22-悪魔にとりつかれた者達
相対する敵は総勢40人ほど、各々武装し敵意をむき出しに4人を囲む。その敵に向けて、少女はその容姿からは、想像ができない武人たる態度で、敵の前に立ちはだかり叫ぶ。
「ロスビナス皇国騎士団 騎士長 如月マノーリアと知って尚も挑むとあれば容赦はせぬ!貴様達が偽者と思うかは勝手だが、わたしの剣技は偽ることはできない!覚悟のある者からかかってきなさい!」
数名の敵は尻込みする。そういった者は明らかに無名の葵やアイズを相手にしようと視線ふたりに向ける。ロゼッタが援護魔法をかけるが、顕現した淡い光が霧散する。それを見たドレイクが薄ら笑いを浮かべながら口を開く。
「フフフ、うちの敷地内では魔法は使えんよ!」
マノーリアがロゼッタに下がるように指示をするが、ロゼッタが更に魔法の顕現を行う。
「ロゼッタ魔法は!」
「先程、マノーリアが言ってくれたじゃない?わたしが結界魔法隊に所属したのは伊達ではないわ!さっきのはどの程度の無効化の効力があるか確認しただけよ!」
ロゼッタは高位の結界魔法である、絶対聖域を作り上げる。
「この聖域内なら魔法効力は発揮されるわ、これで治療と援護が可能になったわ、聖域外は相手への魔法攻撃は無理だけどね。」
ドレイクがロゼッタを忌々しく睨み付け、ロゼッタに嫌みの言葉を吐き捨てる。
「誰かと思えば、クローバー治療院令嬢のロゼッタ嬢でわないか、こんな偽者に肩入れしおって、いくらこの国の最高の治療院の令嬢と言えども、お遊びが過ぎるのでわないか?お父上が悲しむであろう」
ロゼッタが嫌みの返上をする。
「これはこれは、高位である元侯爵にして、元老院議のドレイク様が、わたくしごとき小娘をご存知とは、恐れ入ります。しかし、ここにいる女性騎士は間違いなく、皇国騎士団騎士長の如月マノーリア様でございますわよ!それを偽者呼ばわりした上に、葬ろうなどとお考えなのは、愚の骨頂かと愚考致しますわ!」
「グググッ~」
ロゼッタの嫌みにドレイクが苦虫をかんで睨み付けるしかできないでいるマノーリアがロゼッタとアイズに柴崎のブレスレットを渡す。既にマノーリアの魔力が充填済みの物だ。
「ありがとうロゼッタ!先に貸すべきだったけど、これは護身用に持っておいて、わたしの魔力が充填済みだから、もし聖域に敵が入るようなら使って、アイズさんもこれ、それを使うようなことがないように、あの人達に、わたしより先には、行かせる気はないわ!」
「マノーリア信頼しているわ!援護魔法はかけておくわね!」
ロゼッタが全員に攻撃力と防御力向上の魔法をかける。
「マニー来るぞ!」
葵の声と同時に、敵が葵とマノーリアめがけて攻撃してくる。葵とマノーリアは魔力を体内循環させて更に攻撃力と防御力を高める。さらに、葵が気づかれない程度にグラビティコントロールをかけ、敵を鈍くさせてマノーリアと葵自身を軽くする。敵の数人が違和感を感じるような発言をする。
「カラダが重いなんだ?」
「気のせいだろ?おめぇビビってのか?」
「う、うるせぇ!こんな小娘にビビるかよ!捕まえて、俺ので虜にしてやる!」
「お前ので虜になる女がいるかよ!」
男数人がマノーリアにまとめて斬りかかる。
「乱舞!花吹雪!」
マノーリアの剣技で瞬く間に絶命する。葵にも男達が切りつけるが、葵も加護の剣技で一掃する。
「わたしたちを見くびっていたようね?もう少し技量のある人達でないと厳しいと思うわよ」
マノーリアが挑発する。ロドリゲスが更に傭兵数人に命令する。
「お、お前らを出すつもりはなかったがしかたがない、あいつらを仕止めたら、ボーナスも奮発してやる!女を生け捕りにできたら、更に上乗せしてやる!」
「ガッポリいただければ、俺達はかまいませんぜ!」
グレートソードをかまえた傭兵達がマノーリアに3人、葵に2人が向かって来る。葵が先に剣技を連続で放つ。
「ランドスライド!クイックレイア!」
マノーリアも剣技を放ち傭兵を一掃する。
「乱舞!月光!」
葵がドレイク達を挑発する。
「この程度なら、わざわざ騎士長の手を煩わす事なく、俺だけでも対応できるが続けるか?」
「おの~れ~!わたしの邪魔はさせぬ!これだから皇国の者は気に入らん!おい!あれを持ってこい!」
ドレイクが命ずると商会の前で、野盗リーダーに渡されていた箱がドレイクのところへ運ばれた。ロゼッタがそれを見た瞬間に、葵とマノーリアへ警戒をするように叫ぶ。
