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2-異世界生活始めます。

挿絵(By みてみん)

「葵くん椿さんからいろいろ教えてもらえた?」


 葵に梔子がメイド主任の椿の講義の感想を聞いてきた。


「うん、椿さんいい人だね。ものすごく詳しく優しく教えてくれたよ」

「あっ、先に言っておくけど、椿さんは旦那さんいるからね。椿さんは優しいし、柔らかいし、安心感あるし、気持ちはわかるけどさぁ~、あたしだって葵くんのこと助けたのに…… 」


 梔子はすねた子供のように軽く口を尖らせ、何か勘違いをしている。葵は率直に、いい人だと思っただけだがいろいろと誤解されているようだ。


「人としていい人って意味だから、誤解しないでくれ、それにクーもありがとう、クーも美人さんだし、猫耳かわいいし、助けてくれた時ドキッとしたよ!」


 葵は比喩すると梔子には伝わらないと判断しストレート伝える。


「あたしも…… しっぽさわられた時は…… いやーん…… 恥ずかしいこと思い出させないで~!」


 梔子が頬を赤く染め、手をパタパタと振りながら、照れている。やはり、女性のしっぽをさわるのは、それなりの関係にならないといけないようだ。青春物のマンガのお約束的なパターンだったようだ。葵からすれば、胸もお尻もさわってなく、しっぽを掴んで恥じらわれても困る。

 葵はふと思う、椿に好意を持ったと何故勘違いしたのかと…… そこで思いいたる。美人の定義がこの世界では違うのではないか…… 梔子の容姿からそれなりに、褒め言葉に免疫があると思っていたが、あの照れ方は免疫がなさそうだ。更に聞いてもいないのに、梔子が語りはじめる。


「あたしやせっぽちだし、アニキにももう少し太れ! 嫁の貰い手が見つからないとか言われるしっ! 結婚だけが人生じゃぁ~ ないじゃない?」

「あぁ…… そうだね…… こっちの世界がどうかわからないけど、日本では、クーはかなりの美人さんだと思うけどね…… その猫耳も一部の人にはかなり大人気のはず……」


 梔子が先ほど以上に真っ赤になり、溶けるように照れている。

 葵は、この世界の美人の定義が違うと確信した。梔子の容姿は、日本の基準では間違いなく美少女だ。確かに胸は控えめだが問題ではない。そのリアル猫耳は、国民的若手女優が出ていた、即席麺のCMをとって代われるクラスの美少女だ。そうなると梔子が美人と言っていた騎士長はどうなる? 期待していた分ガッカリだ。どうせなら美人やかわいい娘の方が良い、バイトのシフトがかわいい娘だったら、少しだけやる気が違うのと一緒だ。

(ここは現実の異世界だ。淡い期待をした俺がバカだった~ 脳筋マッチョ娘とか、見た目美少女口調が武人みたいの来ても萎えるわ~)

 するとドアがノックされた。梔子が答えドア開く。


「お帰り~ マニィ!」

「ただいま。クー!」

「神無月葵さん、はじめまして如月マノーリアと言います。ごきげんよう」

「か、か、神無月葵です。マノーリアさん」


 葵は、逆の意味で裏切られた。騎士長のマノーリアは、とびきりの美少女だった。背は高めで、今は少しだけヒールの高いアンクルブーツをはいているが、ヒールがなくても身長は165センチはありそうだ。梔子より5センチ以上高い。長い髪は赤毛だが光の加減で紫にも見える。下品な紫でなく品があり艶やかだ。その髪をポニーテールのように後ろで束ねている。目鼻立ちがハッキリとし顔は整っていて、瞳の色は紫色をしており、服装は白と紫を基調としている。腰には帯が巻かれ、腰元の後ろ身頃から足を隠すように、薄紫のシフォン生地が揺らめき、美しい足をちらつかせている。プリーツのミニスカートに太ももの途中にレースのあしらわれた黒ストッキングをはいている。胸元はあいており目のやり場に困るほどに、しっかりと主張する胸はDかEのミドルクラスだが、全体的に華奢な印象のマノーリアには充分な攻撃力のある武器だ。梔子と幼なじみらしいがかなり大人びている。

