486-セイレーンの眷属クラーケン
霊島サヨリ沖近海
急速に発達した嵐は周囲の景色をみるみると変え、穏やかな初夏の海が、今や周囲一体が雲に覆われ暴雨と荒波に見舞われる。海中にも影響があるようで海水は濁り潮の流れも不規則になっている。自然現象ではなく上位魔族であるセイレーンの手によって引き起こされた嵐である。これによって嵐の範囲は、海創成の神眷属神サヨリの結界を無効にして魔族が自由に動くことが可能となっている。
「斥候隊魔族と交戦に入ります! 」
前衛部隊にカトラスが合流してすぐに斥候隊より報告が入る。副長がカトラスに声をかける。
「斥候隊が海中で魔族に気取られたようですね」
「この嵐の中だ。こちらが有利とは限らないだろう。斥候隊と合流だ! 副長斥候隊には無理をせず後退しつつ我々と合流を優先を指示を! 」
「了解しました! 」
カトラスたち海上騎士団前衛が斥候隊との合流の為、前進する。カトラスの脇に淡い光の点が発生し、すぐにその光が広がり人の形となりサヨリが現れる。サヨリが転移をしてきたようで、そのサヨリがカトラスに声をかける。
「カトラスさん警戒を! わたしはセイレーンを引き付けます。セイレーンが新たな眷属を投入したようですね。禍々しい力を感じます。そちらはカトラスさんたちにお願いすることになりそうです。ご武運を! 」
「了解しました。サヨリ様もお気をつけ下さい! 」
サヨリはそれだけを言ってまた光となって水に溶けた。斥候隊と合流しカトラスが斥候隊隊長へと声をかける。
「ベテランのあなたの隊が海中で気取られるとはな…… 耄碌したか? 」
カトラスはそう口にして笑みを浮かべる。カトラスとしては軽口のつもりで言ったのだが、斥候隊の隊長は苦笑を浮かべている。その様子からも余裕のなさを感じるが、いつもであれば、率先して軽口を言って隊を和ませ、陽気な部下思いのこの隊長がこんな表情をするのは、はじめて見たとカトラスは思う、役職としてはカトラスが上ではあるが、年齢は10歳近く上で、経験と知識が豊富な彼は、カトラスにとって敬意と信頼をおける相手だ。しかし、彼もそこはベテランで、十も下のカトラスに心配だけ与えるわけにいかないと頭を切り替え返答する。
「本当にそうなら騎士長に介護してもらいますわ~ ちょっとばかり今回は相手が悪すぎでね。海中じゃ魔族は程度が知れてるとどっかで思い込んでいたのかもしれませんね」
「しかたあるまい、サヨリ様がその昔に早めに結界をかけたことで、魔族の侵入を防いだわけだからな、で、それほどの強敵か? 」
「オレたちが海中で発見され、先制攻撃を受けて散開している状況ですからね。しかもまだ相手をこちらで捕捉もできてませんよ」
「攻撃方向は? 」
「わかりません。強いて言えば四方からって言うしかないですわ、しかも、そこには何もいないときた。後はあれです」
斥候隊隊長が指を指す方向をカトラスがみると、水が黒く濁り、周辺以上に視界を悪くしている。斥候隊隊長が続ける。
「あの黒い濁り事態はほとんど影響はないです。おそらく目眩ましのつまりでしょうな、あん中に入ったとたん一斉に攻撃してきます。敵の数もサイズもいまだ不明です」
「サヨリ様が言っていた新たな魔族のようだな。セイレーンが新たな眷属を連れてきていると仰っていた」
「厄介者ってことですかぁ~ いつもの魚の化け物とかの魔族ならなんてことなかったんですがね」
水中に適した魔族はそれほど多くなく10種類ほどしかいない。過去の大戦の時も戦場とならなかったことで、生態系に定着したものもいないので、推測に生産系魔族が作れる水性系魔族が低位の魚類の魔族しか産み出せないと思われる。今確認できる水性系魔族はセイレーンが現れた以降にほとんどが現れたが、それでも集団で対処すれば倒せない事はなかった。
「セイレーンが直接指揮をしているようだからな、新たな魔族が現れるのも当然だろう」
「まぁそうなんですがね。自分の傲りを部下に聞かせるわけにもいきませんからね~ 指揮は任せますわ! 騎士長殿!」
「そうだな。では、ここからは反撃といく! 」
「へいへい、斥候隊各員! 前衛と合流した! ここからはカトラス騎士長の指揮下に入れ! 」
斥候隊隊長は斥候隊隊員に向けて指揮権をカトラスへと委譲したことを知らせる。ちなみに海洋人種たちは海中でのコミュニケーションは会話でなく、海洋人種特有の念話に似た能力を使用しているので、先ほどからのカトラスたちの会話も口が動いているわけではない。カトラスが全員へと指示を出す。
「各員! あの黒い濁りには警戒を! 中、遠距離攻撃が可能な者はあの濁りに攻撃を! 全員一斉に合わせる用意を! 」
海中の岩影などに隠れていた各隊員がカトラスの命令に準備をはじめる。各小隊の隊長がカトラスへと報告し準備が整いカトラスが青竜刀を抜いて前方に剣先を指し示し声をあげる。
「撃て! 」
海洋人種たちが魔法に似た能力や遠距離武器で一斉攻撃を黒い濁り一帯へと撃ち込んだ。するとわらわらと魚類の魔族やダイオウイカのようなモンスターが濁りから飛び出し攻撃を仕掛けてくる。
「濁りから出ればこちらに武がある! 」
海洋人種たちが武器をかまえて応戦するが、ダイオウイカ型の魔族が墨を吐き散らす。
「アイツの墨だったのか! 各員警戒を! 」
一気に周囲が黒く濁りはじめる。
「うぁ~ 」
「どこから! 」
「くそ! 散開しろ! 」
隊員の悲鳴と怒号が飛び交うが何が起きているかカトラスには見えないが、その時カトラスに鋭い何かが攻撃を仕掛けてくる。
「甘い! 」
カトラスは水が流れるように身を交わしよけて、それに青竜刀を突き立てる。
「足!? 」
カトラスの正面には巨大な黒い影が現れ姿を現した。数十メートルはあるだろう巨大ダコの魔族がそこに立ちはだかっていた。
「こいつが…… 各員! 謎の攻撃を仕掛けてくる相手は巨大なタコだ! 今後この魔族をクラーケンと呼称! 各個に撃破を! 」
オーシャンガーディアン海洋騎士団の前に巨大ダコクラーケンが現れたのだった。
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