423-マノーリア守ったもの
「これで良いのでしょう? あなたたち魔族がまともに信用したところでしかたないけど、彼女の生活環境を大至急変えなさい」
「無論、妃候補のマノーリア嬢との約束を破ることはいたしません」
「わたしは治療師です。彼女の主治医となりますので基本的に部屋は一緒にしてください。魔族ばかりの船で精神的に彼女は辛いですから」
一度シルクハットがメフィストに目をあわせ、メフィストがコクりと頷き了承する。化け猫メイドがマノーリアと葵たちが救出できなかった女性騎士を部屋に案内する。マノーリアは部屋に入ると女性騎士をベットに座らせ声をかける。
「少し手狭だけど、魔族の船とは思えない部屋ね。改めて自己紹介しましょう。ロスビナス皇国騎士団騎士長如月マノーリアです」
「わたしはストロングスピア自治区騎士団所属のナスタチュームです。如月騎士長と直接お話しできる機会ができるなんて光栄で…… うっ…… 」
ナスタチュームは口元を押さえ洗面台に走り出す。その様子を見たマノーリアがナスタチュームに改めて声をかける。
「ナスタチュームさんやっぱり…… ちゃんと診断をした方が良さそうね」
マノーリアは数時間前の人質身代りで、邪神軍の砲撃の際すぐ隣にいたナスタチュームの手をとって螺旋階段へと避難した。その際、マノーリアは、ナスタチュームの体調の悪さが、魔族に拐われ劣悪な環境や病気によるものでないことを治療師である前に同じ女性としての感覚が察した。
「ナスタチュームさん妊娠されているわよね? 」
ナスタチュームは静かに頷き下を向く、その表情は複雑な表情をしている。ナスタチュームは小さく泣きそうな声でマノーリアに答える。
「魔王メフィストの子です。わたしは男性経験がありませんでしたので…… 」
「!! 」
マノーリアもナスタチュームの言葉に絶句し返す言葉がみつからない。それにしても彼女たちを無理に連れ去り、性奴隷のような劣悪な環境で過ごさせていたならば、今すぐにでも大暴れしてやろうかと、マノーリアは怒りがこみ上げる。ナスタチュームが無言のマノーリアに更に話を続ける。
「魔族に拐われて、ふたりは2人は自分で命を落としました。残ったわたしたち3人は、どうにかして脱出の機会を模索していたのですが、軟禁状態でしたが会話や部屋内の行き来は自由でしたので、メフィストに呼ばれる時間の前だけ、身なりを整えるように化け猫たち言われ、メフィストの寝室へと連れていかれました」
「そうだったんですね。それでは救出したおふたりも妊娠している可能性が? 」
「ふたりは最近になってこちらに来たので、まだメフィストにも会ってないです」
マノーリアは安堵するも表情には出せない。目の前のナスタチュームは最大の被害者である。ナスタチュームが自身のお腹に手をおいて口を開く。
「わたしは誰も望まないこの子を母親として愛せるのか、恨んでしまうのか今から不安です。そもそも魔族の子だと、わたしはこの子に食い殺されてしまうのでしょうか? 」
人間が魔族に取り込まれ生殖器が存続するのはオーガだけと言われている。そのオーガに襲われ妊娠した女性は腹の子供に内部から食い殺される。マノーリアがナスタチュームの横に座り、肩を抱き優しく声をかける。
「メフィストはオーガではないからそれはないわ。ナスタチュームさんの症状は、今、妊娠2ヶ月前後オーガの子の場合母体にいる期間も短いでしょう、だから今後どうするか一緒に考えましょう」
マノーリアの言うとおりオーガは母体にいる期間は1ヶ月から2ヶ月程度と言われている。ナスタチュームがオーガの子と同様の症状であれば、今は会話どころか床をのたうち回り、苦しみながら死んでいく状況であろう。
「魔王の子をさすがに出産するわけにはいかないから、脱出したら中絶することになるけど…… 大丈夫かしら? 」
「はい、わたしも世界を敵に回してまで産みたいと思えるほど母性があるわけではないようです」
ナスタチュームは自分の思いを悲しげにマノーリアに伝える。しかし、ナスタチュームが自分の母性がないと思うことに、メフィストたちに対してマノーリアは怒りを覚える。どんな子供であっても産まない選択をすることに母親は少なからず罪悪感を感じるのだ。それを母性がないと自分を追いつめるナスタチュームの事をマノーリアは強く抱き締める。
「ナスタチュームさんもお腹の子も悪くない。ナスタチュームさんが悪いと思うことはないわ! 」
「如月騎士長ありがとうございます」
「ナスタチュームさんわたしたちは運命共同体よ。マニーかマノーリアとわたしのことは呼んでください」
「わ、わかりました。では、マノーリアこれからよろしくお願いいたします」
「ええ、ナスタチュームはわたしが守ります」
マノーリアはナスタチュームとナスタチュームのカラダに宿った命を守ることで、メフィストの船に残ることを選択した。しかし、魔王メフィストの子だとナスタチュームから告げられ、ナスタチュームのカラダと精神的支えになろうと決意するのであった。メフィストを救おうと考えていたマノーリアだったが、メフィストが転移者であったことを忘れさせるくらい怒りを覚えるのであった。
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