 梔子は、全体的にかわいい印象だが、マノーリアは正真正銘の美人だ。日本で、この2人と一緒に歩いているだけで羨ましがられるどころか、嫉妬の一撃で殴られるのではないかと思うほどだ。


挿絵(By みてみん)


「マニー、葵くん騎士見習いに興味があるって!」

「わたしも、葵くんとお呼びしますね。クーはもう仲良くなったのね。」

「マノーリアさん敬語もやめて下さい。クーに助けてもらった上に椿さんからも聞きましたが、自立支援もロスビナスでしていただけるなら、1日でも早く自立できるようにしたいだけなので……」

「葵くんは、しっかりされてるんですね。でも、焦らなくいいんですよ。いろいろと、かっても違うのでしょうから。ゆっくりでいいんです。基本的には2年間と考えていますが、個々の方々の状況や年齢を考慮しています。あっ、敬語はやめだったね! わたしのこともマニーと呼んでね」


 マノーリアは小さく笑い、口の前に指2本を交差させバツを作り、敬語はやめとジェスチャーする。美人のかわいらしい仕草は破壊力がある。葵は、マノーリアともう少し仲良くなったら、いろいろな仕草をしてもらおう思う、目の保養は大事だ。葵はそんな事を考えている間に呆けていたようで、マノーリアが声をかける。


「葵くん、どうかされましたか?」

「マニーに見惚れていたんじゃない?」


 梔子が、いたずらっ子の顔をして、マノーリアをひやかす。するとマノーリアは頬を赤く染め下をむく。梔子同様にマノーリアも慣れていないようだ。梔子以上かもしれない。マノーリアは、恥ずかしそうに葵を上目遣いで確認する。このあざとい仕草を天然でやられると破壊力が違う、狙ってやっていても美少女がやれば、受け入れる男はいくらでもいる。それが天然物だ葵は少しだけ楽しくなってきた。このままだと葵も意識しそうなので、普通の会話にシフトチェンジする。


「いや……聞いて良いのかわからないけど。マニーの耳は人なんだなぁっと思って、クーみたいな耳の人は少ないのかなって?」

「別に聞いてくれて全然平気だよ。」


 葵の返答に梔子が答える。マノーリアが小さく笑い葵の問いに答える。


「わたしたちの人種の中で、クーのような耳としっぽの持ち主を亜人耳といって、これは遺伝と言われているの。過去先祖に亜人耳の方がいれば、隔世遺伝することも多くて、人耳の両親から生まれることもあるし、クーのところみたいに、兄妹で違う耳の場合もあるの」

「兄妹で違うということは団長もなの?」

「アニキは犬耳だね」

「クーみてたらないのかなと思うけど……その容姿で差別とかは?」

「差別どころか、亜人耳の子供が欲しくて結婚相手を決める人がいるくらいよ。亜人耳を持つと身体能力や資質が高まるから」

「へぇー、なんで亜人耳を持つ人が生まれるかは、わかっているの?」

「これは、伝説や伝承の話になるけど……葵くんは邪神の事は椿さんから聞いた?」

「この世界の人種が文明を築きはじめた頃、飛来したってやつだっけ?」

「そうね、それを守星大戦って言うんだけど、各地に伝説・伝承や伝書が多く存在するの。その中に最高神の女神アマテウス様の代行者であるウズメ様の眷属が、犬・猫・狐・狸・兎っていう動物がいて、魔族と戦うには戦力が不足していて、アマテウス様がウズメ様達の為に亜人にしたっていう話が多いの。各地でそんな話が多いので信じる人も多いの、わたしも信じているわ。ちなみにわたしたちの国は、ウズメ様を信仰する国よ、歴代の皇女様が、ウズメ様に代わりアマテウス様の代行者として、邪神の結界を維持しているの」


