40-酒は飲んでも飲まれるな
琥珀色の酒が入ったグラスの氷が揺れている。独りで飲む酒も悪くないと葵は思った。本来なら、こんなに早く酒の味を覚えることはなかっただろうが、こちらの世界に来てからは、飲まない日の方が少ないだろう。夕飯代わりにと買ってきたつまみの味も悪くない。この街の味に慣れていない葵は、店員の女性のおすすめするのを見繕ってもらったが、どれも、葵好みの味付けだ。酒も進む、葵もこちらの世界で気づいた、もしくはこちらの世界の酒と相性が良いのかわりと飲める。そんな独りの酒を楽しんでいると葵に声がかかる。
「あら、神無月さんおひとりで飲まれてるのですか?」
声をかけたのは柊だった。柊が宿直なのか、風呂上がりの姿で現れる。
「あ、柊さん、今日ここに泊まるんですね。これ見てくださいよ!」
葵は後ろのソファで横になる信治を指差す。
「あら、あら、信治さんこんなところで寝たら風邪引いちゃいますよ~熟睡されてますね~あら?まぁ~信治さん若いから元気ですね」
柊が後ろで何か言っている。おそらく信治のテントの事を言っているのだろう。しかし、どんどん柊のイメージが崩れていく。まあ美人だしエロいお姉さんがいるのはウエルカムだ。葵は柊に声をかける。
「柊さんも飲みません?信治が一杯で寝ちゃって、独り酒だったので、良かったらつきあってもらいません?」
「良いんですか?うれしーじゃあお言葉に甘えて~」
柊が葵の正面の席に座り、葵はグラスに酒を注ぐ。
「かんぱーい!」
「なんか、柊さんのイメージが違いました。もっとクールというか、近寄りがたいイメージというか…」
「良く言われますよ~あ、でも、今日はもうお酒が既に入っているのもあるので…普通よりおしゃべりかもしれないですね♪」
柊はいつものクールというよりはかわいい感じに笑う、風呂上がりの大人お姉さんは既に酒を飲んでおり、仕上がっているようだ。いつものキリッとした服装でなく、ラフな部屋着は胸元をちらつかせる。いつもの服ではあまり気づかなかったが、マノーリアに少し劣るがミドルクラスの武器を所持している。酒も入っているのでエロいお姉さんの魅力が増している。
「柊さん聞いても良いですか?」
「なんですか?なんでも聞いて下さい♪」
「信治とキスして信治がああなるのは予測してましたよね?柊さんは良いんですか?めんどうになるかもしれないですよ」
「まぁ、確信犯と思われてもしかたないですよね。神無月さんにはお見通しでしたか、でも、人から好意を持たれる事に嫌なことはないですよ。信治さんは女性経験ないのは、お世話しててわかってましたし、けど、このくらい距離をつめることをしないと、信治さんは心開かないかなとも、思っていました。」
「信治が柊さんの虜になりますよ、間違いなくめんどくさくないですか?」
「それなら、信治さんが自立できるように助言しやすくなりますね。きっと信治さんも、もう少し心が強くなれば大丈夫ですよ」
「魔性っすね!」
「誉め言葉と受け取っておきますね。まあ、信治さんがそうしたいなら、1度くらいは手解きしても良いと思ってますけど…ね」
葵は、柊がやはりドーテーキラーなんだと確信する。しかし、この異世界は性に対して寛容で解放的と柴崎が夜会の時に言っていたな~と思い出す。マノーリアや梔子を見ていると、柴崎の発言に疑問を感じていたが、柊を見ていると納得がいく。
「まあ、柊さんが良いなら良いと思ってますけど、信治がどうなるかは検討つかないっすね」
「葵さんも寂しかったら相談に乗りますよ♪」
柊が一気に葵との距離を縮めてきた。どういう意味なのか話の流れからであれば誘っているとしか思えないし、この目の前にいる艶っぽい美人エロお姉さんと事故が起きてもしかたないだろう。しかし、立場が近すぎる。マノーリアにばれればマノーリアを傷つけることになるし、信治にばれれば、自分の彼女いや嫁を寝とられたぐらいの勢いで殺気立つだろう。
「今のところは、相談するほど困ってないですかね~たまに、酒つきあってください。」
葵がそう口にするとそれまでエロお姉さんだった柊がいつもの柊になって葵に告げる。
「葵さんは自制心もお持ちでご立派ですね。誰とでもお付き合いできる協調性や話術も素敵です。マノーリア様が恋い焦がれるのも納得が行きます。」
「どうなんですかね?」
「葵さんなら、信治さんのことも導いてあげられると思います。わたしには女を武器に信治さんをコントロールする事くらいしかできないですけど…」
「柊さんも凄いことしてますよホントに!」
葵は柊のハニートラップをかわせたようだ。ふたりでそんな話をしていると玄関のドアが開いて人が入ってくるのがわかった。入って来たのは萌だった。
「葵くん今日ここに泊まるの?」
「うん、旅に出るまでここで生活するからよろしくな」
「そうなんだ、でも、葵くんと柊さんがお酒って意外な組み合わせな感じがする。」
「そっか?でも、あいつもいるからな」
「信治がこの時間にここにいるのはもっと意外!」
「萌も一緒に飲もうよ!」
「あ、うん、そこまで強くないけど…」
3人となり改めて乾杯して飲みはじめた。後ろのソファでは、信治が勇敢な酒豪勇者となり柊と濃厚な夜を過ごす夢を見て幸せそうな顔をしていた。
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