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【祝! 完結】STRAIN HOLE ~よくあるフツーの異世界でフツーに騎士になりました。だってフツーでもそこそこ楽しめますよね? ~  作者: 橘 弥鷺


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488-狂信者と悪徳商人の葵

 葵たち守星調査隊は集結地点へと到着していた。


「WBH降下開始着陸に入ります。仮説の基地とは思えないね」


 萌が着陸付近の様子を見て誰とはなしに声を漏らす。葵がブリッジの窓から下を覗き込んでそれに答える。


「ひとつの都市ができたみたいになってるよな」

「最前線の砦だからね。もしもの場合はロスビナスシティを守る最終防衛戦になるわけだからね」


 葵の隣にいたマノーリアがさらに葵の言葉に返す。別の窓から見ていた麻衣が口を開いた。


「みんなが本気ってことよね。これだけの人がいるわけだし、戦う人だけでなく支援をする人たちも来てるんでしょ?

 そうなら生活拠点も必要よね」


 萌の隣に座っていた環が麻衣に答えるように口を開く。


「そうですね。砦の内陸側は後方支援者や商人の方々の区画になります」

「前回の戦闘の時にデイト様が地形操作に更に手を加えた感じですね」


 葵が環に返答する。葵の言うとおり、先日の邪神軍尖兵部隊との戦闘時にデイトが行ったのは東西に横断する谷を作り、邪神軍進路を谷底を進ませるだけだった。今はその谷の西側砦の壁下には深い堀が作られていて、跳ね橋がかけられている。谷もデイトの作った谷以外に、南北に2本追加され計3本の谷が横たわっていて谷の東側の途中で谷が合流していて、砦にたどり着くには谷底を進むか大きく迂回するしかない。葵たちが目を細めて眼下の景色を眺めていると環が捕捉するように声を漏らす。


「ここからでは見えないですが、邪神軍が迂回しようとしても東西にも谷を設けてあるので、皇国の湾岸線から上陸すれば、ここを通る事になるように設計しています」

「この短期間ですごいですね。デイト様ならまだしも…… 」

「守星総動員体制後ですからね。土魔法適性の方には尽力していただいたと思いますよ」

「それにドワーフも降りてきているだろうしね」

「ベルーフ、ドワーフがか? 」


 ブリッジに信治とワークと入ってきたベルーフが話に割って入った。ドワーフは山脈を護る民で、そう簡単に標高の高い山脈を領土とするロックオーダー王国の国外、すなわち山から下山しない人種である。ドワーフのベルーフとワークが特殊であるのだ。


「守星総動員体制下なら下山し共に星を護るのがドワーフの定めだからね。前もそのあたりの説明はあったと思うけど? 」

「確かにそんな話しあったな、ベルーフ以外が頑固職人のイメージ強くて山から下りるイメージがなかったな。ドワーフの人たちが手を貸してるならこの短期間で仕上がったのも納得だな」


 デイトが生み出した種族であるドワーフは、大地の力を強く持ち合わせており、固い岩盤だろうと砕く事を可能で、鉱石から魔力に似た力を得ている。その力によって鉱石などの資源を探査する能力や小柄な体躯に似合わない程の怪力とそれに反して手先の器用さを持ち合わせた種族であり、土魔法の魔導師以上の能力を平均的に持ち合わせている。


「着陸完了! デイト様はにわ騎士たちに係留作業お願いしていいですか? 」


 萌が着陸したことを皆に告げ、デイトにはにわ騎士を借りる旨を伝える。


「わかりました。10体ほど顕現させます」

「ありがとうございます。じゃみんな下りて大丈夫だよ! 」


 萌が下船許可を出す。環が皆に声をかける。


「では、一度本陣司令部に向かいましょうか」

「環さん基本的にはWBHの自室を使うでいいんですよね? 」


 葵が環に尋ねると環がコクりと頷いて答える。


「そうですね。いつ出撃になるかわかりませんし、荷物の移動も手間ですしね」

「じゃ最低限の物だけ持てばいいか」


 葵は、ちょっとコンビニ行ってくるくらいの軽さの声音で返答し、自身の装備や携行品を確認してブリッジを降りていく、WBHの外に出ると人だかりができている。出迎えにしては異様な光景だと葵は思う、今までにも訪れる街で歓迎がなかったわけではないが、今日は何かが違うし、そもそもここは仮設とは言っても基地なので、騎士や兵士は手を止めて出迎えなどに来ないはずだが、よくよく人だかりをみれば、群がっている人々のほとんどがドワーフである。


「オオー デイト様~ 」

「我々の美神よ! 」

「デイト・ア・ボット様~! 一目お顔を拝見させて下さい! 」


 信仰の熱いドワーフたちのようで、デイトを拝みたいようで群がっているようだ。葵が船内の通路を振り返るとデイトが環と歩いてくるのが見え、葵がデイトに声をかける。


「デイト様~ 熱狂的な信者が待ってますよ! 」

「そうですか、わたしの顔は以前見ていると思います

 が…… 」


 無表情のデイトだが、一年以上の付き合いになる葵にはその微妙な違いがわかる。今のデイトは嬉しそうだ。デイトが外に出ると軽く手を上げて出迎えているドワーフたちに視線を向け品良く手を振る。