 マノーリアが丁寧に説明してくれる。各亜人耳の正式名称があるらしく

 猫耳=シャイア

 犬耳=シェンイア

 狐耳=ルナリア

 狸耳=ラクー二ア

 兎耳=ラパニア

 マノーリアすらすらと話す、喋り方もそうだが、知性や所作の美しさも、マノーリアの魅力的にている理由だろう。


「皇女様は、ウズメ様の子孫ってこと?」

「いいえ、皇女様はロスビナスの女性から、最も適正のある女性が選ばれるの」

「適正……?」

「ええ、ロスビナス皇国国宝の1つの神器、女神の鏡が神殿に祀られているの、その鏡が適正者を写し出すの、皇女様の任期は15歳~25歳期間に任命されるの最長で10年間になるわ。次期皇女を任命するのが、皇女様最後のお役目なの。今の皇女様の環様は15歳でなられて5年になるわ」

「へぇ~、皇女様は俺と同い年か…… みんなマニーみたいに歴史に詳しいの?」

「マニーは頭もいいし、騎士団騎士長兼皇女近衛騎士だからね」

「それは、白檀お兄様がご配慮されて同性のわたしを任命しただけよ」

「白檀お兄様……?」

「うちのお兄様兼騎士団団長の事です。文月白檀って名前。マニーは何故かうちのアニキの事を昔から、お兄様って呼ぶんだよね~ そんな柄じゃないんだけど」

「わたし、一人っ子だからクーが羨ましくて、子供の頃、白檀お兄様に初めて会った時にそう呼んだら、喜んでくれたから、わたしも嬉しくて、そのまま、今もそう呼んでるだけよ。お仕事の時はちゃんと団長ってお呼びしてるもん!」

「もん?…… ハハハ」


 マノーリアは、梔子に向き両手を胸元にあてて、幼児帰りしたように話していたが、葵の笑い声に気づきはたと我に返り赤面しうつむく。やはり破壊力抜群だ。


「うちのマニー、こんなに大人びた顔立ちなのに、可愛らしいでしょ~?」


 梔子がさらにからかいマノーリアが口を尖らせて、ムッと梔子をにらむが、その仕草もかわいらしい良い目の保養だ。


「クーそのくらいにしてあげなよ、でもマニーのかわいらしい姿が見れて、親近感がわいたよ、美人さんのマニーがそのままだったら、男は緊張して会話できないんじゃない?」

「そ…… そ…… そんなこと…… な…… いと…… 思うけど……」


 葵の言葉にも、マノーリアは反応している。ここまで、免疫がないと大変だなぁ~って思いつつ、見てて飽きないので、たまには、からかいたいなと葵は思った。梔子が飽きてきたのか、立ち上がり窓の方へ歩いて行った。


「ねぇ~マニィ~ィ! 葵くんとおしゃべりもいいけど、こっち来て三日間まだお出かけしてないんだけどぉ~、お天気もいいし街見に行こうよぉ~!」

「そうね。今日はもう予定はないし、街の様子見に行きましょうか、葵くんも行くでしょ?」

「部屋にこもっても仕方ないし、街にも興味あるし、行って良いなら行きたいな」


 3人は、宿舎を出て騎士団演習場の門をくぐる。演習場は最も外側の4番区にあり、4番区には他に市場や宿屋等の外への出入りの多い施設がならんでいる。冒険者協会・魔法協会もこの区にあり、武器屋と魔法具屋も当然軒を連ねている。

 街並みの雰囲気は、空から見たのと同様で美しい。石造りの建物が建ち並び、道は石畳で整っており、雰囲気は中世のヨーロッパ風なのだが、さすが異世界の街並みに見慣れない物を街並みの中に見つける。街灯のような支柱の上に丸い石のような物が乗っている。


