441-父親との恋ばな
「やっぱり温泉は良いよなぁ~ 極楽極楽♪ 」
「温泉入って極楽ってお約束かよ! 」
「ベタがベターなんだよ! 」
「ダジャレでたたみかける。まさにオッサンって感じだけど? 」
「そりゃ息子がもうすぐ20歳になるんだ立派なオッサンだろう」
「抵抗しないんだ」
「認めないきゃ疲れるだけだろ? 自分がありのままであることを認めると案外楽なんだよ。誰にも迷惑かけないしな」
「隣で寒いオヤジギャグ聞くとせっかくの温泉が冷水に使ってる気になるけどね」
「ガハハハハ! 」
葵は、以前、急遽父親と行ったツーリングの夢を見ていた。夢と認識できたのはその様子を第三者として見ているからだ。しかし、夢にしてはかなり鮮明でリアルだ。父親がこの後の会話も何となく覚えている。少し気恥ずかしくなる会話をした気がする。
「女子会定期的にやってくれるとこーやってツーリングに来やすいんだけどな」
母親と妹ふたりの3人で出かけることになり、父親が葵をツーリングに誘ったのだ。父親が温泉の中でカラダを伸ばしながら話を続ける。
「けど、彼女と予定なかったのか? 」
「あー 別れたんだよね…… 」
「すまん」
「まぁ 別に気にしてないから良いんだけど」
「気にしてないのか? 」
「え? あ、うん」
父親が温泉の湯を両手ですくいあげ顔を洗ってから改めて葵に尋ねる。
「お前から別れを告げたのか? 」
「イヤ、彼女から…… けど、そう仕向けたのはオレかな…… 」
「冷めたってとこか? 」
「どうだろう? 大学入ってなんとなく付き合ったところあったから、そもそも好きだったのか…… 」
「ふーん」
「ふーんって、フツー父親なら女の子を泣かすような付き合い方するなとか言わないの? 」
「昭和かっ! まぁお前がチャラチャラして責任とれないようなことしてたら、さすがに言うかもだけどな、お前がそこまで浅はかだとも思ってないしな。イチイチ父親から何か言うほどの事でもないだろ? しかしなんだ、なんとなく付き合って葵が好きだったのかもわからない相手とつき合ってて楽しいか? 」
「まぁ それなりにはフツーのカップル的な事はしてきたから」
「オレが聞いているのは、お前がその彼女といて楽しかったか聞いているんだけどな。父親が言うのもおかしいんだろうけどさ、割りきったらセックスしたいなら風俗で良いんだよ。でも、彼女に求めるのってそういう事だけでもないはずだろう? 家族より友達よりも大切な存在というか」
「あー そう言われるとビミョーだな。彼女が独り暮らしだったから、良く泊まりに行ってたけど、オレも彼女も自分の予定が入れば優先してたかもな、けど、それがフツーじゃない? 束縛するのもされるのも鬱陶しいし」
「束縛するのは別だよ。彼女と会えないときに自分の気持ちがどうだったか、寂しいしとか会いたいとかそういう事だ」
「あー 正直予定空いた何しようかなって最近は思っていたかも…… 」
葵は思い出しながら苦笑する父親の言っていることがある程度理解して自分のその時の気持ちを考えると自分が嫌なヤツに感じて苦笑していると父親が口を開く。
「まぁ 彼女も同じだったと思うぞ、少なからず彼女が別れを決めたんだ。彼女のプライドに傷はついてないだろうしな」
「そうかな…… 父さんはさ若い頃どうだった?」
「オレか…… なんか息子に話すのって照れるな」
「なんでよ? 」
「ママとの出会いだろ? 」
「イヤ別に母さんとの事じゃなくてもいいんだけど…… 」
「いちばん惚れて四六時中頭から離れなかったのはママだけだ」
父親が年甲斐もなく照れている。葵の両親は仲は悪くないだろうと、息子ながらに感じてはいたが父親がここまで照れていると逆に葵が恥ずかしくなってくる。葵は冷めた感じに父親に返答する。
「確かに両親の馴れ初めは聞いている方も恥ずかしいから話さなくてもいいかも」
「いや待て葵! オレは話すぞ! 今の葵には必要だ! 」
「何が? 」
「本気で人を好きになるって言うのがどういうことかだ! 」
「え~ 」
さっきまでは照れていた父親が話す気満々に背筋を伸ばした。葵が引く声を漏らすほどの様子だ。
「まぁ 振ったのはオレだしね…… 」
葵は苦笑し父親の話を聞くことにした。そんな過去の記憶を客観的に見ている葵は今になってこの夢を見ているのだろうと考える。この父親とのツーリングの数週間後に葵はこの異世界へと旅立つことになった。葵の潜在意識が何かを伝えようとしているのか、自分の本当の気持ちを知ることを考えることにしたからなのか、葵は父親との気恥ずかしい会話を第三者として見ていることしかできなかった。
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