502-三度目の大爆発
葵とベルーフによって谷に築かれた石壁は、魔族の進攻速度を遅らせ、進攻路を限定的にする結果に乱戦を防ぎ、力で勝る魔族を集団で攻撃をすることで、一般の騎士や冒険者たちの最小限の被害で対応できている。救いなのは、上位の中でもS級と、警戒している魔族の幹部たちが、いまだにこの戦場に現れていないことが、不気味で仕方がない。一騎当千のサタナキアやサーベラスがここに来れば葵や白檀はもとより、守星調査隊は他の対応ができなくなる為、戦局を一変するような強者である。
「サタナキアやサーベラスが現れたらすぐに報告をしてくれ! 守星調査隊が前に出る」
「了解だ! さすがにここにいるヤツらは武をあげる為に無謀な戦闘をするヤツはいないだろうからな」
白檀が周囲の騎士団や冒険者のリーダーに声をかけると、一番近くにいる冒険者リーダーが返答を返し、白檀は拳を向けて返答すると、守星調査隊前衛に指示を出す。
「今は、騎士団と冒険者に任せて一時的に下がれ! 」
「魔族は一気に仕掛けると思いましたが、そーでもない感じですね」
白檀の横に葵が並び現状の感想を漏らすと白檀が苦笑をして返答する。
「弄ぶつもりと思った方がいいだろうな、中位以下の魔族は使い捨てのように消費して、あの威力の魔弾に巻き込むのもなんとも思っていないんだからな」
「そうですね。人間なら兵の消耗を気にしないなんて愚策としか言えないけど、魔族ですからね。あのファーマーってヤツが簡単に生み出すんでしょうからね。こちらの消耗を待っているのかもしれませんね」
「そんなところだろうな」
白檀が肩をすくめて返答し、ふたりは前衛裏手の簡易的に作られた休憩スペースに歩いていく、休憩スペースといっても、物資を載せた騎士団の馬車を中心に冒険者が荷物を置き場にしただけだ。天幕や椅子があるわけでもない。最前衛の為そんな物を用意してもいない。怪我などで離脱が必要であれば、さらに数十メートル後方の中衛か後衛まで下がり、回復する事になる。持久戦となるため前衛に戦闘食などの食料やポーションを初めとする医薬品を持ち込んでいる。ナズナのように前衛でありながらヒーラーとしての役割を担う者は、騎士団や冒険者にも少数だが存在するが、その者たちだけに頼れないのが現状である。ナズナは眷属神の加護を授かっている為、フロントヒーラーとしては絶大な力を持っている。
「団長、葵お兄ちゃんお疲れ様です」
「ナズナ前衛全員に回復か? 」
「はい、騎士さんや冒険者さんにお任せするのに一度完全回復していただこうかと」
白檀がナズナに声をかけるとナズナはハニカミながら返答する。その手元には寄せ植えした小花がぎっしりと花の咲いた植木鉢を抱えている。それに気がついた葵がナズナに尋ねる。
「その植木鉢は? 施設で育てていた植木鉢だよね? 」
「うん、WBHの自室に飾ろうと思って持ってきたんだけど、決戦場が谷になるって聞いて念のために持ってきてたの、植物が少ないとその分借りられる力も減っちゃうから」
「植物がすかないと精霊の数が減るからか? 」
「うん、けど、ここにも苔や草木もあるから問題はないけど、それに…… さっきのデイト様が守ってくれなかったら、草木も焼かれてたから、少し厳しかったかもしれない。デイト様の怪我をわたしがエーテル様の力で治せれば良かったのに…… 」
ナズナは抱えた植木鉢の花見るように下を向いて話していた。それは怪我をしたデイトを心配しているようだ。
「デイト様の事は薬師のナズナの仕事の域を超えていたさ、マニーや花の治療師か環さんの女神代行者の仕事だよ」
「そうだね」
「ナズナもしっかり休めよ! 」
「うん」
3人はそのまま休憩スペースに向かうと荷物の木箱を椅子に他の守星調査隊の前衛メンバーが休憩をしていた。葵が声をかける。
「お疲れ! 」
「お疲れ! 」
「お疲れ様~」
皆が葵たちを視認し返答する。アイが自分の座る木箱の隣を軽く叩いて葵に声をかける。
「葵ちゃんお疲れ様~ ここどうぞ~ 」
