407-魔王の恋
女性失踪事件が魔王メフィスト配下の道化師のような魔族が関わっていたことはわかったが、大陸全土で発生している為、解決したとは断定できなかった。しかし、ロスビナス城塞都市で失踪していた小隊長の女性騎士は、葵たちが道化師を倒したことで術が解け、街へと自力で帰還した。例の道化師が罠をはっていた雑木林にとらわれていたようだ。彼女は保護された後に治療師や神官によって検査がおこなわれたが特に異常はなく、経過観察は必要とされつつも、数日で退院して日常生活へと戻っていった。葵と白檀もそれを見届けてロスビナスシティへと帰還し環たちへと報告をすることとなった。
「おふたりともお疲れ様でした」
「今回は上位魔族はいえ単独だったので早めに解決して良かったですよ」
「葵の場合はそのあとの方が大変だったもんな」
環の労いの言葉に葵が答えるが、白檀が葵を茶化すように笑いながら葵の肩をポンポンと叩く。
「思い出させないでくださいよー 男でもいいからその姿のまま付き合ってくれって言われた時はさすがに鳥肌モノでした」
「葵変な趣味に目覚めてないでしょうね」
「自分で女装しようとは思わないけど、あんだけチヤホヤされると悪くないなとは思ったかも? 」
梔子が葵に声をかけると女性陣が葵を半眼で見ている。その空気を壊すようにナズナが気を取り直して葵に声をかける。
「葵お兄ちゃんあんまり幻術はかけない方が良いかもしれないね」
「なんで? 」
「幻惑の浸透性が高いみたいだから、葵お兄ちゃんの場合頻繁に異性の姿をすると心も異性そのまのになっていく可能性があるの、もちろん神官の方の力でリセットできるんだけど、本人がそのままでいいってなれば、誰もリセットはしないからね。必要であれば書面を残した方がいいよ」
「なるほど、まぁ今後、如月アオイになることはそうそうないだろうからな」
幻惑術には多少の精神への影響があるようだ。確かに幼女になる幻惑術を使うナズナは17歳にしては少し幼稚な言葉づかいをする傾向にあるのはそう言うことなのかもしれない。環が葵と白檀に尋ねる。
「葵さんの女装癖はこれくらいとして、何かわかったことはありましたか? 」
「今回倒した魔族は魔王配下の道化師見たいな魔族でした」
「確か魔王5指とか恥ずかしい通り名のひとりだったよな」
「では、魔王の指示で人さらいをしていたのでしょうか? 」
「みたいです。魔王メフィストは側室をつくろうとしてるみたいです。異世界でハーレムなんて、元日本人なら考えそうですね」
「そうなのですか? 」
「その辺りはオレよりも信治の方が理解すると思いますよ」
環が顎に指を当てて思考するがデイトに声をかける。
「デイト様。魔族は生殖能力はないと思いますが魔王メフィストはあると考えて良いでしょうか? 」
デイトは飲んでいたお茶のカップをテーブルに置いて環に答える。
「女性をさらうことを考えるとあるのでしょう。それに転移者ですからね。人間のカラダに魔族がとりつき魔王を名乗っているのであれば、生殖器は使えるのでしょう」
「オーガみたいなものか? 」
魔族に取り込まれた人間が最も多くなるのがオーガだ。オーガは魔族では珍しく生殖器を残し人の女性を襲い、襲われた女性が妊娠してしまうことが、この世界ではよく知られている。妊娠した女性は腹の中から実の子に喰われて死んでいく。
「おそらくはオーガのようなことはないでしょうね。魔王メフィストは、魔族に取り込まれても知性や言語も失ってないですからね。人の子と変わらぬ出産をする可能性は高いでしょうね。好きでもない半人半魔の子を産む母親をつくるわけにはいきませんね」
推測ではあるが、デイトは断定するように答えた。過去転移者が魔族に襲われ生き延び、逆に魔族の力を得た事が過去にないので、何が起きてもそう言うものだと理解するしかない。葵が人差し指を立てて口を開く。
「もうひとつこれはオレ推測ですけどね」
「なんでしょう? 」
「マニーはかなり警戒した方が良いと思いますよ」
マノーリアが自分の名が出て目をクリクリさせている。葵がマノーリアの方に歩みより隣に立つ。
「オレのこの姿や拐われた娘たちが、なんとなくマニーに似ているのは当たり前って事ですね」
「??」
葵は想定よりも早く帰還した為、まだ術が解けていないので、如月アオイの姿のままである。アオイとマノーリアがふたりで並ぶと確かに似ている。皆が葵の言葉が理解できずにいる。マノーリアが葵を見て口を開く。
「葵くんどういう事? 」
「簡単な話だよ」
「ええ? 」
「魔王メフィストがマニーに一目惚れしたんでしょ? 」
「はぁ? 」
マノーリアだけでなくその場にいたみんなが間の抜けた声を漏らした。葵は続ける。
「魔王メフィストに、この前戦った時にマニーと麻衣は確か会話してるだろ? メフィストと」
「あたしは攻撃姿勢だったのに対して、マニーはメフィストを助けたいと言っていたって事? 」
麻衣が腕を組んで少し不機嫌そうに葵に尋ねる。
「それもあるかもだけど、アイツはオレたち他の転移者がラッキーだったと思っていたろ? オレはこんな大変な思いしているのにって、なんでオレだけみたいな…… ましてや自分に攻撃してきているのがあのMAIだってわかれば、あっちでもこっちでも運のいいヤツって思ったんだろ? 完全な逆恨みだけどな」
「なるほど…… だからマニーなのね」
「たぶんな、で、メフィストの命令なのか配下が先走ったのかは知らないけど側室って話になったのかもね。本命はマニーでマニーを拐うための演習かもしれないし」
「魔王になった上にハーレムとか腹が立ってきたわ」
信治が珍しく話を聞いていたようで口を挟む。
「その手の話も多いよ! あの彼もラノベとか好きなのかな? 話し合うかも~ 」
「信治の言う話の魔王は、なんだかんだいいヤツだろ? メフィストがやっているのはたんなる逆恨みだし、個人的な私情でこの世界を混乱させるつもりなら止める必要があるし、マニーを拐わせるつもりもない」
「葵は最後が本音でしょ! 」
「マニーは葵が守りなさいよ! 拐われたら承知しないから! 」
麻衣と梔子が葵に檄を飛ばす。環がマノーリアに声をかける。
「当分の間マニーちゃんには魔除けの魔法具と魔法をかけた方が良いわね」
「はい、精神汚染にかかれば自分ではどうにもできないでしょうから、環さんお願いします」
マノーリアは自分がメフィストに一目惚れされる理由がわからない様子だが、マノーリアの容姿で助けたいと言われれば敵であっても好意を持ったのだろう、メフィストも元は普通の青年だったのだから。
お読みいただきありがとうございます。
次話も引き続きお楽しみいただければ幸いです。
いいね、ブックマーク、評価、感想、レビュー何かひとつでもちょうだいいただければ、励みとなりますのでよろしくお願いいたします。
ぜひ、下の☆印にて評価してただければ幸いです。




