520-蒸発
谷を覆いつくした濁流は、魔族たちを呑み込み谷を大河へと姿を変えた。呑み込まれた中位や下位の魔族は襲いかかる濁流に抗う間もなく流されて行った。魔族の尖兵を一掃したが上位やそれ以上に、邪神やS級の魔族たちは、この濁流程度で倒せるような相手ではない。上位魔族は守星調査隊や高ランクの冒険者パーティーが相手をする分には、けして脅威となる相手ではないが、一般の騎士や兵士では、一体を相手にするのに大隊規模の人員で相手にすることになる。S級であるサタナキアやサーベラスは守星調査隊でなければ相手にすることはできない相手だ。邪神が自ら出てくる前にある程度の強者を倒す必要がある。
「魔艇が見えました! 」
濁流の水面を進み来る魔艇は何も何もかったかのように優々と進み来る。谷の防衛兵器部隊の指揮官が命令を下す。
「魔艇への攻撃用意! 」
「攻撃用意! 」
部隊が各々、防衛兵器を魔艇へと照準を合わせる。その部隊に対して谷の後方から声がかかる。
「援護します。魔艇からの攻撃はこちらに迎撃させるようにします。皆さんは身の危険を感じたら、離脱してください」
「了解しました。感謝いたします。ご武運を山田艦長殿! 」
防衛兵器部隊の指揮官が目の前に進み出たWBHのブリッジに向けて敬礼を行うと部隊全員が同様に敬礼を行う。
「艦長殿って…… まぁそうなんですけど…… そんなかしこまられると…… 」
萌は返答する声音は照れているのが、顔を見なくてもわかるほどである。防衛兵器部隊の皆もその萌の声に笑っている。指揮官が部隊を鼓舞するように声をかける。
「WBHに当てさせるなよ! 魔艇を一隻でも沈めてやれ! 撃て! 」
防衛兵器が号令にあわせて火を吹いた。圧縮した魔弾や石弾と合わせて魔法が魔艇めがけて攻撃を開始する。同時にWBHからの攻撃が開始され、谷を進む前方の魔艇2隻に集中砲火が浴びせられる。魔艇も抵抗するものの火力では勝てていない。
「まだだ! 撃ちつくせ! 本命の旗艦はその後ろだ! 」
そう、今攻撃している魔艇2隻は盾となっているだけなのだ。その後に一際大きな魔艇が邪神が乗船していると思われる旗艦の魔艇だ。盾となる魔艇は後方の旗艦を護るように、攻撃を受け止めている。川の上を進む魔艇は魔族たちは、船上から防戦を行うしかなく、次々と倒れていく。
「WBHキャノン用意…… 」
萌は魔艇艦隊前方2隻の状況を見て、WBH最大の主砲を発射準備に入る。WBHの船首が割れ主砲が現れ発射体制に入る。魔艇2隻が集中砲火に耐えきれずに抵抗むなしく、爆発を繰り返し速度を落とすと、何もなかったように後続の旗艦とそれに追随する魔艇が大破した魔艇をすりつぶすように進み出た。萌はターゲットをもっとも大きな旗艦に合わせてトリガーを引いた。
「発射! 」
WBHから高圧力ビームのような魔弾が魔艇の旗艦目掛けて発射された。
「そりゃ~ 簡単には当たらないと思っていたけど…… 」
旗艦の寸前でWBHの主砲は霧散する。魔艇の旗艦は黒々とした霧を纏いWBHの主砲を防いでみせた。その上空には魔艇艦隊と随伴するように黒い板状になった黒い霧が浮いている。萌が舌打ちをひとつ打った。環が萌に声をかける。
「萌さん後退してください! WBHに攻撃が集中がきます」
「了解! ビット援護して! 」
「WBH退避の援護だ! 」
萌はビットを射出してWBHの全面に展開し、WBHが魔艇の主砲射線上から退避する。白檀の指示でフライトバイクに乗る葵と麻衣、それに支獣に乗った守星調査隊の面々が全面に出てWBHを後退させる。
「旗艦の霧が広がっている…… 」
葵が思わず状況を口にしているほどにいような光景だ。黒い霧が一気に広がる。
「全員退避だ! 」
「逃げろ! 」
全員が全力で回避する。黒い霧は広がりきると次の瞬間目の前はホワイトアウトする。
「何が起こった? 」
「葵くんあれ! 」
葵の乗るフライトバイクに並ぶように自身の支獣であるペガサスのアリスに乗ったマノーリアが眼下を指差す。葵はその方向に目をやると、魔艇の旗艦を中心に谷はえぐられ周囲の水が蒸発し消えている。えぐられた谷に水が流れ落ちている。
「魔艇が谷から上がるぞ! 」
咲程の攻撃によって谷の岩壁の一部がなだらかな斜面となりそれを使い魔艇は谷から平地へと進攻の進路を変更するのであった。
お読みいただきありがとうございます。
次話も引き続きお楽しみいただければ幸いです。
いいね、ブックマーク、評価、感想、レビュー何かひとつでもちょうだいいただければ、励みとなりますのでよろしくお願いいたします。
ぜひ、下の☆印にて評価してただければ幸いです。




