34-ロスビナスシティの日本人
空は高く広がり春の柔らかい日差しから、少しだけ夏を思い出させる、刺すような日差しが午後から差し込む。葵達は昼食を済ませ、この街に住む日本人3人と会うこととなった。環の側使えの柊が3人との調整をしてくれており、案内されてマノーリアと梔子と4人で向かう、一人目は昨日も会った刀鍛冶をしている菅原の店にやって来た。
「おお、来たか!昨日挨拶は済ませてるんだ。固いのは抜きにして、まぁその辺にんでも座ってくれ!」
菅原は刀鍛冶と武器屋を営んでいた。
「これ全部菅原さんが作ったんですか?」
「まぁな、ところで葵の持ってる剣を見せてもらって良いか?」
「あ、はい」
葵はホルダーからブロードソードを抜いて菅原に渡す。
「これは…… 良い剣だ。名工のオーダーメイドだろう?」
「王国騎士団長のベルガモットさんから譲り受けたんです」
「王国騎士団長からってすごいな!」
「まぁ~ たまたまというか、偶然というか…… 」
葵が当時を思いだしマノーリアを見る
「あーこの剣素敵~ 見てクー」
「マニー? キャラじゃないよ…… そういうの」
マノーリアは珍しくすっとぼける。
「まぁ、譲り受けるって事は、騎士の信頼されるだけの何かをしたんだろ? 」
「そこは微妙ですかね。ところで菅原さんはなんで刀鍛冶と武器屋を始めたんだてすか? 」
「12年前に転移して、文月隊長のとこの卯月姉妹の父親のユーオズさんに助けられたんだけどな、何やって良いかわからないし、好きなことやれって言われてさ、俺そん時に高3で良くわからなかったし、物作るの嫌いじゃないし、この世界来たから、せっかくならあっちの世界じゃ、やれない仕事やってみようかと思って、そしたらユーオズさんに師匠を紹介してもらってな、独立させてもらって、店持てたしな。魔法が使えないのがハンデだけどな、いろいろ助けてもらって、なんとかやってるよ。葵も困ったら言ってくれ! 」
「ありがとうございます。俺また3週間後に旅に出るので、その前にまた顔を出しますね。」
「おお、わかった。萌と信治のとこにも行くんだろ? 」
「はい、これからふたりにも」
「萌は自立してるから大丈夫だと思うが、信治がなぁ~ 俺はちょっと会話がなぁ~ 萌とは年が近いからか、少し話せたようだがなぁ~ 俺はどうも…… あいつの性格というか…… オタクなやつはどうも…… 葵はどうなんだ? 」
「話すことはできると思いますが…… 話を聞く限りでは、かなり手強かなとは思いますが、菅原さんが高校生の時の日本よりは、彼のような人は多いと思いますよ。たぶん…… なので、うまく交流できれば良いかなとは思います。後は彼次第でしょうね。」
葵は、菅原が既にこの世界で12年も生活しているのも、要因だとは思う。菅原は30歳だが明らかに精神年齢的には、もう少し上な気がする。ジェネレーションと世界間のギャップの両方で、信治とのコミュニケーションの弊害が起きていると思う。
「俺も信治がそのつもりあるなら、ウチの店で雇っても良いんだが…… 」
「菅原さんもなんだかんだ、彼の事を気にかけてあげているんですね」
「単なるお節介だけどな」
菅原と葵の会話のやり取りに梔子が口を挟む。
「菅原さんそういえば、明日使節団が都に帰ってくるらしいから、咲と花も無事に戻ってくると思うよ」
「そっか、それじゃ明日出迎えてやらないとな、1ヶ月近い長旅だったからな」
菅原は咲と花のが帰ってくると聞き、まるで父親のような顔をほころばせて笑う。
「そうだ。菅原さんは柴崎さんとも面識があるんですか? 」
「何度かは話したことあるが、彼は王国に住んでるから、そこまで親しくないな、随分と成功しているみたいだけどな」
「今、この街に来ているので、良かったら会ってみたらどうですか? 」
「同じ日本人って行ってもな、あまり馴れ合うのも好きじゃないみたいだけど…… 柴崎が会ってくれるなら俺は大歓迎だ」
「直哉さんの会社も本格的に皇国でも商売したいみたいなので、もし直哉さんに会ったら伝えておきますよ」
「よろしく頼むな! 」
葵達は菅原に別れを告げ菅原の店を後にする。次に向かうのは、萌の職場である商業組合になる。柊が門番に訪問を告げ、応接室に通される。すぐに萌が応接室にやってくる。
「こんにちは、久々だね。マニーちゃんクーちゃん」
「萌ちゃん久しぶり~ 」
「2ヶ月ぶりくらいかしら? 萌ちゃん元気そうね。柊さんから聞いていると思うけど、彼が神無月葵くんです。葵くん、山田萌さん、彼女はわたしたちと同い年だから、葵くんの1歳違いになるかな」
萌は葵を見ると少し緊張したようにペコリとお辞儀をして挨拶する。
