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【祝! 完結】STRAIN HOLE ~よくあるフツーの異世界でフツーに騎士になりました。だってフツーでもそこそこ楽しめますよね? ~  作者: 橘 弥鷺


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480-聖水配給

 城塞都市シルドビナスで発生した御石が濁った者が魔族に憑依されてしまう事件は、騎士や冒険者によってすぐさまに解決となった。しかし、この事件は大陸全土を震撼させる事件となった。この現象がシルドビナスだけでなく、隣国オーシャンガーディアン海洋国の湾岸線にある、大都市数ヵ所でも同様の現象が発生し、同時多発的に発生したことこから邪神ないし邪神軍によって実行されたテロである見方が濃厚となった。

 守星連盟は各国連盟大使を緊急招集し会議が行われ、事件の翌日には、各国への通達と共に各神殿へ聖水の無料支給を依頼し、聖水飲用の義務化を大々的に発表した。邪神軍本隊が上陸し、戦火の中で共に戦う者や守ろうとしている市民に後ろから、攻撃されるかもしれないと不安を抱くくらいであれば、聖水を飲み魔族からの憑依を防ぐ事は、だれもが望むことだが、犯罪者や闇社会の者からすると目障りな発表であった。守星連盟は、国や街へ入る際に神官によって、聖水を飲用済みかチェックするようにも各国へ通達し、聖水の飲用を拒む者は、入街拒否や街外追放の措置も実施する事で各国は街の防衛強化を完全なる物とする事にした。聖水は本来飲むことで、神々の力によって邪神や魔族から身を守ることだけでなく、体内の変調を改善する効果があるのだが、既に魔族に憑依された者にとっては毒でしかなく、完全にカラダを奪われた瞬間に聖水の力によって、その者は灰となって消える。この世界の大半の者は魔族になってまで生に執着する者はいない、正確に言えば魔族に憑依されるような重罪を起こさないように生活している。しかし、この世界にも倫理観の低いものはおり、罪を起こしても自分の利益を優先するような利己主義の者は一定数いる。


「遺体は兵士たちが処理済みです。今は現場検証中です」

「男性はオーガ、女性はサキュバスかオノリケスに変化したのですね。助けてあげられなかったのは残念です」

「身元を調べると、皆、いかがわしい者ばかりです。自業自得と言わざるおえません」


 環が騎士団副団長の説明に愁いているが、副団長は同情するような者たちでもないと聞き流す。副団長としては環に対しての気づかいのつもりのようだ。環は副団長の言いたいこともわかるのだが、皇女として何かしてあげられなかったのかと軽く目を伏せた。


「周囲にいて巻き添えになった市民や冒険者には同情します。皇女もその者たちへ祈りを捧げては? 」

「失くなった方々を区別する必要もないかと…… 少なくともわたし個人の気持ちなので…… 」


 環はその場で金剛杵こんごしょかまえて祈りを捧げる。環から淡い光が浮き上がり周辺へと降り注ぐ。周辺で片付けや修理をしている市民から歓声が沸き起こっている。


「聖水の配給は順調ですか? 」

「ええ、神殿の神官が手分けして町中の至るところで配給所を設けてますし、数日のうちには配りきるかと思います。守星調査隊のメンバーも手伝ってもらっていますから助かります」

「少しでも早く皆さんに配れると良いですね」


 シルドビナスの各門や主要施設で臨時の聖水配給所が設けられている。中央の広場では麻衣が中心となって音楽を奏でて市民を集め配布することとなった。神官の職能で聖水を飲用したものとそうでない者を見極める事ができる為、平時であれば神殿で神事にあたる神官たちが、今日は街中を慌ただしく歩いている姿を見かける。


「副団長、では、後はお願いいたします」

「ええ、お任せください。皇女や守星調査隊の皆さんがこの街に滞在していただいたのが不幸中の幸いです。皆さんがいなければ被害が拡大していたのは間違いないですからね」


 副団長は環に頭を下げる。事件発生時には大した事はできなかったが、防衛強化のために結界を張り巡らせた事で、憑依された者の数や最強種でもオーガやサキュバスでとどめられたとデイトやカーラスの見解だった。それはオーシャンガーディアンの都市も同様で邪神復活を受けてサヨリが湾岸線一体を結界を強化していたとのことだった。副団長が最後に言葉をつけ足す。


「白檀のことよろしくお願いいたします」

「え? 」

「いや、不器用なヤツなんで、まぁ皇女様は幼馴染みなのでご存知でしょうけど」


 副団長は先程までの仕事の顔から、白檀の友人の1人としての言葉のようだ。環に屈託のない笑顔を見せて仕事に戻っていった。環は振り返り歩き出す。


「里菜さんお待たせしました」

「いえ、副団長忙しそうですね」

「この街の防衛責任者ですからね」

「団長いるのにそのあたりは責任者変わらないんですね」

「団長は国全体とロスビナスシティの責任者ですからね。それにいきなり現れて口出しするのも気がひけるのではないでしょうか」

「確かにそうですね。環さんこれからどうしますか? 」


 里菜に尋ねられた環は手を頬に当てながら少し思案し答える。


「そうですね…… 治療院は伺うと迷惑でしょうから、中央広場に行ってわたしたちもお手伝いに加わりましょう」

「わかりました」


 環と里菜は中央広場へと向かう、治療院にはマノーリアと花とナズナが治療の手伝いに行っている。怪我人はそれなりの数が出ており、治療院はどこも混雑しているとの連絡は、皇女である環にも入っている為、様子を見に行くのはやめておくことにした。中央広場に向かうと聞き慣れた麻衣の歌声が聴こえてくる。かなりの盛況ぶりなのがここからでもわかる人だかりだ。今日は麻衣の眷属以外にアイとジンジャーがパフォーマーとして盛り上げているようだ。広場の入口で葵が聖水の入った箱を抱えて配っているのが、環たちの視界に入った。


