460-無の力の発動条件
「カーラスたちはそのまま南に移動し加勢するようです」
「わたしたちはどういたしますか? 」
「あくまでも推測になりますが、邪神の力であっても結界の亀裂にこれだけの軍勢を送り込むホールを発現させられるのは、大樹木蓮からの距離でここまでが限界だと思われます。西、南に発現した位置を見ても距離は同じような場所です」
仮設の陣を築いて今後の行動を話すこととなった葵たちは、本隊の天幕に集まり、各隊の指揮官が集まり話し合っていた。デイトによって西に発現したホールに対応したカーラスたちの部隊は、そのまま南に移動して南に発現したホールに対応している隊と合流し対応するようだ。デイトが魔法具で写し出されたロスビナス皇国の地図にホール発現位置を記し、その状況から邪神軍の出方を推測する。ホールの発現位置からすると、邪神の力によって大規模な軍勢を尖兵として送り込んできたが、これ以上はロスビナスシティの近隣距離には発現できないと判断した。
「無論この大陸に上陸したのちにホールを作り出せばまた話は別ですが、大陸上陸後は我々の迎撃を受けながら、これだけの軍勢を送り込むことはないと思います。」
「少数ならあり得ると」
「ないとは言えませんが、ホールはそもそも自然の摂理を歪めるものです。わたしたち眷属いる限りはわたしたちを追い越して創ることはできない能力なんですよ」
この世界の大地、大気、水、植物そして炎を創り出した女神の眷属であるデイトたち眷属神の目を盗んで軍勢を送り込むことはできないようだ。どうしてなのかと思うがそういう世界でそういう仕組みと思うしかない。
「それに大樹木蓮が創り出している女神の結界もある以上はそう簡単にはさせません」
大樹木蓮は最高神である女神アマテウスの化身であり、大樹木蓮からも結界が創られているらしい、とは言え完全結界でないため、出入りは可能で魔族がその結界内で行動することも可能だが、一度に大きな影響をおよぼすようなことができないように結界がはられているようだ。
「では、わたしたちはこちらで待機しつつ、邪神軍の本隊との決戦に備えるでよろしいでしょうか? 」
「そうですね。ただ、どのような動きをするかは想定を超える可能性は十分あり得るので、マノーリアさんたちはいつでも動けるようにしてください」
「わかりました」
マノーリアがデイトの指示を承諾し守星調査隊は別動隊として出撃体制を維持することとなった。デイトが葵に尋ねる。
「葵さんは無の力が使えるようになったのですか? 」
葵は腕を組んで唸ってから答える。
「まだなんとも言えません。さっきは使えたんですけど、それが毎回使えるかと聞かれるとまだ自信が持てませんね」
「そうですか」
「えー 葵くん早く使えるようになってよ! 」
信治が葵の返答にがっかりしたような声音で葵に声をかける。
「そう言われてもなぁ」
葵は苦笑するしかなかったので信治に質問で返す。
「やっぱり、無の力があった上で麻衣の力と信治の力でヒーローズライブラリーが成功したってことか? 」
「たぶんね。そもそも僕が作ったのはヒーローズエンサイクロペディアだったのが、光に包まれてこの本がドールハウスみたいになって、いつの間にか大きな建物に変わってたんだ。僕もよくわからないうちにヒーローズライブラリーって唱えてた」
信治は手に持っていた本の形をした魔導具を葵の目線に持ち上げてそう返答した。たしかに、先程の戦いの中で信治の魔導具が建物の形に変わり、強力な助っ人を召喚することに成功した。信治はさらに話を続ける。
「あの時に感じた力は麻衣さんと僕のモノとは違う力だと思う、それってたぶんウルイド様の力だから違うって思うだと思うんだよね」
信治の言うとおり、ここにいるほとんどの者は最高神女神アマテウスかその眷属である眷属神たちの力を授かった。葵は唯一ウルイドからも力を授かったことによって、無の力を得ている。女神アマテウスと対等な立場にある終焉の神ウルイドの力に違いを感じるのは何となく葵にもわかる。信治はさらに話し続けた。
