468-アオイの存在
「なんだったんだ? 」
目の前でおきたことに皆が疑問を隠しきれない。環がデイトとカーラスに尋ねる。
「デイト様、カーラス様、女性のアオイさんがアイさんの妖術で現れたのは何故でしょうか? 」
先ほどまで短時間ではあったものの確かに存在すらはずのない少女が皆の前に現れ言葉を交わした。あの様子では彼女が意図的に生まれなかったわけではなく、生まれられなかったようだ。眷属神であるデイトとカーラスにもアオイが現れたのは想定外だったようだ。デイトが顎に指をあてながら考えてから口を開く。
「推測に過ぎませんが、葵さんが転移した結果かもしれませんね」
「オレですか? 」
「はい、青星では彼女は何かしらの理由で器となるカラダに入れなかった。しかし、転移したことによって緑星には器となる適性のカラダがあった。そこにアイさんの妖術で一時的に存在できたのでしょう」
皆がデイトの説明を聞いてもそういうものと理解するしかない状況のなか、アイだけは大きく頷き口を開いた。
「なるほど~ だからあたし魔力とか精気を吸収することで形になったわけね~ 」
「アイさんどういうことですか? 」
マノーリアがアイに尋ねる。
「あたしたち狐耳の妖術やナズナちゃんたち狸耳の幻術は、そもそもその対象のモノの核に影響をあたえるのよねぇ~ 」
「核? 」
「そっ、物でも生き物でも形あるものであれば、必ず核があるのよ~ で、人の場合はその核が精神体って訳ねぇ 葵ちゃんの場合はぁ~ 精神体の中には、今いる葵ちゃんと女の子のアオイちゃんがいて、あたしが妖術をかけると女の子のアオイちゃんにかかったってわけね。本来であればひとりの人間として存在する女の子のアオイちゃんの方が精神体で見れば、形となっている男の子葵ちゃんよりも影響を受けやすいみたいねぇ。ただ、形となるために必要なのが魔力とか精気だったってことでしょね。女の子のアオイちゃんもさっき言っていたけど、あたしの命と引き換えにする量が必要だったのを彼女が途中で吸収するのを止めてくれたようね。知らなかったとは言え、かわいそうなことをしたわね」
アイが少し困ったような表情をしてから苦笑するが、いつも陽気なアイでも、今ばかりはそういった態度もとれない心情だろう。麻衣が誰とはなしに口を開く。
「もし、あの娘がひとりとして生まれてきたらあんな感じの娘だったってことよね? 」
その疑問に答えられる者はいないが、カーラスが麻衣に返答する。
「みなさんの人格は霊魂が精神としてカラダと結びつくことで成り立つので、彼女がそうなのでしょう」
カーラスの言葉に葵も頷きながら口を開く。
「カーラス様の言う霊魂とか精神はわからないけど、もし、オレたちが双子として生まれたら、もうひとりだったと思う、さっき一度ふたりになってまた一人に戻った時にアイツの気持ちを感じた気がするんだ。それに性格と見た目はうちの妹たちを足して、大人びさせたらあんな感じだったかもって思うし…… 」
葵が女装したアオイは、マノーリアに寄せたメイクを麻衣にしてもらい、ナズナの幻術で更に寄せたが、先ほどのアオイは、どことなく葵の妹たちのアヤメとユリに似ている。見た目はアヤメを派手にし、性格はユリにそっくりだった。葵の言葉を聞いた麻衣から言葉がこぼれた。
「聞けば聞くほど不憫でならないわね…… 」
その麻衣の短い言葉からもアオイを思う気持ちが感じられるが、なにもして上げられないもどかしさも混じるような声音だった。葵は皆がアオイを思い言葉少なげになっている姿を見て、少し高い声音で声をかける。
「まぁ 考えても仕方にいよ! アイツも状況はわかってるし、オレのなかには常にいるんだし、アマテウス様が目覚めたら相談してみれば何か良いアイデアももらえるかもしれないしね! アイツも自分のことで暗くなられても困るだろうから、今は邪神軍の本隊進攻の準備をしよう」
「そうですね。みなさん今できることをしましょう。後は、邪神たちを倒してから考えましょう」
環が葵に続き皆に声をかける。その環もアオイのことで潤ませた瞳を無理に鼓舞させる表情だ。皆もそれを理解してか目元を拭ったり、無理に笑顔を作る。アオイとの接触は数分であったが、葵の中で共に過ごしていたからなのか、長い付き合いの友との別れのような感覚を皆も感じていた。
お読みいただきありがとうございます。
次話も引き続きお楽しみいただければ幸いです。
いいね、ブックマーク、評価、感想、レビュー何かひとつでもちょうだいいただければ、励みとなりますのでよろしくお願いいたします。
ぜひ、下の☆印にて評価してただければ幸いです。




