418-アマテウスの新しい依頼
「葵くん起きた? 具合はどう? 」
「頭がボンヤリしてるけど特に問題はないかな」
葵が目を覚ますと横にはマノーリアが座っていた。部屋を見渡すとWBH船内の治療室であることが認識できた。葵は肩を回したりし、体の感覚を確認してマノーリアへと返答する。マノーリアが治療師の能力で診断し問題なかったようで、念話で皆に葵が目を覚ましたことを伝える。葵が改めてマノーリアに声をかける。
「あの後どうなったの? 」
「カーンさんがジンジャーさんを助けてね…… その代わりに…… 」
「そうか…… 」
葵は気を失って状況は把握できていなかったが、葵と共に、ジンジャーに憑依していたマスクに刺され致命傷をおったカーンが、どうやってジンジャーを助けたのかはわからないが、カーンの思いがマスクを上回り、その代償にカーンが命を落としたのだろうとマノーリアの口振りから葵も察した。転移前に誰かを護って死ぬという感覚はまったく考える事はなかったが、こちらの世界では選択肢のひとつであることは事実だ。ただし、その選択を基本的には選ばないだけである。カーンは自分の死を悟り、その選択を選んだのだと葵は思うことにした。葵は話題を変えるように口を開く。
「オレどのくらい寝てたの? 」
「3日経ったわよ。今日には極点にも到着するって」
「そうか」
夢の中といって良いのか、神の領域でアマテウスと話したのは30分程度だったが既に3日経っていた。アマテウスが調整して3日にとどめてくれたのであろう、調整していなかったら、どのくらいの年月が経過したのか葵には想像もつかない。葵とマノーリアが雑談をしていると治療室のドアが開き梔子や麻衣が入ってくる。
「葵やっと起きた! 」
「ホント葵はケガが絶えないわね」
梔子と麻衣が葵に軽口を叩くが、その表情は安堵した様子が伺える。その後ろから萌とデイトそしてジンジャーが入ってくる。葵は久しぶりにもとに戻ったジンジャーへと声をかける。
「ジンジャー良かったな…… 」
「葵にはいろいろと迷惑をおかけしたわ。まぁ専属護衛騎士を喪って助かった事を考えるとそれに値するのか疑問ですけどね」
ジンジャーはあえて強がるような口振りを振る舞う、皆もジンジャーの心境を理解はできるが、できれば今は弱音もはいても良いと思う。しかし、葵はカーンの思いがそうさせているのだろうとそれも理解できた。葵はそれを含めて言葉少なく返答する。
「カーンも誇らしいと思うよ…… ジンジャーを救えたんだから」
「そうね。カーンの遺族にはスパイシー公爵家の名にかけて償いますわ。カーン本人は爵位や補償金などでは喜ばないでしょうけどね…… 」
ジンジャーは自分の発言にフッと鼻で笑い飛ばした。しかし、その目には何かがこぼれないように堪えているように力が入っているのを葵は感じた。これ以上ジンジャーと話しているとジンジャーが辛くなると思い、葵はデイトへと視線を向けて声をかける。
「デイト様。オレ気を失っている間にアマテウス様と会いました」
「それはあちらの領域へとアマテウス様に呼ばれたということですか? 」
「はい、アマテウス様に助けてもらわなければ、オレ体は失っていたようです」
「やはり、精神体が抜けていたので治療がスムーズだったのですね。で、アマテウス様は他に何か? 」
「邪神の配下が元の体を放棄して新しい体に宿るように動き始めたので極点の後に聖剣を回収してほしいとのことです」
「なるほど…… では、極点の結界をはり終えたら、カーラスたちと合流し聖剣回収に向かいましょう」
デイトは、ある程度事情を過去の記憶から理解しているからか、アマテウスの命令だからかはわからないが話が早い。一方、他の者たちがいろいろと疑問を頭に浮かべている。特に麻衣は理解できていないようで口が開いた。
「聖剣回収って邪神軍の拠点にあるんでしょう? わたしたちだけで大丈夫なの? 」
「ワァプラたちは上位の魔族は総出で極地に来ているみたいなんだ。拠点に残るのは大して強者はいないから、聖剣だけを回収するなら問題ないらしい」
「らしいって…… 」
麻衣が納得できていない表情を浮かべる。デイトが補足するように口を開いた。
「聖剣は魔族にとっては邪魔な異物ですからね。上位の魔族がいなければそこまで苦戦することはないでしょう」
「そうなればいいけどね。けど、その聖剣は必要なら行くしかないんでしょう? 」
「聖剣は邪神を倒すにもアマテウス様を覚醒させるにも必要ですからね」
「なら仕方ないわね」
麻衣は腕組みをしながら案外簡単に了承している。必要なら仕方がないで麻衣の疑問は払拭できたようだ。これまで話を聞いていた萌が皆に声をかける。
「設定した地点に、後、30分程度で到着になるよ。特に景色が変わることはないみたいだけど…… 極点なんだよね? 」
「位置は間違いありません。それに外的にそこまでハッキリしているわけではありませんよ。もう少し近くに行かなければ」
萌の疑問に唯一極点を知るデイトが返答する。葵も目覚め皆安堵し目的であった極点への到着間近となった。
お読みいただきありがとうございます。
次話も引き続きお楽しみいただければ幸いです。
いいね、ブックマーク、評価、感想、レビュー何かひとつでもちょうだいいただければ、励みとなりますのでよろしくお願いいたします。
ぜひ、下の☆印にて評価してただければ幸いです。




