461-神官騎士見習い 前編
白檀とカーラスたちは、ロスビナスシティから西に発現したホールを早々に対処し、南側に発現したホールの部隊へと合流していた。西側は有翼魔族を率いるアドレスがカーラス以上の力を持っていなかった事と邪神軍の地上部隊を指揮する上級魔族が、白檀が手こずるような相手でなかった事が早々に決着した要因だ。
「デイトたち東側の隊も迎撃に成功したようです」
「予想以上に時間がかかったな」
カーラスがデイトと意識を同調させたことによって、東側の戦闘状況を把握した。白檀からしてみれば邪神軍の尖兵部隊であれば、デイトだけでなく葵たち神々の力を授かった者たちの多い東側の方が自分達よりも早々に決着がつくと予測していたようだ。
「新たな上位魔族があちらには現れたようです。現れたのは百目千里眼のヴィネアスでしたか…… 」
「百目千里眼のヴィネアス? 」
カーラスも過去の大戦でヴィネアスの存在は知っていたようだ。白檀がその名を繰り返した。
「近接タイプでなく、長距離からの攻撃を得意とする悪魔で、今までの相手とはかってが違ったようですね」
「ふーん」
白檀はカーラスの説明をつまらなそうに聞いている。白檀からしてみれば、そんな相手ならば自分が相手をしたかったようだ。白檀が強い相手を望むのは、強者と闘いたいとかそういうものでなく、1番の強敵を自分が相手にすることが守星調査隊の皆を危険にさらすことがないというおもいからだ。
「苦戦はしたものの葵さんたちが新たな力を使って倒したようですね」
「新たな力…… どんな力なんだ? 」
「そこまでは、おそらくデイトも直接は見ていなかったようですね。ですが、信治さんと麻衣さんのアマテウス様の力と葵さんの光竜様より授かった力を使ったようですね」
「ふーん」
白檀は腕を組んでカーラスの話を聞いている。カーラスは軽く笑いながら白檀に視線を合わせる。白檀が苦笑しながらカーラスに声をかける。
「その視線はカーラス様でなく、柊が何かあると向ける視線だよな」
カーラスが仮面で目元を隠していても口角の上がり加減を見れば、誰でもわかるほどに笑っている。
「白檀さんは相も変わらずお人好しと思いまして」
その口調はカーラスではなく柊の口調だ。ひとつのカラダにカーラスと柊の精神が同居しひとつとなっている今のカーラスは、眷属神でありながらどことなく人間味を感じる。
「そりゃどーも」
「デイトもおりますし、葵さんたちもこの一年で急成長しました。頼ってもよろしいのでは? 」
「頼ってるさ、けどな、心配なだけだ」
「あら、白檀さん少しは素直になられましたか」
「オレのこと良いんだよ。で、あっちは大丈夫なんだろう? 」
「ええ、一時は窮地に立ったようですが、形勢逆転し難を乗り越えたようです。負傷も癒えたようですし、多少の装備の損害があるものの問題ないかと」
「そうか、ならいい」
白檀は言葉数少なく返答するがその顔は安堵したように見える。白檀が話をすり替えるようにカーラスに声をかける。
「しかし、柊が眷属神だとやりづらいな」
「あらそうですか? 」
「全てを見透かされている気がする」
「たとえ眷属神でもそこまでは…… 」
カーラスいや今は柊と言っても良いのだろうが、白檀をからかうような声音で白檀に返答する。白檀がまた苦笑をしてカーラスに言葉を返す。
「カーラス様だからでなく、柊だからだよ」
「あらそうですか、白檀さんとのつきあいも長いですからね。もう9年目ですものね」
「環が皇女に選ばれる前からだからな」
白檀と柊のつきあいは長い、年月で言えば環やマノーリアとは幼なじみなので、更につきあいは長いのだが、ふたりの出会いは共に騎士見習いとして同期として騎士団に加わった。
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9年前騎士団騎士団長室
「失礼します。団長今年の徴兵免除の飛び級見習いを連れて参りました」
「ご苦労。別にかしこまらんで良い、皆知らない顔でもないんだ。ユーオズも同席しろよ」
「あー やっぱりそうなります? 」
「教練の長が話を聞かないわけに行かないだろう」
「はい」
ユーオズは騎士見習いを部屋に入れドアを閉める。
「一応ふたりとも挨拶をしとこうか」
「はい、本日付で騎士見習いとなりました。ハーレー・ハリーです。よろしくお願いいたします」
「同じく、騎士見習いとなりました。文月白檀です。よろしくお願いいたします」
挨拶したのは15歳のハリーと白檀で、ふたりも徴兵免除で騎士団へ入団した。
「よろしい、皇国騎士団団長の如月・リーフ・アールグレイだ。ハリー、白檀よろしくな。ふたりのことは幼い頃から知っているが、ここからは遊びではなくなるから心するように、紹介する必要もないが、騎士長の文月 沈香と騎士団教導隊教練隊長の卯月ユーオズだ。本来はふたりにも騎士団の要職に着いてもらいたいのだが、これ以上の要職は望んでないのでな…… 」
アールグレイが沈香とユーオズを睨むが、そのふたりは笑みを浮かべて素知らぬ顔をしている。アールグレイはマノーリアの父親で沈香は白檀と梔子の父親そしてユーオズは咲と花の父親である。当時の騎士団の実力者である。アールグレイが呆れたように肩をすくませため息をひとつ吐き、ユーオズに声をかける。
「で、この若いふたりをどう育てるつもりだ? 誰かたちのように実力があるのに要職に着かないような育て方はしないでほしいのが、わたしの要望だがユーオズはこのふたりの資質をどう見ている? 」
ユーオズが苦笑混じりに頭をかきながらアールグレイに返答する。
「ハリーは斥候隊へ白檀は前衛騎士として育てるつもりです。まぁふたりの得意とするところを伸ばせば妥当かと…… 」
ユーオズはやる気があるのかないのか、わかりずらい独特の口調で話す。アールグレイも沈香もつきあいが長いからかその口調に何とも思わないようだ。アールグレイはそのままユーオズに続きを話すように目で促す。
「ハリーは妖術と魔術に長けてるし単独での潜伏行動に適している。白檀は秀でた剣術と人並み外れた魔力量は皆の先陣きるにはもってこいだ。けど、アールさんと沈さんだってそのつもりでしょ? 」
「まぁそうだな」
沈香がユーオズに言葉短く同意しウンウンとうなずいている。するとユーオズが勝ち誇ったような顔して鼻をならして口を開く。
「オレはその続きを考えてる」
「続き? 」
「オレは近い将来このふたりのどちらかは加護の試練挑ませて良いと思っている」
「加護の試練だと!」
「ああ、それだけの潜在能力をこのふたりは持っているとオレは思っている! 」
ユーオズは満面の笑みで白檀とハリーを見るが言われた当の本人たちも驚いている。アールグレイがまた深いため息をついて口を開く。
「ユーオズはたまに訳のわからないことを言い出すからな、まぁそれはまた今度だ。で、話は変わるが、徴兵免除で騎士団に入るものがもう一人加わる」
「このふたりだけじゃなかったのか? 」
沈香も初耳のようでアールグレイに聞き返している。
「急な申し出があってな」
「誰から? 」
「神殿長だ」
「神殿長? 」
すると騎士団団長室の扉がノックされる。アールグレイが返答しながら席を立ち上がる。
「噂をすればだ。神殿長たちが来たようだ」
神殿長と一人の少女がアールグレイの招きで部屋へと入ってきた。
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