432-邪神の力とメフィストの最後
「直哉さん?!…… 」
葵たちは魔艇の先に現れた球体の中にいる人物を見て思わず言葉を失った。ワァプラたちが邪神を目覚めさせるのに自然覚醒でなく人間を苗床にして覚醒を急ぎはじめたことは、アマテウスから聞きはしていたが、まさかその苗床となった人間が、日本人転移者のひとりである柴崎直哉だった事は想像もしていなかった。
「直哉さんの秘書の人がサーベラスが連れ去ったってそういうことだったのか…… 」
柴崎が行方不明になった時を考えれば確かにこうなる可能性があったが、それ以上の情報がなく救出する術がなかった。ガラスの球体の中で培養液ような液体に浮かぶ柴崎がゆっくりと目を開く。
「貴様が魔王メフィストか? ふっ、魔王を名乗るには少々役不足のようだな。まあよい貴様は我が目覚めの糧となれ、貴様の配下は全て吸収させてもらうか存在を消す」
メフィストは斬られた足の痛みと邪神の言葉に顔を歪めている。
「誰が貴様に従うか! シルクハット! どうにかしろ! 」
「ほう、まだ強がれるのか、まぁよい我が力を思いしれ! 」
邪神は両手を前にかざすと指先から細い黒い糸が無数に伸びていく、サーベラスと闘っていたデイトがサーベラスに背を向けて葵たちの元へと走りはじめ皆に声をかける。
「全員逃げてください! 」
「背を向けるとは! デイト・ア・ボット死ね! 」
「ぐはっ! 」
サーベラスがハルバートでデイトの背を切り裂き、デイトは自身の防御を捨て皆の元へと負傷しながらも走る姿を最後に次の瞬間に葵たち視界が暗転する。
「な、何が起きた…… 」
葵たちの視界が戻り周辺を見渡すと、そこには大剣を杖のように地にさし、やっと立っているデイトが視線に入った。
「デ、デイト様! 」
「あ、葵さん…… みなさん無事ですか…… ぐはっ! 」
「デイト様! 」
梔子や麻衣もデイトの元へと集まる。
「ヒール! ヒール! 」
「わ、わたしは大丈夫です…… い、今のうちです…… す、すぐにり、離脱を! わたしは残念ながら休息が必要そうです…… 」
デイトは皆を守るためにあの瞬時に岩壁と自身と自身の眷属を盾に葵たちを守った。デイトの眷属は全員姿を消している。デイトもゴーレムパワードスーツもボロボロに破損している。過去デイトがここまでダメージを受けた姿をここにいる誰も見たことはない。
「みんな離脱を! 」
葵と梔子が馬車を先導し、馬車の屋根に咲がたち、後方を麻衣と萌が追随する。皆魔族に対する攻撃でなく最速で走りつつ防御に力を費やす。馬車の中では意識を失ったデイトとナスタチュームが横たわる。ナスタチュームの治療にマノーリアと花が集中している。
「マニーさんこれは…… 」
「わたしにもわからない…… 何が起きたのか…… 」
ナスタチュームがやっと動く唇を震えながら言葉を紡ぐ。
「マ、マノーリア…… ありがとう…… ご…… ございます」
「い、今助けます」
「だ、大丈夫です…… よ…… 最後にマノーリアと過ごせたこと…… いい思い出になりまし…… 」
「ナスタチューム! 」
ナスタチュームは下腹部がえぐられ子宮が全て失っている状態で馬車の近くに倒れていた。おそらく邪神の力によって魔王メフィストの復活がないようにナスタチュームの腹に宿った命も消し去ったのだろう。
「ヒール! ヒール! 」
「マニーさん…… 」
「ナスタチューム! 起きて! ナスタチューム! ナス…… 」
「マノーリアさん! 」
マノーリアが何度も何度もヒールをかけるがナスタチュームがそれ以上回復することはなかった。そして花がマノーリアの手を強く握り制止する。誰の目にもナスタチュームが息を引き取ったのは間違いなかった。
「WBH緊急発進! 大至急魔族との距離を取ります! 」
萌がWBHを緊急発進させる。葵たちは敗走するかのようにその場を後にした。
邪神の力によって魔王メフィストの配下は全て蒸発した。今残るのはサタナキアの足元に倒れているメフィストだけだ。メフィストの体には邪神の手から伸びた黒い糸が巻きついている。その糸によって邪神の球体前に面刷れた格好となる。
「他者への恨み妬みと欲望か…… 貴様の力を全てもらい受ける」
邪神は巻きついた糸の先をメフィストに突き刺していきストローのようにメフィストから何かをすいとっていき、すい終わるとメフィストに絡めていた糸を外してゴミを捨てるようにメフィストの体を捨てていく。
「悪くない…… ワァプラ戻るぞ…… 」
「はっ! 」
魔艇の船首がまた閉じられ魔艇は来た道を戻るのであった。
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