「オオー! デイト様~! 」

「ギャー デイト様と目があったぞ! 」

「長生きはするものじゃ! 」

「デイト様! こっちにもこっちにも! 」


 デイトが歩くと群衆たちは道を開ける。さすがにおそれおおいのかデイトに一定の間隔を開けてそれ以上は近付かない。


「なんと美しい! 」

「か、かわいい~ 」

「い、愛おしいぞ!」


 熱狂的な信者が信仰対象の神を目の前にしたのだから、いろいろと感情的になるのは葵にも理解できるのだが


「かわいい…… 愛おしい…… ねぇ」


 葵は群衆の一部が口にしたことを口の中で転がすように呟く、デイトの外見は15歳前後のかわいらしい少女の姿であるが、信仰する神に対しかわいいとか愛おしいという感覚は理解ができない。それまで信者に見えてドワーフたちが、出待ちするアイドルファンにしか見えなくなってきた。


「デイト様布教活動していいですか? 」

「布教活動ですか? 」

「このままでは彼らも仕事が手につかないでしょう? 」

「そうですね」

「じゃそう言うことで、信治! 」


 外にベルーフと出てきた信治に声をかける。


「どうしたの? 葵くん」

「ドワーフたちに布教活動しようと思って」

「布教活動…… 」


 信治には珍しく怪訝な表情で葵におうむ返しで尋ねる。隣にいたベルーフがカラカラと笑い葵に声をかける。


「小遣い稼ぎの間違いじゃない? 」

「ぁ~ そういことね」


 ベルーフの言葉で信治も納得したようだ。葵はベルーフにひとつ尋ねる。


「この信者たちはロックオーダーじゃこうならなかったよね? 」

「あの時はデイト様は霊峰神殿の巫女として来られたからね。気づいた人は一部だし、ほとんどの人が神の名を語る別宗派の巫女って見てたんじゃない? その後で正式に発表があったんだと思うよ」

「なるほど」


 大陸全土で最高神を信仰するのは変わらないが、国や人種によって眷属神の信仰は違う。日本で言えば同じ神社でも奉る神が違ったり、仏教の宗派が違うような物だ。特にデイト・ア・ボット信仰は、ドワーフ以外の人種は、霊峰神殿を聖地としてデイト・ア・ボットは巨人の神として奉られているが、ドワーフたちが信仰するのは、ロックオーダー王国王都を聖地とし、その神殿に奉られる少女の姿の女神像のデイト・アボットである。葵たちが神聖な信仰心で小遣い稼ぎを悪巧みしている側に麻衣がやってくる。


「悪徳商法みたいじゃない」

「別に適正価格で神様本人の許可をとったし大丈夫でしょ! 信治デイト様フィギュアを何体か作ってくれ! 」

「仕方ないな~ 」


 信治は呆れるように言っているがまんざらでもなく、リュックから材料となる石の粉を出してデイトフィギュアを作り出す。


「呆れるわね~ どうせならファンたちに喜んでもらわないとダメね。あんたたちの悪行を少しは薄めてあげるわよ! 感謝しなさい」

挿絵(By みてみん)

 麻衣がそう言ってフライトバイクを呼び出し簡易の音響設備を整えデイトに声をかける。


「デイト様! ファンたちに祝福の舞を! 」


 麻衣がデイトに声をかけると麻衣はデイトを讃える歌を歌いはじめる。デイトは言われるがままに麻衣の歌に合わせて舞を披露する。


「おお! なんと美しい! 」

「デイト様自ら舞われるとは! 」

「こ、神々しい! ここ死んでも本望じゃ! 」


 信者たちは口々に歓喜の声を漏らす。ちなみに麻衣が歌っているデイトの歌は神秘的な感じでなく、比較的テンポの良い歌でそれに合わせて舞うデイトも信者の言う神々しいさとはかけはなれている。


「どう見てもアイドルの路上ゲリラライブにしか見えない…… 」


 葵は苦笑を浮かべていると隣の信治がもテンションが上がってきたようだ。


「葵くんもういいよね。楽しそうだから僕も混ざってくる! 」


 信治はそう言ってドワーフたちに混ざり両手にはサイリウムを持ち、いきなりオタ芸を披露して見せた。すると周りにいたドワーフたちが信治に視線を向けて場がしらけるように見えた。


「信治やりやがった」


 葵は思わず口から漏れ嘆息するが、ひとりドワーフの言葉に呆気にとられる。


「おぬし、人なのにデイト様への返礼の舞を踊れるとは大したものじゃ! ワシも負けておれん! ドワーフの意地じゃ! 」


 信治はかまわず舞っている。その隣でドワーフが腰に下げていたクラフトマンハンマーを2本両手に持ってハンマー先を光らせサイリウムのように光るハンマーでオタ芸に似た舞を踊りはじめる。


「へっ…… 」


 葵は苦笑していると頭を後ろから軽くコツンと叩かれ後ろを振り向くとマノーリアが腰に手を当てて怒っている姿が目にはいる。マノーリアが葵と目が合ったのを確認して口を開く。


「こーら! どうするの~! こんな騒ぎにして! ダメでしょ! 」

挿絵(By みてみん)

 マノーリアが本気で怒っていないのは口調からもわかるが、むしろ葵にとっては滅多に見れないマノーリアに怒る姿はかわいくて仕方がない。


「オレだけじゃないよ」

「最初に言い出したのはどうせ葵くんなんでしょ? 」

「まぁそうだけど…… 」


 環がクスクス笑いながら近寄ってくる。


「ドワーフの人たちも喜んでいるから今回は良いでしょ。もちろんここで得た収益は神殿に寄付されるのでしょ? 」

「環さん」

「ねぇ」


 環が笑みを深めているが内心怒っている時のそれだ。葵は環とマノーリアに睨まれて答えるしかない。


「はい、全額寄付します」


葵のバチあたりな小遣い稼ぎは失敗に終わった。

お読みいただきありがとうございます。

次話も引き続きお楽しみいただければ幸いです。

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