481-海上の黒い霧
大陸沖海上
邪神軍は海上を黒い霧を携え航行していた。邪神の乗る一際大きな魔艇を中心に、数隻の魔艇と魔王メフィスト軍から鹵獲した幽霊船が周囲を囲う、おおよそ20隻の大船団が進むと共に黒い霧が周囲の雰囲気を一変させる。
「アドレスとヘルガイドそれにヴィネアスまでもが倒されたとはな…… 人間どもも腕を上げているか」
サタナキアは苦虫を噛むように奥歯をギリギリと音を立て、魔艇の欄干を拳で叩く。隣に現れたサーベラスがサタナキアに声をかける。
「サタナキア様。お言葉ながら奴らは尖兵の一部に過ぎません。人間などに倒されるのは、あの者共が人間をみくびったのでしょう。しかしながら、サタナキア様は人間のような感情を時折垣間見えますが…… 」
サーベラスの3つの犬の頭のひとつサタナキア側の頭がサタナキアに顔を向けて笑みを浮かべる。サタナキアが舌打ちをしてからサーベラスに答える。
「自分でも苛立って仕方がないが、このカラダになってから、過去になかった感覚があるのは自覚している。何よりもそれをあの女神に言い当てられたのは腹が立つ」
以前、最高神女神アマテウスが神降ろしによって環に憑依しサタナキアと対峙した時に、アマテウスも過去のサタナキアとは別の感覚を感じた事を言葉にしていた。サタナキアがさらに話を続ける。
「今のところ特に問題はない! 鬱陶しいだけだ! 」
サタナキアとサーベラスが雑談をしている側へ婀娜が歩み寄り声をかける。
「殿方は船旅に飽きてませんのかえ? 」
「さっさと人間どもを狩りたいとは思っているのは皆同じだ。もう時期の奴らの陸が見えて来るであろう? 」
サタナキアが返答するが、婀娜の方は見ずに顔はそのまま船の進む先の黒い霧に目を向けている。
「サタナキア様はさみしいわらわの相手をしていただけませんの? 」
婀娜がサタナキアへとすり寄り、サタナキアの腕を指でなぞる。サタナキアは視線だけ婀娜に向けて口を開いた。
「邪神様の側にいなくて良いのか? 」
「邪神様には選りすぐりの専属の者を数名用意しておりんす。さすがに邪神様に他の殿方の味を知ったわらわというのはと思いましてねぇ~ なので処女の配下で邪神様の好みを選んでいただいたでありんす。だからわらわは寂しくて~ 」
「婀娜嬢が邪神様着きになるのを拒んだのでは? 」
「めっそうもございませんわぁ~ 邪神様に抱かれる者たちを羨んでおりんすぇ」
サタナキアとサーベラスが苦笑する。婀娜がキセルのようなものを取り出し一服吸ってから改めて口を開いた。
「ところで、人間どもの沿岸線の街の騒ぎは、お二人はお聞きになったでありんすか? 」
「沿岸線への攻撃はしてなかったと思うが? 」
サーベラスが婀娜の言葉に疑問で返答する。サタナキアもまた何も知らないと首を横に振る事で答えた。
「大陸に近づいた事で、邪神様の力に当てられた。一部の人間がわらわの配下やオーガが憑依しやすくなったようで、混乱が起きているようでありんす」
婀娜は愉しそうに口角を上げて話している。サタナキアとサーベラスも小さく感嘆の声を漏らす。
「人間どもも抵抗していて、結界強化や聖水を飲んで既に鎮静化してしまったようでありんすが…… 」
婀娜は、今度はつまらなそうにキセルの煙を遠くに飛ばすように長い息を吐く。それを見ていたサーベラスが口を開いた。
「近づいただけで人間どもを混沌させる…… さすが邪神様と言えよう。これによってワァプラ様の作戦も変わるかもしれんなぁ」
「状況を楽しくしてくれれるならわらわは喜んで出陣するでありんす。あのブスどもはわらわの手で殺さないと気が済まないですしねぇ~ 」
船内から1人のサキュバスが現れ3人に一礼し声をかける。
「ワァプラ様がお呼びです。お集まりください」
――――――――――――
城塞都市シルドビナス
魔族憑依事件の騒動も聖水も市民に行き渡り、市内の接種率も9割を越えたことによって、落ち着きを取り戻した。事件後数日でここまで行えたのは、行政と神殿の連携だけでなく、一般市民の魔族に対する対抗心の現れであろう。
「皆さん後方支援ご苦労様でした。通常の仕事とは勝手が違ったのでお疲れでしょう。後はこの街の行政と神殿にお任せして、今日はミーティングの後は、ゆっくり休んでください予定よりも休息に当てる時間が減ってしまいましたが、状況が状況でしたので…… 」
環がそう言うと皆も頷き、環の隣に座っていた白檀が口を開いた。
「今回の事件を踏まえて改めて眷属神様たちと話し合った。邪神軍の進攻はフォレストダンジョンからは上陸しないと断定し、フォレストダンジョンの軍をオーシャンガーディアンへの共闘の為、移動をはじめてもらう。さらにエーテル様には湾岸線の都市と霊島サヨリの陸の結界を依頼した。カーラス様には霊島サヨリ上空にて待機、邪神軍を誘導してもらう、これは海中から同様にサヨリ様にも誘導してもらう」
この数日、白檀とデイトとカーラスは作戦変更の為、サヨリとデイトと合流し、作戦の微調整を行っていた。白檀のカラダには、鳳凰が神降ろしによって憑依している事を考えると、眷属神たちの会議ともいえるだろう。葵が白檀に尋ねる。
「もう、フォレストダンジョンへの上陸はないと断定していいところまで来ているってことですよね? 」
「ああ、サヨリ様の感覚にしてもカーラス様の眷属によって目視もした」
「これが上空から視認した今の状況です」
カーラスが眷属と同期しリアルタイムの視覚を映像として魔法具に投影され皆に見せる。それは海上を這いずって走る黒い霧が映し出されており、周りの天候と相反する違和感しかない黒い霧の中に黒く濃い影が見え、おそらく魔艇であると皆が思う、カーラスが話を続ける。
「サヨリとも話しましたがあの霧は隠蔽でなく防御結界であろうと推測します。中央に一際大きな影が旗艦の魔艇でしょう。海上には他に怪しい影がないことから、邪神軍一団はフォレストダンジョンからは上陸はないと判断しました」
「こちらが誘導してここで討つ!」
白檀は魔法具に映し出された地図のシルドビナス北側湾岸線平原を指し示しさらに話を続ける。
「ここであれば、ここからもロスビナスからも物資供給可能だ。現在各軍が集結地点を決戦場西側ここに移動をはじめている。オレたちも明後日には出発するから、各自準備をはじめてくれ! 」
決戦は長期戦となる覚悟を各国軍首脳陣も想定し、兵站を確保が絶対条件となる為、決戦場が決まった。無論、ロスビナスの主要都市や市民に被害が及ばない事も考慮され、平原へと邪神軍を招き入れる作戦だ。海上での戦闘では海空のサヨリとカーラスならともかく、他の戦力が半減する為、あえて上陸させる事は、邪神が目覚めた後の邪神軍の力を考えれば妥協するしかない。
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