503-チート魔弾砲
邪神軍の魔艇が上陸してから、半日がたとうとしていた。邪神軍は、上陸後に魔艇を連結させ進攻を止めた。上陸した海岸付近を拠点にするつもりなのか、一時的に次なる作戦行動への準備なのか、人間たちには知るよしもない。邪神軍の進攻が、中位以下の魔族がほとんどの為に戦闘中の被害は想定よりも少ない。しかし、上陸後に斥候隊が巻き込まれた魔艇周囲の地形を変えるほどの広範囲への攻撃と、葵たちがいる西側谷への強大魔弾の直線的な攻撃での被害が最も大きい、しかしながら、西側への魔弾攻撃はデイトが身を挺して守ったことにより、その攻撃に対して被害は小さなものとなった。西側谷の魔弾の攻撃から数時間後、次は南方に展開していた部隊へと魔弾の攻撃が火を吹いた。
「萌、その後、南方部隊の情報は? 」
白檀が後方WBHの萌に念話で声をかける。
「甚大な被害が出ているそうです。南方皇国軍とオーシャンガーディアン陸上騎士団がかなり被害が出ているみたいです。ただし、エオローさんとラーグさんの部隊は健在で、フォレストダンジョン軍やエーテル様の迅速な対応で、回復可能な人たちは助けられたみたいです。残存のオーシャンガーディアン陸上騎士団とマーレさんが率いる魔導師隊も合流し、再編成を行っているようです。ただ…… 魔弾の直撃で回避や防御ができなかった人たちは助けられなかったみたいです…… 」
萌の語尾は小さくなる感覚を念話でも白檀は感じるが、魔族との戦いで全滅していない分救いと言える。
「不幸中の幸いってところか…… 萌、気持ちはわかるが気落ちしている余裕はないからな、必要なら環あたりに精神安定の魔法をかけてもらえよ」
白檀は優しく萌に返答すると、少し間を置いてから萌は答える。その萌の感覚は、何か決心したというか凛々しい感覚を感じる。
「ありがとうございます。でも、大丈夫です! わたしがみんなと戦う事を選んだので! 」
「そうか、萌も強くなったな! 」
「わたしは守星調査隊母艦WBHの艦長ですからね♪ 」
「じゃあ~ 艦長頼むぜ! オレたちの帰る場所を守ってくれよ! 」
白檀が萌との念話を終わらせると、続けざまに信治が全員に向けて念話をつなげる。
「邪神軍のチート魔弾の解析ができた」
信治は後方からの支援攻撃をしていたことによって、おそらくオートで攻撃を行いその間に解析をしていたようだ。葵が信治に尋ねる。
「解析……って、何がわかった? 」
「ひとつはみんなわかっているだろうけど、3時間から4時間の準備時間が必要みたい。魔力の充填期間なのか、砲身役の魔艇の耐久性の問題なのかはわからないけどね」
「まぁ 三度の攻撃間隔を考えるとそうだろうからなぁ けど、そう思わせておいてって事はないのか? 」
葵は、信治へと素朴な疑問を投げかけると、信治はその裏付けがあるのか鼻を鳴らし返答する。葵も慣れてはきたが、こういう時の信治は少しだけイラッとする。許容範囲なので葵は先を促す。
「今まで戦った魔艇の耐久性だったり、魔艇を連結させている理由だったり、魔族の習性なんかも考慮した上での結果だから信憑性は高いと思うよ」
「今までの戦いからの統計データってとこだな? 」
「だね。まぁ あのチート魔弾を3回しか撃ってないから現段階でってとこだけどね。けど、あの魔弾をこの後、何度も防御するなんて無理でしょ? どうにかして無力化しないと」
信治の言うとおり、デイトが上位眷属を盾にし、さらに防壁と結界を顕現させても、戦線離脱するほどの負傷した。戦線を後退させ魔弾対策をしてはいるが、損害をゼロにすることは厳しいと言える。葵が信治に尋ねる。
「魔弾を撃てないように攻撃を仕掛けるってことか? 」
「今のところ騎士や冒険者で戦線維持できているなら、僕たちは先に進むでいいんじゃない? 」
「簡単に言うな~ 」
「このままこの魔族たち相手にしてても消耗するだけだし、チート魔弾また撃たれたらそれこそ厳しいでしょ! 後、少なく見ても3時間はあるからすぐにはじめないと」
「信治の言うとおりなんだけど、動いても動かなくても両方ハイリスクだな」
葵は苦笑しながら信治の言葉に賛同する。手をこまねいていてもしかたない。麻衣がふたりの会話に割り込む。
「防御って性にあわないのよね。どうせなら攻撃的に行った方がいいんじゃない? 」
「麻衣に同感だな。けど、全員で行くのはダメだ! リスクがでかすぎる」
白檀も攻撃には賛同するが守星調査隊全員での攻撃はできないと条件をつける。白檀は続ける。
「魔艇攻撃を仕掛けるメンバーはオレが決める。つーか予想はつくだろうが、神様たちの加護か力を授かったヤツだけだ! いいな! 」
白檀の念話の声音は真面目なものだ。これだけは譲らんと言わんばかりの声音だ。アイが艶のある声で白檀に迫るように声をかける。
「あら~ 残念わたしはお留守番? 」
「そーだ! これだけはアイさんでも譲らねー 」
「白檀は意地が悪いわね♪ 」
アイも魔弾無力化への攻撃に参加を口にはしているものの、白檀の判断を理解しているからか、そこまで絡まなかった。次はマノーリアが割って入る。
「白檀お兄様、わたしはそのメンバーに加わって良いと言うことですよね? ダメと言われても行きますよ」
「ああ、出し惜しみできないからな、花がキツくなるが治療師隊も追いついたんだろ? 」
「ええ、合流しています」
「よし、マノーリア、葵、クー、麻衣、ナズナ、信治、合流次第、魔弾砲身と推定する魔艇攻撃を開始する。時間がないすぐに行動してくれ! 」
「了解」
「環、後の事は頼んだ」
「承知しております。白檀さん」
「前衛はベルーフに任せる。騎士団と冒険者と連携してくれ」
「了解です」
白檀が指示をだすと各々がそれに答える。皆が念話を切ろうとすると、そこにさらに念話に割って入るものがいた。
「わたしも同行しますよ」
「デイト様大丈夫なんですか? 」
葵がその声に反応するが、デイトでなくマノーリアが治療師として答える。
「デイト様は回復してお元気よ。でも、デイト様、鎧がもう厳しいのでは? 」
デイトとマノーリアはすぐそばにいたようだ。デイトが答える。
「問題ありません。新しい物を用意するだけです。顕現上限がある事を考えるとわたしの装備にするのは、忍びないですが、致し方ありません。そちらに合流するまでには装備可能ですので、マノーリアさんそちらに向かいましょう」
「はい、白檀お兄様デイト様とそちらに向かいます」
守星調査隊選抜メンバーによって、邪神軍の強力な魔弾砲無力化作戦を行うこととなった。
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