531-柊の剣
戦場へと次々と邪神軍幹部の魔族が現れ戦闘を開始した。想定通り、S級魔族は一騎打ちを好み、その自身の相手を守星調査隊メンバーを選んでいる。ここまでは守星連盟も葵たち守星調査隊も想定通りだ。強者を守星調査隊で引き受け、その間に騎士や冒険者の猛者たちと軍が、魔族の兵と魔艇への攻撃を行う作戦だが、そちらもS級魔族でないにしても、上位魔族を相手に集団戦法で攻撃をしかけているが、まだ魔艇を撃沈させるまでには至っていない。救いなのはまだ邪神が現れておらず。守星連盟軍が数で迎撃していることで足止めをし邪神軍の進攻を抑えており、東西のいずれかの戦場で守星連盟軍が魔艇への攻撃に成功できれば、一気に邪神軍を包囲し掃討戦へと移行する。邪神が現れる前になんとしても邪神軍の戦力を削ぎ落とす事が急務であった。
「お前の剣は見切った! 」
「おのれ~ そのカラダをわらわにかえせぇ~ 」
カーラスの言葉に婀娜はヒステリックに返答するがその口調はいつもの口調でなく余裕はなさそうだ。カーラスは婀娜のエストックの突きの連撃を腰を落としてかわすと、刀を足元に横凪に払う婀娜はすかさず後ろへと飛び退くと、カーラスは腰に下げた団扇を手に取り一仰ぎし、突風を起こす。婀娜はとっさに突風を避けようと上昇する。
「もらった! 疾風迅雷! 」
カーラスは翼を広げ空へと舞い上がり高速の剣技を放ち、婀娜を斬りつけた。婀娜が空中戦でカーラスに敵うわけもなく、地面に叩きつけられる。カーラスはさらに剣技を放つために急降下する。
「とどめだ! 婀娜! ダウンバースト! 」
周囲に急激な下降気流が発生し、その地面に吹き下ろす気流と共にカーラスが婀娜目掛けて刀を振り抜いた。今のカーラスは柊とひとつになり、カーラスの思いと柊の思いがその刀にのせて婀娜を追いつめる。
「ぐはっ! ブ…… ブスガラスがっ! わらわに…… わらわに…… そのカラダよこせ…… 」
婀娜は口から青黒い血を吐いてよろよろと立ち上がる。その姿にサキュバスの女王としての艶かしく妖艶な美しさはない。婀娜の表情は憎悪と嫉妬に歪みきっている。
「婀娜どんなに姿を着飾ろうと、心が醜ければ意味がない。民たちの心に醜さが残るのは生きていくなかで自身を磨かせる為だ。民の心をもてあそび自身の心の醜さを棚に上げ女王を気取る貴様にわたしは斬れぬ」
「ブ…… ブスガラスがっ! わらわ以上に美しいものなど邪神様以外不要じゃ! 」
「?!」
婀娜はカーラスに罵声を浴びせると、自身の胸をさらけ出し、自身のエストックをキセルへと戻し胸へと突き刺す。カーラスはその行動に改めて身構える。ただの自傷行為でもないだろう。婀娜は不適な笑みを貼りつけカーラスに声をかける。
「ひ…… ひ…… カーラス・テノーグ貴様も道連れだ! 」
婀娜の皮膚は青黒く染まり、一気にカラダが肥大する。コウモリの翼とネズミの尾持つ人型の魔族に変わりはないが、目付きも顔立ちもオーガに近い。
「これが本来の姿か…… やはり表面を装うだけの者だったか…… 」
「黙れ! 」
婀娜は指先は鋭い爪が延びその爪でカーラスを襲う。
「力もスピードも段違いに向上したか…… 」
カーラスが上空へと回避し、婀娜の攻撃を逃れたが次の瞬間、婀娜は地面蹴り跳び上がり、カーラスの予想を超えるスピードでカーラスを襲う。
「何?! 」
「カーラス死ね! 」
「うっ! 」
カーラスは地面に叩きつけられるがなんとか立ち上がる。
「しぶといブスがっ! 」
形勢逆転しカーラスは婀娜の猛攻を防戦一方となる。婀娜との戦いでカーラスもかなり消耗しているようで耐えるしか術がない。
「わらわをこの姿に変えさせた貴様は死あるのみだ! 」
「ぐっ! 無理か…… 」
カーラスは押しきられ吹き飛ばされる。カーラスのカラダには無数の傷が刻まれ血が流れ、カーラスは刀を地に突きやっと立っている。