「この柱はなに?」

「街路灯よ。上にあるあの魔法具の石に、光の魔法が夕暮れになると発生するようになっているの?」

「あの石って何からで来てるの」

「コレと一緒だよ。御石の話は、椿さんから聞いているでしょ? 魔法具に使用するのはモンスターの物よ」


 マノーリアは自分の左手首にあるブレスレットを葵に見せながら説明する。


「石の色って違いがあるの、マニーとクーは、目と同じ色だよね?」

「目の色と御石の色は、基本は一緒なの、色は魔法属性の色になるわね。希に目の色が左右違う人もいるらしいわ、その場合は、御石の色は強い属性の色になるらしいけどね。7色の色が確認されているわ」


 石には、7色確認されており、その色により、魔法属性の資質が影響されている。

 緑色=風魔法

 黄色=光魔法

 赤色=炎魔法

 水色=水魔法

 茶色=土魔法

 黒色=闇魔法

 マノーリアが6色まで説明し終え葵を伺う。


「マニーの紫は?」

「気づいちゃった? わたしの色は無属性なの、希な色と言われているわ。わたしも同じ色の人と出会ったことないの、でも全部の属性が使えるから、困らないけどね」

「それって、凄くない? 無属性って言うより万能属性だよね?」

「そう言ってもらえると嬉しいわ。子供の頃は、いじめられるしこの色が嫌だったの。そんな時に、クーと白檀お兄様や環さんに出会えて、綺麗な色って褒めてくれたの」

「今は?」

「好きだよ。わたしにしかない色だもの……」

「俺も綺麗な色だと思うよ……」


 マノーリアはハニカミながら嬉しそうに葵を見ていた。先を歩いていた梔子が2人の側に戻って来て、道の先を指し示す。


「マニー・葵くんこの先に市場がある! いこ! いこ! 早くはやーく!」

「クーったら子供みたいにはしゃいじゃって、かわいい」


 クーはマノーリアの手を取り連れていく。その姿に葵は、どこか儚げな笑みを浮かべる。


「葵くんもはやーく!」

「なんか、アヤメとユリみたいだな……」


 今朝まで一緒だった双子の妹達と2人が重なった。妹達に買い物に付き合わされた時は面倒だと思ったが、このまま会えなくなると思うと何か込み上げる物があった。

 市場の賑わいを3人は楽しみながら、異世界フルーツを堪能した。葵が気に入ったのは、バルーンフルーツというものだ。名前通り水風船のようなフルーツでストローを注して、中の果汁を飲むフルーツで、味はブドウのような梨のような味がした。あとは、マリマリというフルーツで、見た目はライチを野球のボール位に大きくした見た目で、ライチ同様に皮を剥いて食べる。味は甘い柑橘類の味がした。市場の端まで来ると、中央通りが見えてくる。ここを城を目掛けて行くと3番区に大きな、広場があるらしい、祭りやイベントもここで行われるらしく、国民の憩いの場になっている。梔子が早く行きたいらしく、葵にはなしかける。


「葵くん、魔法を使わない、シャイアの実力見せてあげようか?」

「身体能力の高さってこと? みたい! みたい!」


 葵は、戦っていた梔子の姿が人間離れしていたのを見ているが、あの時は魔法も使っていたと思うと興味が出た。


「じゃあ、広場まで行って帰って来てよ」

「いいよ~! じゃあ行ってくるね!」


 梔子は走りはじめ、人混みを跳び跳ねたり、市場のテントの上にジャンプしたり、建物の壁を蹴り、飛ぶように駆け抜ける。あちらの世界でパルクールの大会に出たら間違いなく、梔子は圧倒的なレベルで世界一になるだろ。ルールさえ覚えれば、何の競技でも圧倒的な強さだろう、あちらの世界に行けるなら、ぜひ、オリンピック日本代表、全競技出場みたいなことをしてもらいたい。


