519-襲う濁流
谷底は人と魔族が改めて衝突し乱戦となり、武器がぶつかり合う金属音と怒号とうめき声が、人のものなのか魔族のものなのかわからないほどに響き渡っている。
「軽傷でも無理をするな! 下がって治療を受けろ! 」
「防衛兵器部隊撃て! 」
「弓兵隊援護用意! 」
谷底の魔族に向けて一斉に攻撃がしかけられた。
「前衛部隊下がれ! 巻き込まれるぞ! 」
「守星調査隊に場所を開けろ! 」
谷底ではさらに白檀が前に出て剣技を放ち魔族を一掃する。こうなると騎士や冒険者の出番はない。
「前に出ます! 」
「頼んだ! 」
葵が白檀を追い越して前と走り出す。その葵を追走してマノーリアが走る。
「行くわよ! 葵くん」
「いつでも! 」
マノーリアが剣技を放ち周囲の魔族を切り裂き、その空いたスペースに葵が滑るように走り込み、突き剣にかまえたブローソードは数体の魔族を亡き物とする。
「あらぁ♪ 葵ちゃんとマニーちゃんやるわね♪ クーちゃん負けてられないわぁ♪ 」
「アイさんはそういうと思った! 」
少し離れた場所では梔子とアイが連携して魔族を倒していく、下位や中位の魔族では彼らの敵ではないが、数が多い分前衛ち中衛が交代で当たっている。ベルーフとナズナや咲にジンジャーそして白檀がまた入れ代わる。その後方で花と信治と麻衣が援護攻撃を行い、環が全体への支援を行う。しかし、邪神軍の尖兵たちに対しての絶対数が少ないのだ。谷底を埋め尽くし雪崩来る魔族に対して、守星調査隊を代表とする強者の精鋭部隊だが、騎士や兵士それに冒険者から選抜された猛者たちと言えど、その数は数百人程度である。
「伝令! 後方より準備完了とのことです! 」
伝令の騎士が魔法具で谷底へと呼び掛ける。
「全員後退! 谷から上がれ! 急げ! 死にたくなければ谷から上がれ! 」
誰とはなしに周りの者たちへと声をかける。白檀が守星調査隊へと指示を飛ばす。
「騎士や冒険者の撤退時間を稼ぐぞ! 」
「了解! 」
守星調査隊の馬車と麻衣や信治が騎士や冒険者の前に出る。魔族たちに一斉に遠距離攻撃と煙幕を浴びせる。
「でわ、わたくしの出番ですわね。アイお姉様との共闘を我慢しての作戦ですの魔族ども蹂躙してあげますわよ」
ジンジャーがウィップソードから召喚銃に持ちかけて召喚獣数体一気に呼び出し魔族を足止めする。
「よし! 上がれ! 」
守星調査隊も各自が支獣やグラビティコントロールで谷の上まで回避する。西より地鳴りのような音が谷を支配する。魔族たちは敵を見失いながらも、谷底を進攻することしか命じられていないのか、地鳴りも気にせず前へと進む。その魔族たちに襲ったのは谷を走る濁流だった。
「ウギー! 」
「クガー! 」
「グギャー! 」
下位や中位の魔族たちに回避する能力はない。数十メートルにもなる濁流にのまれていく。海洋系魔族でなければ生き延びることはできない。この作戦を行うために谷底を精鋭部隊のみで防衛していたのである。星形要塞周囲へと作成された堀に流し込まれた大河の水をそのままこの谷へと流したのだ。されに水性系魔法適性者による水力を強化まで後方で行ったことで、単なる水の流れではなく魔法的な攻撃を襲い来る濁流はふくんでいるのだ。これにより数による邪神軍の不利を覆す作戦である。
「上位や魔艇は倒せないにしても、数の脅威は減らせますかね」
谷の濁流を見下ろしながら葵は感情のない言葉を吐いた。魔族とはいえ、このような作戦を考えた自分が生き汚いと思ってしまう。しかし、魔族はそのような心を持たない生き物だ。白檀がそれに答えるように葵に返答する。
「気にするな水位が下がったらすぐに作戦再開だ」
「了解です」
谷は一気に大河へと変貌したのであった。
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