「わらわに勝てると思うたか? このブスガラスが! 」
「今でも負けるとは思ってない…… さ…… 」
カーラスは口から血を流しながらも、気丈に婀娜へと笑みを見せる。婀娜はその姿を嘲笑うかのように笑い腕を振り上げる。
「わらわよりも醜いではないか! 負けるとわかっていて強がるとは、これで終わりでありんす」
婀娜は勝ちを悟ったのか口調が元に戻る。カーラスも抵抗する余力がなく歯を食い縛る。
「後をお願いしますデイト…… 信治さんご無事で…… 」
「スパイダープラント! 」
「なっ!? 」
婀娜の振り上げる腕に植物の網がかかり、次々と地面から植物が生い茂り婀娜のカラダを縛りつける。
「カーラスちゃん! 」
「エ、エーテル」
「すぐに回復を! 」
植物創成神眷属神エーテルがカーラスの危機に現れたのだった。エーテルはカーラスを完全回復させる。
「エーテル助かりました」
「ごめんね遅くなって」
「いいえ、デイトの方は? 」
「竜族のふたりに助っ人に行ってもらったからわたしがカーラスちゃんの方に来たから平気だよ」
エーテルは十代後半位の金髪碧眼のエルフ少女の容姿をしているが、眷属神でもっとも幼く見えるデイトだけでなく、大人の女性の姿をしているカーラスやサヨリに対してもちゃんづけで呼び、その口調は幼い少女ようで眷属神のひとりには思えない。さらに民たちにすら人見知りをし、特に男性とは恥ずかしいようでまともに会話ができないのだが、その力はまさしく眷属神のひとりであり眷属神唯一回復役である。
「カーラスちゃんわたしの拘束じゃ婀娜はすぐに解いちゃうだろうからお願い」
「ええ、わかりました」
カーラスは立ち上がり刀を婀娜にかまえる。婀娜はエーテルの予想通り拘束を力業で引きちぎる。
「この雑草ブスが! 」
「ざっ…… そんな事言っちゃいけないんだよ! ブスとか言ったら言った方もブスなんだから! 」
婀娜の言葉にまるで小学生のような反撃をするエーテルは、しっかりとカーラスの後に身を隠している。
「このブスどもが! 死ね! 」
婀娜がカーラスとエーテルに突進する。
「エーテル下がって! 」
「うん! 」
エーテルはカーラスの指示に従い後方に下がる。カーラスは刀を上段にかまえる。
「婀娜よせめてもの手向けだ。その醜い心を清めよ! 電光朝露! 尭風舜雨! 」
カーラスは突進する婀娜に剣技の2連撃を放ち、婀娜と交差すると婀娜の動きが止まり膝から崩れる。婀娜のカラダが元の人の女性の容姿に戻り婀娜は自分でも理解できないことが起こる。
「何故? なぜわらわが泣いている…… 」
婀娜の頬を止めどなく涙が流れる。
「これはわたしが神官騎士として得た剣技です。あなたの心を浄化しました」
カーラスとしての言葉でなく、まぎれもなく柊としての言葉だった。魔族によって家族を殺され養母を殺された上に、柊自身のカラダが婀娜に奪われたにも関わらず。柊は婀娜をただ復讐するのではなく、その心を浄化した。
「なぜだ! なぜわらわを許せる! 」
「許してなどいません。あなたを許せるなどできません。ただあなたは魔族に生まれたことをわたしは不幸に感じただけです。愛を知らず快楽に溺れ相手を蔑むことしか知らないとは心を豊かにするなど無理でしょうね。しかし、それはあなたを生み出した邪神がそうさせたのです。あなたに復讐したところでわたしの心が晴れることはありません。それに気がついたのです。せめてもの手向けです」
カーラスいや柊はそう言って刀を鞘に戻す。婀娜のカラダが光に包まれるとその姿が薄れていく。
「どうか生まれ変わる魂が人として過ごすことを祈ります」
婀娜は嗚咽を漏らし泣き崩れる。婀娜にとってみればもっとも苦しむ最後となるだろうが、それは柊の剣によっていずれ浄化される。
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