「魔法なしで、あれだけの身体能力が出せるのが、亜人耳の人達の凄いところよ、耳によっても能力が違うんだけどね」

「凄いねクーの能力……」


 市場にも、ウサ耳とキツネ耳とタヌキ耳らしき人は見かけた。みんな、冒険者か、この国の騎士だった。身体能力の高さを考えれば当然かもしれない。

 早くも、梔子が戻って来る


「早っ! もう?」

「どう?」


 梔子は凄いでしょといわんばかりに、葵の前に達、息もきらさず、涼しい顔をしている。3人は広場へ歩きつつ、梔子は広場の様子を2人に話す。葵はそれ余計なことじゃないの?と思いつつ話を聞いている。マノーリアはその姿を見て、口に手を押さえながら、小さく笑う。広場に着くと違和感のあるものが、建物の屋上部分に設置されている。渋谷のスクランブル交差点のビルとかにあるあれ…デジタルサイネージのようなものが、西と東に2つある。当然、ディスプレイがあるわけでもなく、建物に長方形の機器が取り付けられ、そこから垂直に投影しているようだ。


「あれも魔法具なの?」

「魔法具になるんだけど、開発者は魔法機器っていってるわね。そうだ、開発した人も、日本人なの明後日会うことになっているんだけど、葵くんも同席しない?」

「この国にも、日本人いたんだ…発見された日本人は、何人いるの?」

「葵くんとあの人、ロスビナスの3人の5人ね。発見されて、保護や自立できている人だけだから、運悪く、モンスターがいるようなところにいたらと思うと、心苦しいわ、あの人は、3年前発見されたんだけど、保護を断ったの……自分でなんとかするって、個性的な人というか……」


 マノーリアは、何か言いにくそうにしている。少なくとも面識があるようだ。そこに梔子が頬を染めながら話に割り込む


「あの人は、女の子が大好きな、エッチな人だから、会うのがちょっとね……」

「エッチな人……? 何かされたの?」

「何も…… されてないよ…何も」

「なら、同席できるならしてみたいな、変なことするなら、俺が止めるよ」


 葵は、理解ができない、2人の強さなら何かされれば、返り討ちにするだろう。すると、デジタルサイネージの画面に1人の男性が映り、Tシャツにジャケットを羽織、まるであっちの世界で有名な米国IT企業のCEOみたいに喋りはじめた。名前は柴崎直哉というらしい。魔法製品の新製品の発表らしい、会社名は先程、葵達が飲んでいたバルーンフルーツのようで、ロゴがそれにストローをさしている。まるであの会社だ。こっちの世界にリンゴがなかったのか?バルーンフルーツは、かじったら割れるからストローなのだろ。新製品はイヤリングのようなもので、電話のようだ。商品名はm-phoneらしい、ここまで来ると想定通りなので驚かない。むしろ期待通りだ。葵はむしろ面白くなり声が漏れる。


「ハハハ! スゲーウケる!」

「なんで笑ってるの?」


 梔子が不思議そうに葵を見る


「ここまで、ストレートだと面白いと思ってさ、案外気が合うかも?」


 梔子とマノーリアが、顔を見合せ首をかしげている。葵は興味が出てきたので、デジタルサイネージの新製品発表の内容を見いる。柴崎直哉と言う人は身振り手振りで、革新的製品であることをアピールしている。日本にいた頃は、意識高い系の人だったんだろうなと思う。異世界まで著作権やパテントは適用外だろうし、何より魔法製品なのでそもそもの規格が違う。シリコンバレー辺りの、あの企業やあっちの企業が、異世界転移装置でも開発しない限り気づかれるわけもなく、こちらの世界では、彼の作ったバルーンフルーツ社がオリジナルだ。あちらの世界の成功者をトレースできるだけでも、有能な人なのかもしれないと葵は思った。


「会えるのが、楽しくなってきた♪」

「葵くんも、その……エッチなの?」

「へ?」


 梔子の問の理由が理解ができない。どうすればその問をしようとおもったのか?しかし、この免疫ゼロの美少女ふたりを前に素直に「はい、エッチです」と言って得はない。場合によっては汚いものを見る目で見られかねない。この美少女ふたりの侮蔑の眼差しはちょっと見てみたい気もする。


