487-ペンギンダイブ
霊島サヨリ沖上空
カーラスが率いる上空部隊は、有翼魔族のアドレスがいなくなった今、制空権を維持し早期警戒と対地戦闘がメインである。海上上空の間は警戒任務がメインとなるため、各国から募った飛竜隊とカーラスの眷属である八咫烏やグリフォンたちで充分である上に、指揮系統をカーラス最強の眷属であるクラウドナイト行っているので、S級の魔族が現れない限りカーラスが全面に出ることはない。空中神殿で部隊を空輸するのが最大の目的である。カーラスの眷属たちは問題ないが、飛竜隊は隊員だけでなく飛竜にも食事と休息が必要だが、海洋に出てしまえば、その場所の確保が難しい、飛竜隊通常運用の場合は空母のように甲板が平らな軍艦が専用艦として用いられるが、東側の国が保有するのは皇国だけで、西側の王国や帝国が船を海路で移動するには半年以上の時間を有する。その結果、空中神殿での作戦となった。ちなみに皇国軍の飛竜隊は自国の海上防衛に回っている。カーラスは少し手持ちぶさたに隣にいる少女に声をかける。
「チョウノスケは環様やデイトたちと行動を共にしたかったのではないのですか? 」
「何をおっしゃるのですか! あたしは信治殿の力によって空をも戦場として戦える猛者となりました! 確かに育てていただいたデイト様やサヨリ様のお側に付き従うことも大切なお役目かもしれませんが、産みの親であるカーラス様に付き従う事をデイト様とサヨリ様も喜んでいただきました。サヨリ様からはカーラス様に空戦の姿を見せるようにと、既にアドレスのいない今、有翼魔族の残党と空からの対地攻撃で遅れをとることはありません」
チョウノスケはカーラスへと背を向けて、背負ったランドセル型スラスターを見せつけるようにして言いはなった。カーラスは微笑みながらチョウノスケに声をかける。
「信治さんをはじめ守星調査隊の皆さんと交流を持ったことは、あなたにとって大きな成長をもたらしたようですね」
チョウノスケは向き直り、ない胸を張ってカーラスへと自慢げに返答する。
「そうなのです! 信治殿だけでなく、ベルーフ師匠や梔子殿にナズナ殿からは武器と前衛の戦い方を学びましたし、咲殿と花殿からは共闘の仕方ですな! あたしはひとりで闘うことが長かったですからね~ それにマノーリア殿や麻衣殿からは後方から見た前衛の動きといいますか、どう動くと後衛との連携がしやすいかですな! 白檀団長殿からは勢いといいますか思いきりの良さですな~ 環様やワーク殿や里菜殿それにジンジャー殿からは、民たちとの日常の生活様式やなどを教えていただいたので、あたしも生活に慣れましたな! 」
「皆さんいろいろ教えてくたさったのですね」
チョウノスケは、子供が母親に学校であったことを楽しそうに話すように話している。カーラスはそれを何か嬉しそうに聞いているが、ふとひとつの事に気がつきチョウノスケに尋ねる。
「葵さんからは何か学んでないのですか? 」
チョウノスケは腕を組んで考えるような素振りを見せ声を漏らす。
「葵殿ですか~ 葵殿からは~ 」
葵からは学んだことがないと言わんばかりに記憶を探しているようだ。確かにカーラスからみても、信治とチョウノスケが騒いでいると葵は苦笑を浮かべて近寄らないような素振りを見せていたので、あまりチョウノスケに関わらなかったのかと思うと、チョウノスケが何か思い出したかのように手をたたき、カーラスに返答する。
「葵殿からはズルさですな!」
「ズルさですか? 」
聞いていてなんだが、カーラスは葵が不憫に感じ苦笑しつつおうむ返しにチョウノスケに尋ねると、チョウノスケはコクりと頷いて返答する。
「葵殿は計算高く、戦闘以外にも常に何かしら得るようにふるまっている気がしますな、損得勘定ではなくその時の選択で一番良いかその次に良いを選ぶか、その時はあえて損を選んでその後の最大の得を得るように振る舞うのですよ! 騎士というよりは葵殿は商人なのではと思うほどです! 」
「それがズルさですか? 」
「そうですズルさですな~ ただ、葵殿が得するように振る舞いなら、あそこまで人たらしではないですな! 周りも納得しての得を得るズルさなのです。なかなか真似のできない葵殿の特技ですぞ! 」
チョウノスケは、そう言いながらも楽しそうに話す。その様子をみる限りでは葵との関係は良好なようだ。チョウノスケは生真面目で思ったことを素直に口にしてしまうので葵の真似は難しいとカーラスも思う。カーラスがチョウノスケと他愛もない話をしている途中でいきなり黙り込む。おそらく他の眷属神と同調しているようだ。チョウノスケがカーラスに声をかける。
「カーラス様いかがなさいましたかな? 」
「サヨリからでした。海中の魔族と交戦になったようで、セイレーンが新たな眷属を連れだって来たようです。セイレーンはサヨリが相手にするが眷属をカトラス隊が相手にすることになるが、手強い相手ではないかとのことで空中からも支援を行えないかとの打診です」
「支援ですか? 」
カーラスの眷属たちは海鳥のように水中に潜り一撃離脱程度の攻撃か回復ならできるが、あくまでも海面に近い浅瀬での話である。海中に潜り常に水中戦を行える者は、ひとり以外は基本的にはいない。カーラスが眷属たちに指示を出す。
「神殿の高度を下げます! クラウドナイト邪神軍本隊への攻撃指示を任せます」
「御意! 」
クラウドナイトが空中神殿から他の眷属たちと飛び去っていく。
「チョウノスケ! カトラス隊の援護に向かってください! 他の眷属は水上より援護を! 」
「カーラス様あたしは今回空中戦を…… 」
「状況が状況です。それにチョウノスケあなたはひとつの忘れていますよ」
「忘れている? 」
「守星調査隊で唯一戦場を選ばぬ戦士であることです」
守星調査隊で、陸、海、空戦の全ての環境で戦えるのはチョウノスケだけである。麻衣が人魚の力で海中も行動可能だが空はフライトバイクか支獣が必要になる。梔子は空は得意だが海は人並み程度である。チョウノスケは空は信治の作ったランドセル型スラスターが必要だが、常に身につけられる装備の為、今も背負ったままである。チョウノスケにとっては強くなるために戦場は関係ないのだ。とはいえ道具に頼っている空中戦はまだまだ伸び代があるが、海中戦はサヨリ相手でも勝てないにしても、負けない程度には立ち回れる自信はチョウノスケにもあり、空よりも海の方が得意なのだ。
「あなたの空はここだけじゃない! サヨリの海もあなたの空よ! サヨリの海を守って! 」
「カーラス様…… わかりもうした! このチョウノスケ、サヨリ様の海ならびにカトラス隊の支援に向かいます! 」
「頼みます! 」
チョウノスケは空中神殿を走り出す。ランドセル型スラスターに火を点して一気に飛び上がり上空へと飛び出すとスラスターを切って直滑降に海に降りていきながら、少女の姿から巨大ペンギンの姿へと変わる。
「あたしの空と海を守りきるのですぞ! 」
産みの親と育ての親の大切なものを守る為、空飛ぶペンギンはもうひとつの海へとダイブしたのだった。
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