476-結成フォーダイス
2年前ロスビナス皇国軍初等教導連隊宿舎
「1年なんて長いーって思っていたけど、後3ヶ月で終わりだね~ ナズナはどうするの? 」
「うーん」
「まだ進路決めてないの? ナズナの魔力量なら騎士にだってなれるのに! 」
「そうなんだけど、剣術だってそこまでだし自信はないなぁ~ 」
「そんなの合格してから考えればいいじゃん! 」
「そういうデイジは? 」
「わたしはこのまま軍に入るかなぁ~ 」
「騎士じゃないんだ? 」
「騎士っていろんなとこに配属なるって聞くし、国外もなんでしょ? できれば、国内勤務が良いかなって」
「そうなんだぁ~ 」
「そろそろ食堂行かないと! 連隊長うるさいから! 」
「そだね」
兵役の間は2人一組の部屋で1年を宿舎で過ごす。ナズナはルームメイトであるデイジと進路について話していたが、デイジが魔法具の時計を見て、まもなく夕食の時間となるため、部屋を後にし食堂へと向かう。食堂へ向かうと各小隊ごとに整列し席に座る。小隊は4人一組で構成され、小隊が集まってから食事につける。ナズナの所属する小隊の男子ふたりのスイセンとレンゲは既に食堂の入口に立っている。
「スイセン小隊全員揃いました! 」
「よし! 席につけ! 」
「ありがとうございます! 」
小隊の名は連隊長が任命したリーダーの名がついている。特にそこに理由があるわけではないが、一応振り分けられたさいに立候補を募る。ナズナのいるこの4人はスイセンが立候補したのでスイセンがリーダーとなった。4人は木製のトレイを持って、食事をとり席に着く。軍の食事は悪くない1日の唯一の楽しみの時間のひとつだ。食事と入浴と睡眠週に一度の休みが楽しみだ。休みと言っても家に帰れるわけではなく、ほとんど宿舎で過ごすか、演習場で自主的な訓練するしかなく、2週に一度宿舎に日用品や備品などの売店が来るが、年頃の少女が楽しめる物と言えば、最低限の化粧品と甘いものくらいだ。
「スイセンとレンゲは進路決めた? 」
デイジが先ほどナズナと話していた話題をスイセンとレンゲ男子2人にも聞いている。スイセンは自信ありげに即答する。
「オレは冒険者になるって決めてんだ! 」
「えっ 冒険者? 普通は冒険者って騎士とか軍の経験者がなるんじゃないの? どこかのパーティに入る当てがあるの? 」
スイセンの言葉にデイジが驚いたように聞き返す。スイセンはふんっと鼻息をひとつ漏らして、手に持っていたホークをくるくると回しながらデイジに答える。
「それが、別に来年オレたちが兵役終って冒険者として組合に登録すれば、すぐにパーティも作れるみたいなんだよ~ 他のパーティに入ってサポートやらされたり、雑用とかしょーもない依頼こなして上前跳ねられるなんてゴメンだからな~ ならパーティ作っちゃえばよくねって思ってさ」
「なるほど」
デイジは腕を組んで少し考えている。
「デイジは軍の生活もう1年やるつもりか? 軍に正式入隊したって、最低1年は教導隊に所属になるわけだし、この先だって上官の命令は絶対だし、自由の少ない生活で良いのか? その点、冒険者は自由だぜ~ イヤな仕事なら受けなきゃいいんだし、最初は地味な仕事だろうけど、どんどんランクあげて名を売れば指名の依頼だったり、安定させたければ騎士団や軍との共同作戦とか、流通業の護衛とかをメインにするとか、仕事も自分たちで選べるだろう」
「そんなにうまく行く? 」
「問題ないさ! 」
スイセンの自信はどこから来るかわからないが、同い年とは思えない頼りがいがあるのも事実だ。レンゲが口を開く。
「まぁ スイセンが言うほどそううまくは行かないだろうけど、自由に働くってのは魅力だよな~ 」
「だろう」
スイセンとレンゲは冒険者に前向きなようだ。デイジがスイセンとレンゲに尋ねる。
「最初はこの4人でスタートしたいってこと? 」
「だな! ナズナもいいだろう? みんなでやろうぜ! 」
「えっ!? えーと みんなが冒険者やりたいって言うなら…… 一応進路は自由にしていいってお父さんに言われてるけど…… 決める前に報告したいかなぁ~」
「じゃ 今度の四半期休に報告してきなよ」
「今度の四半期休って、もう来週末なんだね~ 」
皇国軍の兵役中は3ヶ月に一度4連休があたえられる。4人は冒険者への期待感を膨らませて話す。デイジがスイセンにひとつだけ要望を出す。
「スイセンさぁ~ 中衛だけじゃなくて前衛もできるようにならない? わたしとナズナだけじゃさ~ 」
「えー わかるけどさぁ~ オレのサブ装備クロスボウだし! 今から他の武器に変えるのもな~ 」
スイセンは槍を主装備としているが、副装備はクロスボウである。レンゲがデイジに同意するように口を開く。