「男はエッチじゃないとは言えないよ……オスだからそのようにできている。とはいえ、知性があるから時と場合は見極めないとね。それに、マニーやクーみたいな美人さんを見て何も思わないって逆に失礼だと思うけど? マニーはどう思う?」

「エッ! あたしに…… きかれ…… ても…… 男の人は…… その……」


 マノーリアはモジモジし、梔子は頬を赤く染め下を向いている。自分でふって自爆とは……当分このふたりをからかうのは趣味になりそうだ。


「そろそろ、戻ろうか?」

「そうね。クーも満足できたかしら?」

「美味し物も食べれたし、後3日は滞在だったよね? また、これるかなぁ?」

「クーの執務が終わればこれるかな?」

「マニー手伝って~」


 そんなやりとりをしていると、後方から女性の悲鳴と男性の怒号が聞こえた。


「冒険者様お許しください。子供のしたことです。ご慈悲を!」

「躾のなっていないガキにこの街の冒険者協会ランカーの俺が、躾をしてやろうと言っているのだ!」


 冒険者が子供を母親から引き離し泣き叫ぶ。母親は無力に泣き崩れ、周りの人に目で助けを求めているが、誰も助けようとしない。葵は野次馬の男性に声をかける。


「何があったんですか?」

「あの子供がよそ見して運悪く、あの旦那にぶつかったんだよ」

「あの人は?」

「この辺じゃ有名人だよ、家が裕福だから冒険者やってるし、ランカーとか言ってるけど…… ここだけの話…… 傭兵雇って替え玉で自分の手柄にしているらしい、裕福だから名声さえもらえれば良いんだろうよ」


 男性は、小声で葵に話してくれた。ここだけの話と言ってるけど恐らく有名な話なのだろう。葵は、野次馬をかき分けて前にでる。


「あの~? 冒険者さん」

「んだっ! テメー!」


 声をかけた瞬間に威嚇してくる、ベタベタの輩キャラだ。葵はこの手の奴が嫌いだ。関わりたくないのだが気に入らない。


「イヤ~! ランカーの冒険者さんなら寛大な対応とかされたら、イメージアップで条件の良い仕事来るじゃないかな?」

「俺は金で仕事を選ばね~ この国の為に尽くしているからな! ふん!」

「それは、それは、とても善意がおありなんですね~」


 葵は、目で子供と母親に逃げろと合図を送るが、子供と母親が気づいてくれない。冒険者が逆に気づいてしまった。


「オメェ~ コイツら逃がそうとしてたのか?」

「フーッ! めんどくさ! 大人げないって言ってんだよ! いい大人が子供がぶつかったくらいで! それなりに権力持ってるなら、その権力に勝てない相手に力を見せつけるなよ、かっこわる」

「んだと! テメー!」

「ボキャブラリーも足りない、人格も最悪、よくそれでランカーとか言えるな」


 葵が挑発している間に梔子が親子を助ける。マノーリアが葵に近づいて来て冒険者に声をかける。


「そんなに言うなら、彼と決闘して力を証明しなさい!」

「あん? おもしれー」

「エッ? マニー? マノーリアさん?」

「大丈夫! ゴブリンの時を思い出して!」


 マノーリアは野次馬に向き直り大声で言う


「誰かこの若者に、剣を貸してくれませんか? 刀、サーベルでも構いません!」

「じゃ、私のを貸して差し上げよ」


 品のよいたたずまいの赤毛の長髪の騎士が、野次馬をかき分け現れる。

 神無月葵は騎士見習いになろうと、なんとなく思った数時間後に、剣術を習う前に、マノーリアの無茶振りで決闘することになった。

お読みいただきありがとうございます。


次話も引き続きお楽しみいただければ幸いです。


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