426-魔王軍の真の本城
「体調はどうかしら? 」
「はい、おかげさまで少し楽になりました」
「辛かったらいつでも言ってくださいねナスタチューム」
「ありがとうございます。マノーリアのおかげで窓のある部屋に移動できて気分的にも楽になりました」
「景色が変わらないのが難点でですけどね」
マノーリアとナスタチュームは極地の変わらぬ景色を眺めながらお互いクスリと笑う。状況が好転したわけではないが、マノーリアの進言により軟禁される環境が改善されたのだ。シルクハットが言うとおりマノーリアを魔王メフィストの妃にナスタチュームたちを側室にするのは真実だったようだ。環境が改善されたところで何も変わらない、唯一ナスタチュームの体調を悪化させない為の措置である。マノーリアは身ごもったナスタチュームを連れて脱出をしなければならない。ここが、自分たちの生活する大陸であればなんとかなったかもしれないが、極地大陸では脱出後に速やかに救出されなければ、10日も経たずにふたりは命を落とすこととなる。今は仲間たちの救出を期待するか極地大陸を出てからの脱出を想定しなければならない。しかし、魔王メフィストの子を身ごもったナスタチュームに中絶の処置をするには早めに脱出する必要がある。その後のナスタチュームのケアも必要である。ふたりで他愛もない話しているとドアがノックされる。
「ニャー」
化け猫メイドが声をかけてくるが人語ではない為、何をしゃべっているかはわからないが、時間的に昼食の時間なのであろう。マノーリアとナスタチュームが席を立ち部屋を出ていく。食堂として作られたわけではないが広い部屋に長いテーブルが置かれ席が用意されている。化け猫メイドがマノーリアとナスタチュームを席に座らせる。上座へと魔王メフィストが座りその側にシルクハットが立つ、マノーリアは魔王メフィストに声をかける。
「ごきげんようメフィスト…… 」
「マノーリアどうした? 」
「いつも思うのですがこの食事わたしたちが口にしても問題ないものなのですよね? 」
メフィストはグラスに入った液体を飲み干し高笑いをしてから返答する。
「すでに何日も食べているだろう? 」
「生きるためには仕方ありませんし、毒や呪いの類いも見受けられませんので…… 」
「そう邪険にするなって! 変な肉や毒も呪いかけてない。だからオレが常に同じ物食している。オレたちの中で唯一お前たちと同じ物を食して違和感を感じれるのもオレだけだからな」
「その言葉を鵜呑みにできるかは別として、今の軟禁状態で唯一の楽しみはナスタチュームとの団らんと食事くらいですからね。ナスタチュームいただきましょう。次回からナスタチュームとお部屋でいただいてもかまいませんけど」
マノーリアは品良く食事をしながらも刺々しい言葉をメフィストに向ける。メフィストは気にもせず余裕の表情を浮かべる。
「なぁマノーリア。オレたちが何の策もなく砦を放棄して撤退したと思うか? 」
撤退した後の事は、何かしら考慮はしているとはマノーリアも思うが、メフィストの言い回しだと、この撤退も計画のひとつのような口ぶりだ。
「あなたの案なのか、それともそちらの宰相の案なのかはわからないけど何かあるんでしょうね」
「さすが妃候補は頭の回転が早くていい! 」
「勝手に妃候補にしないで! 」
マノーリアの冷たげな返答をもメフィストにとってはご褒美のようで楽しそうにしている。メフィスト薄ら笑いながらマノーリアへと声をかける。
「マノーリアもうあきらめろ! お前だってわかるだろう? この大陸はお前たち人間が生きられるように創られていない。その上、お前の仲間が助けに来たところで返り討ちにしてやるさ! 」
「ずいぶん自信があるわね。わたしにはあなたたちが危うくなると逃げているようにしか見えないわ! 」
魔王メフィストが更に声をあげ笑う。
「マノーリアの言うとおりだな! そうさオレたちは無駄に戦う必要はないのさ! 邪神軍と人間どもが戦って死んでくれれば、いずれ勝機が舞い込んでくる。それまで我々は力を温存するのみ、お前たちと邪神軍が小競り合いをするように仕掛けはするけどな。今の戦力差を考えればオレたちを全滅させたいと思えたちも、邪神軍も思うだろう? 」
マノーリアが怪訝そうな表情をしながらもメフィストの言葉に同意する。メフィストの話を引き継ぐようにシルクハットが口を開く。
「邪神の命令なのか邪神の血がそうさせるのか、地の利を利用すれば邪神軍は我々が攻めるのを待てば良かった。しかし、こうして僻地であるこの地に侵攻した。そしてあなた方も極点防衛を理由に現れた。我々の戦力を低く見積もった結果ですね。当然、まだまだ戦力は邪神軍に及びませんが地の利は活かしませんとね。使えるものは何でも使わせていただきましょう」
シルクハットがステッキで床を叩くと化け猫メイドがカーテンをあけて窓を開け広げる。
「これは…… 」
「マノーリアはつい先日訪れたんだろう? 」
マノーリアはしっかりと記憶にある。年輪のような地表が何もない極地の大地に広がる景色は極点しかない。魔王メフィストが声をあげる。
「我が本丸の城を見せてやろう! 」
すると、極地の年輪の手前の大地が揺れ城が現れる。極点を守るためにデイトを中心にかけた結界が魔王メフィストの城を守るように後方展開している。魔王軍は自分たちの戦力不足を敵である眷属神の結界をも利用して補ったのであった。
お読みいただきありがとうございます。
次話も引き続きお楽しみいただければ幸いです。
いいね、ブックマーク、評価、感想、レビュー何かひとつでもちょうだいいただければ、励みとなりますのでよろしくお願いいたします。
ぜひ、下の☆印にて評価してただければ幸いです。