「葵さんお疲れ様です」

「環さん視察は終わったんですか? 」

「ええ、神殿の様子と現場の様子は見てきました。治療院はもう少し落ち着いてからの方が良いと思うのでこちらに来たんです。皆さん聖水は抵抗なく受け取られますか? 」

「まぁ ここの広場に来る人たちは健全な市民の人たちが多いですからね。みんな自分から受け取りに来るし、拒む人はいません」

「麻衣さんたちが人を集めてくれていますしね」

「そうですね。麻衣のアーティストとしての実力は本物ですよ。みんなが吸い寄せられるように集まってくるんで、魅了でもかけてるんじゃないかって」


 葵が麻衣たちを見ながら口元を緩ませて環に答える。葵たちが雑談をしていると、すぐ近くにいた子供の集団が何かもめはじめている。葵がすぐに子供たちに近づき声をかける。


「どうしたんだ? ケンカか? 」

「こ、コイツらがオレが聖水飲んだら灰になるって脅かすんだ! 」


 答えたのは、この中で1番ヤンチャそうで、ガキ大将と言う言葉がピッタリな、他の子供よりも頭ひとつカラダが大きい子供だ。葵は脳裏で彼をジャイアンと名づけるそのままだ。


「いっつもオレたちの事を小突いたり、親分気取りで子分みたいに扱うから、お前はもう魔族に憑依されてるんだ! 」

「なんだと! 」


 頭のよさそうな子供がジャイアンに噛みついている。おそらくこの子供たちのグループのナンバー2的な存在なのだろう。彼の方が口は立つようで、ジャイアンは涙目になりながらも気丈に振る舞っているが、いつもならすぐに手を出してしまう子供なのだろうが、ここで彼を殴ればまた火に油を注ぐ行為だと理解しているようで、我慢しているようだ。葵がふたりに割って入り仲裁する。


「そこまでだ! 」


 男の子同士を仲裁したものの今度は女の子のリーダーが口を開いた。


「お兄さん止めることないよ! 」

「いつもがどうか知らないけど、みんなで彼を責めるのも良くないと思うぞ! 」


 葵は女の子に顔を向けてありきたりな大人の意見を言ったものの、女の子は腰に手を当てて葵に返答する。目鼻立ちが整っており、つり目の彼女は見るからに気が強よそうだ。


「これはわたしたちの問題! お兄さん冒険者? 彼の今までの行動を知らないからそう言えるの! 人のオモチャとったり、意地悪なこと言ったり、特に最近なんてこの娘に対して酷いのよ! 」


 ずいぶんとオマセな娘だなと葵は苦笑するが、女の子のリーダーがイジメられていると言っている女の子を見ると、リーダーとは真逆で気が弱そうで、保護欲をそそられそうな可愛らしい女の子だ。葵は、その娘を見た後にジャイアンを見ると何か言いたそうにしている我慢しているジャイアンがそこに立っている。葵ピンときたが、後ろから環と里菜が歩み寄り、環が口を開く。


「昔の白檀さんを見ているようですね~ 」

「団長ですか? 」

「幼かった頃、一時、わたしに意地悪なことをする事があったので…… 」

「団長不器用な子供だったんですね~ 」


 ジャイアンは気弱そうな女の子に恋をしているようだ。好きな女の子の気を引きたいが為に、ちょっかいを出していたのが、周りの子供たちからはいじめているように見えたのだろう。葵は生暖かい目でジャイアンを見る。女の子のリーダーが環に声をかける。


「お姉さんは誰? 」

「こ、皇女様の環様だよ」


 気弱そうな女の子がリーダーに声をかけると子供たちが目を丸くして環を見る。環は女の子の前に行きかがんで目線を合わせて口を開いた。


「わたしの事を知ってるんですね。ありがとう」


 環はそのままジャイアンに振り向いて優しい声音で諭すように声をかける。


「強さは力をしめすだけではないですよ。優しく守ってあげることも強さです。特に好きな子にはね」

「あ…… そ、そんなじゃ…… でも、皇女様オレ聖水飲んでも大丈夫かな? 」


 環はさらに優しく微笑みながら頷き返答する。


「大丈夫ですよ。でも、これからはみんなのリーダーなら、優しく、みんなを助けてあげるようになりましょうね」

「う、うん! 」


 ジャイアンは環に言われて頬を涙がこぼれる。しかし、それを袖でごしごしと拭いて聖水を一気に飲み干す。環は立ち上がり子供たち皆に声をかける。


「人はみんな嫌な部分を持っているものです。皇女をしているわたしだって、人を羨ましく思ったり、嫌だなって思うことはあります。それも自分なので認めてください。魔族に憑依されるのは、その悪い気持ちのまま人を傷つける事や騙したりすることが良くないのです」


 ジャイアンは皆に頭を下げて子供たちも和解をしたようだ。子供たちは環たちに手を振って広場から離れていった。

お読みいただきありがとうございます。

次話も引き続きお楽しみいただければ幸いです。

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