「なんと言うか、女神様の力を借りると頭の中で理解できると言うか、けど、無の力が発動し時は理解とかでなく答えを教えてもらったから、それをしただけと言うか、何でそうなるの? ってそういうのはよくわからないまま結果的に力を借りたと言うか…… 」
「信治の言いたいことはわかるわよ。たしかに答えみたいなのが出た気がしたわよね。わたしたちはその答えの中で1番良い結果を選んでいったみたいな感じね。葵はあの時どうやって無の力を発動させたの? 」
麻衣が信治に同意し葵に尋ねる。麻衣のアマテウスから授かった力は、仲間の行動を8割成功させる力だ。麻衣の口ぶりからすると、無の力を使った時はその力に違いがあったのだろうか、葵は麻衣に質問で返答する。
「いつもと違う感じなのか? 」
「はじめて使った力だからわからないけどね。そもそもあたしが新たにもらった力は成功率80パーセントにする力よ。あの後、試しに使ってみたけど、答えが脳裏に思い浮かぶことはなかったわよ。で、あたしの質問の答えは? 」
「ウルイド様にも言われたけど無の力の発動方法ってないんだよ。それに本当の無の状態もない、だから何かが必ず存在するんだ。だから、成功する道を選択するイメージをして脳裏に浮かんだ糸を手繰り寄せた」
葵は無の力が発動した時を思い出しながら麻衣に答えた。葵の答えに今度はマノーリアが質問した。
「無の力なのに有ることをイメージするの? 」
「うん、だって本当の無ってイメージできる? 何もないってけっこう難しいよ。何もないって思うこと事態がないをイメージしてる思考が存在するだろう」
「そうね。そう言われると何もないって経験したことないことよね」
「でしょ! たぶん何もないを本当に感じられるのはウルイド様だけなんだと思う。だからオレは有ることをイメージするようにした。無いこと考えても無理だったから」
皆が葵の話に納得したようなしていないような曖昧な表情をしている。それも仕方の無いことだ。ウルイドの力を授かったのは葵だけで他の者は葵の感じたことを理解するしかない。デイトが葵に尋ねる。
「葵さんは成功が存在するとイメージしたのですね」
「そうですね。これ無理とかあれは無理とかそういうのは辞めて、どんな手段でも良いから成功だけを手繰り寄せるみたいな」
「それで、麻衣さんの力が答えが出るようになったのでしょうね。成功の中からもっとも理想とする成功の確率を80パーセントに引き上げたと、その上で信治さんの能力で更に1/2に確率を引き上げた。無の力によって作戦の成功は約束されていたと過程すると、その中で全てが成功する選択肢を選んだということになりますね。今回、成功した要因は葵さんが成功を確定させたイメージで力を発動させたからでしょうか…… あくまでも推測ですが…… 何にせよ葵さんが無の力を使いこなせるようになると、邪神を倒す最大の武器となり得るかもしれませんね…… 」
デイトはそういつつも少し思案するように顎に指を当て少しうつむき沈黙する。マノーリアがデイトに声をかける。
「デイト様? どうかされましたか? 」
「いえ、ところで葵さん無の力を使ってみてカラダに変わったことはありませんか? 」
デイトがマノーリアに返答しながら葵に尋ねる。葵は視線を上に向けながら肩や腕を回して自分のカラダを確認する。特に変わった様子はない。
「問題ないですよ。むしろスッキリした気分ですね」
「そうですか、であれば大丈夫です…… 」
デイトは意味ありげな質問であったが、デイトも自身が支える女神と同等なウルイドの力を計り知れない部分があるのか葵の答えをそのまま聞き入れるが、いつもの無表情のデイトが少しだけ不安げな表情にも見えるが、それはデイトらしからぬ発言の後だからだろうと葵もそれ以上は詮索しなかった。少なからず今は今後の邪神軍との決戦で無の力を使いこなせるようになるのは必須だと葵は決心するのだった。
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