過ぎないこともマノーリアは自覚している。アガリアレプトがマノーリアに口角を上げで声をかける。
「我攻撃をよく耐えたな面白い。女神に似た人間よ名を聞いてやろう」
マノーリアは薙刀をかまえながらアガリアレプトへと返答する。
「ロスビナス皇国騎士団騎士長 如月マノーリアだ。アガリアレプトそのカラダを元の青年に返してあげなさい! 」
マノーリアはいつもの美人たる立ち居振舞いでなく、武人たる態度で答える。アガリアレプトが声をあげて笑う。
「何を言うかと思えば…… フフン♪ すでにその人間は戯けたことをぬかし邪神様に殺されたではないか、死んだ者にカラダを返す? 貴様たち人間のカラダなど魂と分離したら朽ち果てるだけではないか、こうして我がカラダとなり有効活用しているのだ。このカラダは悪くない、絶望、怨念、復讐、憎悪にまみれ、破壊というかたちでカラダを使ったのだ。その感覚はカラダに残っているからな、その感覚を感じるだけで我も滾るのだ。元の人間がこうなる前に助けられなかった貴様の力のなさではないか? 」
アガリアレプトはマノーリアを挑発するように笑う。マノーリアも助けられるものなら助けたかった。青年は出会った時には既に自身の本来の名も忘れたようで、苦しむ姿も当初はあったが、その後は魔王メフィストとしてしかマノーリアも知らないのだ。この世界で魔王メフィストがしたことは許されることではないが、償わせることは必要だとマノーリアは思っていた。半人半魔のメフィストにはその機会があっても良かったと今でも思う。転移する日本人がいる限りメフィストのような境遇でこの世界に転移する者もいるのだから、それは彼らの罪ではないのだから、この星の民として女神に与えられたマルチパープルとしてマノーリアはそう思っていた。マノーリアはアガリアレプトの言葉に唇を噛むしかなかった。マノーリアは軽く目を伏せ深く息を吐きアガリアレプトに答える。
「そうかもしれない…… それでも、あなたにカラダを奪われていれば、彼の魂は輪廻の渡口にもたどり着けない…… だから…… 」
「一部の人間は生まれ変わる事を信じてるだったか? このカラダはバカな人間が安易に感情に任せて魔族の力を身に宿したのだ。一生これで良いと思ったのだろう」
「それはわからない…… でも、一時の衝動で過ちを犯してしまったのなら、せめて浄化し輪廻へとたどり着いてほしい…… それだけよわたしにできるのは」
「貴様の自己満足かくだらん…… 死ね! 」
アガリアレプトはマノーリアとの会話に飽きたように槍の連撃を繰り出す。槍の攻撃は武器の形状から刺突攻撃が多い、一方マノーリアの薙刀は薙ぎ斬る攻撃が多い分、攻撃の先手は振りの少ない突き出しのアガリアレプトがなりやすく、マノーリアは、その攻撃を薙ぎ払い、体制が崩れたアガリアレプトに剣技を放つ。
「紫炎乱舞月光! 」
マノーリアは剣技の中でも速攻の月光を放つが、アガリアレプトはマノーリアに薙ぎ払われた槍の穂とは逆の石突側に握りを替える。
「あまいは! 」
「うっ! 」
マノーリアは大振り剣技の体制で防御が間に合わずに、石突が腹部に入り咄嗟に間合いを開け胸を抑えている。
「貴様の間合いは見切った! ここからは我の槍の餌食となるんだな」
アガリアレプトがさらに攻撃をしかける。今までとは違いマノーリアが防戦となりアガリアレプトの槍を払うのがやっとだ。アガリアレプトが自身で言いはなった通り、マノーリアの動きを先読みするように攻撃をしかけ、マノーリアに反撃の隙を与えない。アガリアレプトがさらに笑みを深めた。
「これで終わりだ! 」
「きゃっ! 」
アガリアレプトの攻撃に今までにない変化があり、マノーリアが対応できずに、まともにダメージを受けて倒れ込む。マノーリアも防いでいたと思っていたが、カラダには無数の傷と魔装衣が切り刻まれている。気づけば小さなダメージを短時間で積み重ねていた。マノーリアは腰のポーチからポーションを取り出すが、アガリアレプトがみすみすと見逃す訳がなく、アガリアレプトの攻撃が回復させる余裕も与えない。
「残念だったなこれで終わりだ! 死ねー! 何っ! 」
アガリアレプトに何かが体当たりする。
「神無月! 貴様今わざとわたしの攻撃を受けただろ? 」
口を開いたのはサタナキアだった。アガリアレプトとマノーリアの間に砂ぼこりが舞い立ち上がったのは肩で息をする葵だった。アガリアレプトはダメージを受けてないがマノーリアにとどめをさしそこなって不快そうだ。
「マニーすぐに回復を! 」
「ありがとう葵くん…… 」
「早く…… 」
「うん」
口の中を切ったのか葵が血の混ざる唾を吐き捨てる。マノーリアの危機を察知したのか、あえてサタナキアの攻撃をまともに受けてまでしてマノーリアを救った葵だった。
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