「確かにスイセンが前衛をやれるようにならないと、最低でももう一人男の前衛が必要になるよな」
「なんでだ? 」
スイセンがレンゲに尋ね返す。
「オーガ対策だよ! オーガにはさすがにナズナとデイジに前衛させるわけにいかないだろう? 」
「オーガか~ オーガと戦うなんてまだ先だし、まぁナズナとデイジが単独で攻撃しなければ大丈夫じゃね? それにオレは弓技の命中は極めようと思ってるぜ! 」
スイセンは楽観的な性格で明るく、槍やクロスボウの実力も教導連隊の中でもそこそこの実力者ではある。他の3人もこの連隊の中では実力もあり、スイセン小隊の評価も上位に名を連ねる実力だ。
「そういやこの前の弓技訓練の時に聞いたんだけどさ、弓使いでスゲー姉妹がいるらしいぜ! 」
「何が凄いの? 」
ナズナがスイセンに尋ねる。
「なんか姉妹で命中修得してて、姉ちゃんは騎士団の斥候隊に抜擢されて、弓と剣術の実力買われてあの斥候のホワイトキャットのバディになったらしい」
「ホワイトキャットって騎士団長の鳳凰白檀の妹で、斥候隊長だったよね? 」
「そうそう、徴兵免除で騎士団入りした逸材! そのバディできるんだから相当な実力者だろうな。更に凄いのが妹はまだ学生で既に命中を修得してる上に必中まで修得するんじゃないかって噂らしい」
「必中?! しかも学生ってオレたちより年下ってこと? ないない! 命中ですら修得難しいんだろう? まぁ優秀なんだろうけど周りが騒ぎ過ぎてんじゃないの~ 」
スイセンの雑談にデイジとレンゲが盛り上がり、最後はレンゲがそれを聞いて手をヒラヒラふってできすぎた話だと笑い飛ばす。ナズナは3人の掛け合いを楽しく聞いているのが好きだ。兵役の後にやりたいことがないのだからみんなと一緒に冒険者になっても良いと思った。
四半期休日後の初日
「ナズナどうだった? 親に報告した?」
「うん、わたしが決めたなら良いけど条件つけられた」
毎週休み明けは朝から各小隊でミーティングをする時間が設けられる。本来は現在の訓練に関する内容を話す場なのだが、スイセン小隊はナズナが反対されてないか気がかりでそれどころではない。
「条件ってのは? 」
レンゲがナズナに改めて尋ねる。
「2年以内に冒険者としての結果を出せるようになることと、この魔装衣を着ることだって」
「この魔装衣オーダーメイドじゃないの? 」
「スゲー高そう…… 」
「ナズナお嬢だったの? 」
ナズナはテーブルに父から渡された魔装衣を置くと3人が身を乗り出してテーブルの魔装衣を見て驚いている。ナズナは手をパタパタさせて補足するように口を開く。
「わたしの実家っていうかお父さん魔装衣の職人だから、これもお父さんが作ってくれたやつ、お父さんもわたしが騎士団か軍にでも入ると思ってたみたい」
「2年もあれば充分だぜ! 」
「オレたちもいろいろ揃えた方が良いよな? 」
「わたしお金無いよ~ 」
スイセンとレンゲとデイジは好きに言葉を口にした。スイセンがレンゲの言葉に返答する。
「最初はこの武具と武器でいいだろう? 」
「これもらえるの? 」
「らしいよ。ほら予備役もあるし回収しちゃうと武器ないとか武具ないってなったら面倒だからじゃない? まぁ主装備くらいは良いやつが欲しいけどな」
「まぁそうだよな」
スイセンとレンゲとデイジは早くも冒険者になってからの武器選びの話が盛り上がっている。ナズナが話題に水を指すような言葉を3人に投げかける。
「みんな武器も良いけど、最初に治療薬とかポーションは用意しておいた方が良いんじゃない? 」
「そこまで高価じゃないから大丈夫でしょ! 」
「依頼受ける前に準備すればいいし、大丈夫だよ」
「ねっねっ! それよりさぁパーティ名どうするの? 」
デイジが話題を変えるように新しい話題を提供する。レンゲが腕を組んで声をあげる。
「そうだよなパーティ名決めてなかったじゃん! 」
「何にしようか? 」
4人はこのパーティにふさわしい名はないかと思考する。ナズナはふとポケットに何か入っていることに気がつき手をポケットに入れその小さな何かを握り取り出して見る。
「サイコロ? 」
「休み前にやったボードゲームのサイコロじゃない? 」
「そうかもわたしポケットにいれたままだった」
デイジが皆に声をかける。
「パーティ名フォーダイスってどう? 」
「かっこいいかも」
「アリだね! 」
スイセンとレンゲはデイジに同意した。デイジは視線をナズナに向けて尋ねる。ナズナがそれに気がつき答える。
「うん良いと思うよ! フォーダイスか…… 」
こうして4人の冒険者としての準備をはじめる。希望に満ちた彼らにこの先大きな挫折を味わうこととはまだ誰も知らないのであった。
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