「は、はじめまして、山田萌です」
「はじめまして、神無月葵です」
葵は、萌の様子を見て日本人だなと思う、お辞儀やひとつしか変わらないのに、年上とわかってマノーリアや梔子に向けた態度とは変えて挨拶してきたからだ。年長者を敬う環境で育ったんだろうなと思う。
「あ 別にタメ口でオレはかまわないからね。後、ふたりみたいに、葵でいいよ、オレも萌って呼ばせてもらうから」
「あ、はい、じゃ葵くん、こちらに来てまだ2週間くらいなんですよね? 戸惑いとか何て言うかそういうのなかったの? 」
「まぁ~ ないわけじゃないけど、オレの場合は運が良かったと思うよ、すぐにクーに救ってもらって、マニーにいろいろこの世界の事を教えてもらったから、萌は転移した時はどうだったの? 」
萌はゆっくり目を閉じて当時を思い出すように語り始める。
「わたしは この街ではなく近くの村近くに転移したようで、最初何が起きたのかよく分からなくて、見たことのない風景で、最初夢なのかと思ったけど…… あまりにリアルだし、近くに村が見えたから、村に行って話すと兵士の人に日本人かって聞かれて、そのままこの街に保護されたの…… マニーちゃんやクーちゃん、それに環さんと菅原さんも助けてくれたし、後、柊さんにも、いろいろめんどう見てもらって、それでも1ヶ月くらいは、受け入れるのにかかったかな? ここで働かせてもらって、まだ4ヶ月くらいだし、最初の2ヶ月は何もできなかった。私も運が良かったと思う。過去の話し聞いてると、転移した人が全員保護された訳じゃなさそうだし…… 」
マノーリアが優しい声音で萌に声をかける。
「萌ちゃんも焦らなくて良いのよ、まだ半年だもの、葵くんはちょっと特別なのかもしれないから? 」
梔子がウンウンと頷き口を開く
「そうだね~ 葵は運が良いって言うけど転移してすぐにゴブリンに襲われているから、運が悪いと思うよ」
「葵くん、良く助かったね。クーちゃんが助けたの? 」
「あたしが助けに行った時は、既に葵くん闘ってたからね。やっぱり葵はちょっと違うね」
萌が目が点になって葵を見る。マノーリアが萌に声をかけ、不便がないか聞き萌が答える。
「ありがとう。わたしも葵くんに負けないように頑張るよ。柊さんがいろいろフォローしてくれるし、魔法が使えないのは仕方ないけど、菅原さんにお願いして、これ作ってもらったから、計算も他の人の魔法に負けないくらいには早くなるかな? 」
萌が菅原にお願いして作ってもらった物を皆に見せる。葵は見覚えがある物だった。
「そろばんを作ってもらったんだ」
「そ、ろ、ば、ん?」
「そう!子供の頃からそろばん習っていたから、電卓もパソコンもないからね~ この世界…… でも、これがあればね、計算がもう少し早くなるし」
「葵くんこの後、長月くんに会いに行くの? 」
「うん、これからだね」
「彼は、まだこの世界を夢の中みたいに感じているのか、ゲームとかアニメみたいなこと言って、あまり現実的な話しをしないんだよね」
「なんとなく、想像はしていたけど…… 」
「同性の葵くんの方が話し通じるかな? 」
「どうだろう? 本人次第な気がするし焦らせてもダメな気がするし」
萌もこの世界で自立できるように歩み出したようで、お互いに頑張ろうとねぎらい別れを告げ、商業組合を後にする。そして、環の肝いりで作られた転移した日本人の保護施設へと着いた。萌もまだ、この施設で暮らしているそうだ。現在転移した日本人の最後のひとりに、これから会うことになる。その長月信治という少年が、これから大きく成長し、葵達の仲間として活躍することをこの世界の誰もまだ知らない。当然、葵も本人も……
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STRAIN HOLEの世界とキャラクターを使用して短編を書いてみました。
本編を読まなくても、完結するように書いておりますが、時期的なものや状況は本編とリンクさせておりますので、合わせてお読みいただければ、より楽しんでいただけるかもしれません。
【短編】姉妹のさがしもの
https://ncode.syosetu.com/n0703gs/
短編のサイドストーリーを書いてみました。24話までをマノーリアが日記に葵との出会いを振り返りながら回想するお話しです。よろしければ合わせてお読みいただけると幸いです。
【短編】STRAIN HOLE Side Story -encounter-M-
https://ncode.syosetu.com/n9894gq/




