490-難攻不落の砦にするために
時間のない中で無謀とも言える葵の提案は通り、突貫工事で進められた。誰もがロスビナス皇国の領土に完全結界を作ることを望まない事から、上官と時間の許すものはその工事へ志願していた。特に土魔法を使える者はポーションが支給され砦の土塁建造に勤しんでいる。
「東側から最優先で作業を行え! 魔力が減ったものは無理せず休憩だ! ここで精魂つきて決戦で使い物にならなくなったら目も当てられんぞ! 士官たちは無理させるなよ! 」
砦の修正の現場を指揮する上官が各下士官に指揮する。上官は葵がフリーハンドでざっと書き足した見取り図に目を落とす。
「特務騎士殿はずいぶんと変な形の砦に直させる…… 」
「何か策があっての事なんでしょう。新しいモノはなんでも最初は奇妙なもんですよ! 」
隣で聞いていた女性の部下が能天気に返答し、上官が苦笑して答える。
「まぁそうなんだろうが…… 」
葵たちは東側城門の外に出て作業を行っている。
「城門の門は100メートル程後退させてそこまでは傾斜をつけて下さい」
「はっ! 直ちに! 」
葵が指示を出して士官たちが各担当場所へと向かっていく、麻衣が葵に声をかける。
「せっかくの元の門を壊してあえて引き下げるの? 」
「そうだな、そうすることで、門に進攻すると左右の城壁上からは一斉攻撃ができるだろう。それに門までを傾斜をつければ魔族だって下位の魔族なら多少は速度も鈍くなる」
「そうね。そこに集中砲火を浴びせるわけね」
東門を下げる事で左右の城壁が突き出たような形状となり、それによって東門に迫ろうとする魔族は左右の城壁からの攻撃を受けるがその攻撃からの遮蔽物はない。そして他の南北も突き出た形状にし、下げた城壁の付け根には南北は門を封鎖した。そして西側も同様だが門を用意し、砦の周囲は星形の形状の城壁となった。
「五稜郭のような形ですね」
歴史に詳しい里菜が葵に声をかける。
「五稜郭って函館にある星型のお城だっけ? 」
萌が話に加わる。
「正解! まぁ歴史に学ぶって事だな。星形要塞は長距離の大砲が開発されるまでは優秀だったみたいだからな」
「砦周辺の死角がなくなる形状って言われてましたよね。その大砲に変わる邪神軍の遠距離攻撃はどうするんですか? 」
里菜が言うように星形要塞は各先端の城壁から左右の先端までを見渡せる為、死角をなくせる構造となる。大砲などの遠距離攻撃の発展によってその構造の有能性は近代では陰に隠れてしまった。
「風魔法の結界がこの世界にはあるし、城壁の各先端の信治の迎撃用の主砲やらミサイルランチャーの設置をしてもらってる。こちらも防衛兵器はありったけ用意するさ! それにこの堀にも水を流す。魔族が水を嫌う習性があるらしいからな」
砦の周囲は川や地下水によって堀にも水が流し込まれる。東門以外は水浸しの堀を越えなければ砦に侵入は困難である。ちなみに西門は跳ね橋に変更し退却時のみ橋として活用する事にした。葵がデイトに声をかける。
「堀に流した地下水ってどのくらいありそうですか? 」
「この地下には水脈が多くあります。掘ればいくらでも湧くでしょうね」
「それは使えそうですね。ちなみに海まで行けます? 」
「この南側に流れている川を枯らして堀を経由させて地下水と川の水を足せば問題ないと思います」
「じゃデイト様お願いできますか? 」
「水攻めでも行うつもりですか? 」
「まぁ水攻めでどれくらい魔族が倒せるかわからないですけどね。水魔法は川があった方が都合良いだろうし、魔族の導線を作るには損はないかと思って」
「大きな戦果は期待できませんがやらないよりはましでしょうね。わかりました。そちらはわたしが作っておきましょう」
デイトによって砦の南側を流れる大河をせき止め砦の堀を通り邪神軍進攻上に大河を作ることも計画に盛り込まれた。環が皆に声をかける。
「わたしや白檀さんも、本音では完全結界などしたくはありません。なんでもかまいません。この砦を死守できる知恵があれば追加で行える事はしていきましょう」
「兵や騎士たちでやれることは案だけで構わない。オレたちはこの後先行して戦場にも手を加える必要があるからな」
白檀も環に続いて皆に声をかける。この砦が陥落すればロスビナス皇国は大陸防衛の犠牲となる道を選ばなければならない。この砦に集結した者たちは誰もがそれを望んではいない。
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