464-如月アオイの謎の魅力
邪神軍のホールによる急襲を迎撃した葵たち守星調査隊は、ロスビナス皇国第2都市である城塞都市へと向かっていた。各ホール発現付近の陣構築と各本隊の再編成が完了した。眷属神であるデイトとカーラスと行動する守星調査隊が全面に出ることで、ホールの発現抑制と邪神軍本隊への即応を目的とする為、ロスビナス皇国とオーシャンガーディアン海洋国国境に位置し、邪神軍が進攻する海洋ルートに最も近い大都市である城塞都市の陥落は、その後の戦局を左右しかねない事も憂慮した判断である。それは誰もが納得する理由であるが、葵は城塞都市に行くことが憂鬱でしかなかった。
「いつもの葵らしくないわね~ 開き直りなさいよ、ファンサービスすれば良いじゃない 」
麻衣がいつになく憂鬱な姿を見せる葵に呆れたように声をかける。
「あそこまでウケるなんて思ってなかったし、そもそも男でも良いからとか言い出す騎士までいたんだぞ! 流石にそれ言い出した騎士たちの目を見た時は思い出すだけで身震いする」
「葵が自分でやったことでしょう? それにいざとなれば、騎士たちをケガしない程度に拘束することだって葵にとっては簡単なことじゃない! 」
「そういうことでもないんだよ! 元々そっちじゃないオレと騎士たちが見た目だけでその気になるのおかしいだろ」
葵は以前、女性騎士失踪の調査のために城塞都市に訪れた時に、女装し麻衣がメイクを施し、ナズナの幻術と環の能力でで、マノーリアの従姉妹の如月アオイと名乗り、絶世の美少女として訪れた。その美少女っぷりは葵とわかっている守星調査隊の皆も驚く程であった。ナズナがおずおずと葵に声をかける。
「お兄ちゃんごめんね。先に言えば良かったんだけど、わたしたちの能力って見た目変えるのと一緒に周囲にどう見せたいかで効果が一緒に付与されるの」
「効果? 」
「お兄ちゃんの時は魅了だし、わたしが子供の姿をしていた時は、保護欲を刺激する効果だったり、咲ちゃんと花ちゃんのヴァリアブルには恐怖を増幅する効果が付与されてるの」
狸耳の能力である幻術は見た目を変えるだけでなく特殊効果が付与されており、それにより幻術をより効果的にするようになっている。アイが話に混ざるように皆のところに歩み寄り声をかける。
「あら~ 今、狸耳の能力の話してた? 」
「ええ、アイさんも狐耳だからそのあたりは詳しいでしょ?」
梔子がアイの言葉に訪ね返す。アイがもちろんと言わんばかりに口を開く。
「それはそうね~ まぁ狸耳が幻術で狐耳が妖術なんだけど基本的には一緒よね~ どちらも似たような術があるし、どちらが得意かってくらいの差でしかないわ」
「どう違うんですか? 」
マノーリアがアイに尋ねる。アイがそれにさらりと答えるあたりは、さすが元騎士であり、冒険者トップランカーである。
「簡単に言えば姿を変えるのが幻術で、景色や物を変えるのが妖術かしらね」
狸耳のナズナや咲と花の父親であるユーオズの形見のダガーに込められたヴァリアブルも姿を変える術である。これがアイの言う姿を変える幻術で、一方で狐耳のアイやハリーは、周囲の景色を変化させたり、武器の数を変化させたりしているこれが妖術になる。アイが疑問を葵に声をかける。
「不思議なのは葵ちゃんがそこまで嫌がることよね~ 」
「いや~ そりゃイヤでしょ! そもそも同性愛を否定するつもりはないよ。でも、オレの女装姿に熱狂的な騎士たちは完全にオレを女として見てるんだよ」
「そこなのよね~ 」
「何が? 」
「ナズナちゃんは普通の能力だけよね? 」
「はい、特に変わったことはしてませんし、わたしのレベルではそこまで高度な幻術はできません」
アイは腕を組んで少し考える素振りをしナズナに尋ねる。
「ナズナちゃんは基本的な幻術と妖術の弱点はわかる? 」
ナズナはアイの問いに少し間を開けるがすぐにその答えに気がつき口を開く。
「術に気がつけば効果は無効になる…… ってことですか?」
「そうね。さっきの戦いでも咲ちゃんと花ちゃんがヴァリアブルだったかしら? あれ、お父さんの幻術でしょ? 」
アイはナズナに答え次に咲と花に尋ねる。
「はい、このダガーが父の形見でふたりで合わせると魔力を引き換えに術を使えます」
「使った後は立ってられなくらいになっちゃいますし、一定時間自分たちも狸耳としっぽになりますね」
咲と花がダガーを差し出し見せる。アイは軽く頷き口を開く。
「それはしかたないわね。ふたりは狸耳じゃないし~ ふたりが使うのはあたしも初めて見たけど~ あのモンスターはお父さんが良く使っていたから初見のあたしでも恐怖の効果はかからなかったわ、これが効果無効ね♪ 」
ユーオズと面識のあるアイは過去にユーオズのモンスターを見たことがあるようで効果はなかった。確かに初めてヴァリアブルを見た時は、葵たちも新手の魔族かと恐怖効果にかかったことを思い出す。アイは話を続ける。
「だから~ 葵ちゃんが男ってわかれば~ 魅了の効果は無効になるし~ だから術以外の原因があると思うのよね~ みんなはどうたったの~? 」
アイが葵が女装した時の事を尋ねる。梔子が何か思い出しあっと声が漏れマノーリアが尋ねる。
「クー何か思い出したの?」
「ビャク兄が照れてた! で、タマちゃんがそれ見て嫉妬してた! 」
「クーお前何言ってんだ! 」
それまで皆の話を聞き役になっていた白檀がクーに抗議するように口を開いた。続き様に環も当時を思い出したのか口を開く。
「そうですよ! あくまでもわたしは白檀さんと葵さんが男女に装うからいつものようなスキンシップはダメですよって忠告しただけです! 」
環もまたいつもの余裕というか冷静差がないような口調で梔子の言葉を否定するがその態度からやはり嫉妬心があったと皆も思う。アイが葵に声をかける。
「やっぱりおかしいわ~ 葵ちゃんまだつかないしぃ あたしにも女の子のアオイちゃんになったところ見せて♪ 」
「イヤだ! 」
「なんで~♪ 見たいぃ~ 」
アイが葵の腕に絡んで甘えるように催促する。麻衣がアイを援護するように口を開く。
「アイさんとナズナが術を使う本人たちが不思議だって言ってるんだからなりなさいよ! ほらメイクするわよ! 」
「オレの尊厳はないのか! 」
「いいから! ナズナ行くわよ! 」
「はい! 」
葵のアオイの謎の力を調査する為、強制的に如月アオイとなるのであった。
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