472-そそのかされた下位ランク冒険者
守星調査隊の夕食は進み、皆が好きに談笑を楽しんでいる。今日ばかりはゆっくりと酒を飲む時間もあり、久々にのんびりと食事を楽しんだ。
「ワーク、トイレってどこだかわかるか? 」
「一階にしかないみたいです」
「そっかありがとう」
葵はトイレへと立ち上がる。階段を降り一階の階段下のトイレがあり用を済ませる。葵は、そろそろ酒はやめようと一階のカウンターの店員に声をかけて、酔い醒ましのお茶を注文する。どこの店にも必ず置いてあるお茶で、味は緑茶をかなり濃くしたようなお茶だ。抹茶とも違い緑茶エスプレッソと言ってもいい、渋味と苦味が癖になるうえ酔いを醒ましてくれる。カウンターで葵がグラスに入ったお茶を飲み干すと、フロアから口論の声が聞こえる。酔っぱらいのケンカかと葵は視線を向けると、そこにはナズナがいることに気がつく、いくら酒を飲んでいるとは言え、ナズナが他人に絡むような飲み方はしないし、そもそも深酒するような娘ではない。葵はそのままナズナに歩みより声をかける。
「ナズナどうかしたのか? 」
「葵お兄ちゃん…… 」
ナズナは葵を見て言い淀むように言葉を言いかけて視線をすぐそばの席に視線を向けた。
「たしか…… ふたりは…… 」
葵がナズナの視線の先に座る少年と少女に気がつく、見覚えのあるふたりだ。
「あっ…… その節はどうも…… 」
「特務騎士様ご無沙汰してます…… 」
「葵お兄ちゃんたちに助けてもらった時に一緒にパーティ組んでいた。レンゲとデイジです」
あらためて紹介されてそんな名前だった気がすると葵が思い出す。魔法師の少年がレンゲで長剣を下げているので剣士であろう少女がデイジーのようだ。もう一人リーダーっぽい少年がいた気がするがふたりしかいない。皆、兵役の同期でパーティーを組んだとナズナに聞いた覚えがある。
「また外野が増えやがった」
葵に吐き捨てるよう声が聞こえ、少しだけ不快に感じる声に葵は視線を向けると、なんとなく見覚えのある男が女性を侍らせ酒を飲んでいる。その横には腕を組んで仁王立ちする男がいる。先ほどの声の主は彼のようで、その彼と視線が合うとその男が葵に声をかける。
「葵か? じゃその娘も守星調査隊の? 」
「アインか久しぶり! そうだなナズナはうちのメンバーだし、今じゃ植物創成神眷属神エーテル様の加護を受けている加護持ちの一人だよ」
アインとレンゲとデイジーが目を丸くして驚いている。アインは皇国冒険者組合のAランクパーティであるウイングスのリーダーであり、昔は騎士団に所属し新人の時は、咲と花の父親であるユーオズの教え子である。アインが驚きのまま声を漏らす。
「まだ、若いのに守星調査隊はさすがだなぁ~ 」
「ナズナが努力した結果だな! 薬師として職能を得たことで加護の試練を受けられるようになったから」
「お、お兄ちゃんいいよ~ 」
「恥ずかしがらなくていいだろ~ 」
ナズナは顔を赤くしながら狸耳をピンと立てて恥ずかしがっている。葵はナズナの努力を身近でみていて実の兄のように誇らしく思うので、ちょっとくらい自慢しても良いだろうと思っていた。そのやり取りを見ていたアインの隣に座る男がまた口を開く。
「けっ! 守星調査隊様は神様の力もらって大活躍だな~ オレたちが逆立ちしたってかなわねぇ」
相変わらず不快感を撒き散らす男だと葵は思う、やはりこの男とはどこかで会っているが思い出せないが、葵がこの異世界に来て、冒険者の印象を悪くしたひとりであるのは感覚的に覚えている。
「えーと誰だっけ? 」
「オレみたいな雑魚は覚えてねぇーよなぁ 特務騎士様さんよぉ! 」
「まぁ確かに覚えてないからそう言われてもしかたないかも」
「ふんっ! 」
男は不快感を露に酒の入ったジョッキをテーブルにドンッと置く、定番のパターンであれば男が葵の挑発にのり葵の胸ぐらでも掴みそうなものだが、男はそのままテーブルにある骨付き肉をむさぼる。男も葵に勝てないのは理解しているようだ。よくよくテーブルを見ると、男の前と回りに座る女性や男たちには豪勢な料理が並び、レンゲやデイジの前にはワンプレートの食事だけが置いてある。その差は相席したと思うほどだ。状況の理解できない葵はアインに尋ねる。
「アインなんかもめてるのか? 」
「葵は本当にコイツを覚えていないのか? 魔海島で皆に迷惑をかけただろう? 」
「あー あのゲスな人だぁ~ 」
「うんだと! 」
葵はアインの言葉で思い出す。魔海島奪還作戦時に無許可で先に島に上陸し、下位ランクの冒険者パーティーをそそのかし、当て馬にしたり、女性冒険者をオーガに単独で挑ませ、凄惨な死なせ方をさせていたグズリーダーである。葵はそうと知りいっそう挑発に拍車をかける。さすがのグズリーダーも挑発にのり声を上げるが、葵と視線が合うと舌打ちをして席に座り直し、酒を飲み始める。アインが葵と男の間に入り話を続ける。
「でだな、相変わらず下位ランクの冒険者をそそのかしてパーティに加え、ろくにまともな教育もせず報酬を吸い上げるだけ吸い上げて、自分はこうして豪遊三昧だ! だからオレたちが注意しに来たわけだ。魔海島の一件だって情状酌量で冒険者資格の剥奪は免れたことを理解していないのか? 」
「うるせーなー オレたちのパーティは実力主義なんだよ! そいつらが実力あれば今頃はパーティの中核になっていただろうよ、けどろくに戦えねぇーんじゃしかたねーだろうが、そいつらがうちに入りてぇって言ったんだからな なぁレンゲ、デイジ! 」
男はレンゲとデイジに視線を向けて尋ねる。ふたりは何かを怖れているように返答する。
「は、はい自分たちの力不足です…… 」
「な、納得しています…… 」
「だよなぁ~ 」
明らかにレンゲとデイジは言わされている。ナズナを保護した時も梔子が冒険者には騙す輩もいると注意していたし、そもそも彼らは冒険者を辞めるようなことを言っていた気がすると葵は思うが、このグズな冒険者たちにそそのかされたようだ。ナズナがレンゲとデイジに尋ねる。
「スイセンは一緒じゃないの? 」
「す、スイセンは…… 」
「…… 」
レンゲとデイジはそのまま下を向いてしまう。スイセンとはナズナたちがパーティを組んでいた時のもう一人のようだ。やはりナズナ以外は一緒に行動していたのかこの場にいないスイセンの事をふたりは知っているようだ。それをグズリーダーが鼻で笑い口を開く。
「スイセンは名誉の戦死を遂げたさぁ~ 先日の南のホールでな」
「り、リーダーあれはっ! 」
「レンゲ! やめて! あなたまで! 」
またしてもグズリーダーによって犠牲者をだしたようだ。
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