「どうも! 」
葵はアイの隣に座り、白檀がベルーフの隣に座り水を受け取っている。ナズナは梔子や咲が座っているところに混ざっていく。アイが葵に水の入ったビンを渡す。
「はい、お水♪ 」
「ありがとう、しっかしアイさんは、まだ余裕だよね」
「そうでもないわよ♪ もうお腹いっぱい! 」
「激しく同意! 」
アイが気だるそうに言って手をヒラヒラさせ、葵も水を一気に飲みほし深く息を吐き出して同意する。葵がアイに尋ねる。
「けど、アイさんこんなに強いのに霊島サヨリ奪還作戦やストロングスピアの結界解除の時はいなかったよね? あの時もいてくれたら、オレ楽できたのになぁ~ 」
葵は少しだけ恨めしそうにアイに声をかける。アイは葵のその表情を見てケラケラと笑い返答する。
「わたしだって~ わかってたら参戦してたわよぉ~ タイミングが悪かったって感じねぇ~ 」
「そうなの? 」
葵は、冒険者なので今回のように守星連盟より、大陸総動員体制が発令されたから、アイが参加したと思っていたがそうではないようだ。アイは葵の疑問に返答する。
「ほら、うちの子たちのパーティーがあるって言ったでしょ? その子たちの引率で長い間ベスパに行っていたからね~ 魔海島の時は、皇国で冒険者登録をしているわたしたちには義勇兵の話しはなかったし、その後はベスパの街道沿いをあなたたちが通った後のモンスターの後処理の仕事で稼がせってもらったわよ~♪ 」
「あ~ 竜大陸行った時の」
竜大陸へ向かうために守星調査隊が街道で遭遇し倒したモンスターの処分は、ベスパ北方三国同盟が冒険者に仕事を斡旋するのに都合が良かった為放置していった。アイはさらに話を続ける。
「環ちゃんと白檀が守星調査隊を創設したのは旅の中で耳にはしていたけど、わたしが参加するにはうちの子たちのパーティーをせめてBランクにはしないとまずいから、そっちに力を注いでいたのよ~ 」
アイは風俗店や飲食店を経営しつつ、冒険者として自立したい若者を募り冒険者育成パーティーを運営している。そのパーティーの育成していたため、今まで表舞台に出てこれなかったようだ。
「あなたたちは信治ちゃんの作ったあの萌ちゃんの飛行艇やデイト様の速度で移動するから、守星調査隊が来ているって聞いて、行ってみればもう他に行った後だったしね~ ストロングスピアにも行ったのよ~ それでも葵ちゃんに会えなかったんだからぁ~ お姉さんを弄んでぇ~ いけない子ぉ 」
アイは艶のある甘えるような声を出して葵の腕を指でなぞる。
「弄んでってその時点でオレアイさんのこと知らないしね」
戦闘中の一時の休憩だと言うのにアイの誘惑は婀娜でなみで、葵はわざと騙されてしまおうかと思ってしまう。
「そんな小さいこと言わないでぇ♪ 」
「いやいや出会ってないって小さくないからね」
「そう…… 」
いつものようにふざけているアイが葵に返答しようとして狐耳をピクリとさせる。それは正面にいた白檀も同様で次の瞬間白檀が皆に声をかける。
「全員防御体制を! 」
白檀の声が響くと地鳴りが聞こえ大きな地震が訪れる。白檀が皆に声をかける。
「皆問題ないな」
地震が発生したが周囲に大きな被害はない前方をみても、騎士団や冒険者も魔族との戦いを継続をしている。白檀は萌に念話で声をかける。
「萌、そっちからさっきの地震の原因わかるか? 」
すると萌が白檀に答える。
「はい、正面一時方向で爆発が確認されてます。その影響です。 威力から先程の攻撃と同様のです」
「一時方向…… 南の挟撃組が攻撃を受けたか? 」
2回目の爆発は葵たち東側より迎撃隊でなくみなみ西口展開していた挟撃隊のようだ。
お読みいただきありがとうございます。
次話も引き続きお楽しみいただければ幸いです。
いいね、ブックマーク、評価、感想、レビュー何かひとつでもちょうだいいただければ、励みとなりますのでよろしくお願いいたします。
ぜひ、下の☆印にて評価してただければ幸いです。