「マノーリア!葵!あれは街の中に持ち込み禁止の禁忌魔法具よ!モンスターか魔族が閉じ込められているかもしれない!」
ドレイクが前に箱を放り投げる。すると箱から靄が立ち込め、何かの咆哮が聞こえる。数体のモンスターらしき影が飛び出してくる。ウェアウルフ2体が現れる。ウェアウルフは、この星にいた狼が魔族に取り込まれ、獣人化したモンスターである。マノーリアが葵に警戒を促す。
「葵くん!オーガより強敵よ!ウェアウルフはオーガのように狂乱していないわ!必要なら紫炎使うわよ!」
「わかった!マニー!まずは、加護の武器と防具強化を使おう!」
葵とマノーリアはデイトから与えられた力で武器と防具の強化する。この力によって、ふたりの武器は一時的に、この世界で最も硬い金属となる。ウェアウルフがふたりに襲いかかる。オーガ以上にスピードがある。
「させるか!グラビティコントロール!」
葵がグラビティコントロールをかけると、ウェアウルフの一体が察知したのか、葵の視界を避けてグラビティコントロールを回避し、一体がマノーリアと接近戦に入る。もう一体は動きが鈍くなるが、這いつくばらずその場に立ちもがいている。マノーリアがウェアウルフの猛攻を受け流しながら、反撃のタイミングを待つ、ウェアウルフにグラビティコントロールをかけると、ウェアウルフはカラダが硬直したように動きが鈍くなり、マノーリアの剣技の的となる。
「乱舞!花吹雪!」
紫炎を使う事なく、ウェアウルフを撃退する。敵どころかロゼッタとアイズが目を丸くし呆気にとられていた、ロゼッタとアイズが感嘆の声をあげる。
「ふ、ふたりとも、強い!まるで鳳凰白檀様のようだわ!」
「さすが、皇国騎士団騎士長です!神無月殿も圧倒的だ!」
ドレイクがワナワナと怒りを露にしている。
「くだらん!くだらん!騎士風情の小娘と小僧が!え~い!捕虜を連れてこい!」
ドレイクが命ずると、拘束具をつけられた梔子連れてこられた。服は脱がされ布一枚を背と腹から合わせただけ服とは言えないような身なりにさせられ、手枷をつけられている。
「クー!」
「クー!今助けるから!」
「この程度のやつらなら、クーが捕まるわけないだろ?何があった?」
猿轡をつけられており、梔子は声を出せないでいる。ユキが梔子の代弁をする。
「マニー、葵!あたしは平気!何もされてないから!黒幕はあそこのドレイク婦人よ!あの女の人、人じゃない!」
皆が、ドレイクの後ろに静かにたって、この状況を恐れもせず、むしろ妖艶な容姿に笑みを含むその表情は奇怪にも感じるドレイク婦人のサラを見る。サラはその妖艶な姿を見せつけるように歩きだす。今まで傍観していた時とは明らかに違う、葵が感じたことのない、不快感を撒き散らしながら近寄ってくる。
「ふっ、やはりこいつらではこの程度も相手にできぬか…」
そこに、門番が慌てて部屋に入ってくる。
「ドレイク様!守星連盟の者と何人かの議員が結界の件を確認したいと押しかけて来てます!」
ドレイクが舌打ちし、サラが高笑いをする。
「成り上がり議員など待たせておけ!」
「ハハハァ!あんたはもう終わりだなぁ!あんたとの契約も終了だ!お前らも甘い蜜を吸った分最後に働け!」
サラはロドリゲスや野盗のリーダーに向けて、魔法のような何かを放つ、すると数人の男が苦しみだし、ミシミシとカラダがきしみはじめ、男達は皮膚が避けカラダが2倍程に大きくなる。周りの威勢の良かった男達が、恐れて逃げたそうとすると、襟首や腕を掴みいきなりかみつき始め、周りは凄惨な光景と変わる。
「お前らも役に立て!逃がさん餌として役に立て!」
ロゼッタが結界内に入るようにマノーリアと葵に声をかける。ふたりが結界内に入ると精神安定の魔法全員にかける、アリスも同様に精神安定の魔法をかけている。マノーリアが変貌したロドリゲス達を見て声にする。
「オーガ・ロード…人が変貌したから、オーガに分類しているけど、別物よ!彼らは自分達の意志で、あの力を手にした。魂を売ったのよ悪魔に!」
「なら、躊躇することないな!まずはクーを」
葵とマノーリアが梔子を助けに駆け寄ると、サラがすかさず行く手を阻むトゲの蔦を生み出す。
「そう、簡単にその娘のカラダを渡すか、わたしの新たなカラダだ」
「マノーリア!葵!結界が解けている!一度下がって!」
この邸宅の高位結界が解けている。ロゼッタが風魔法のハリケーンを顕現させて蔦を切り裂く、魔法が可能になったと聞き、マノーリアがファイアウォールを顕現させるが、サラはファイアウォールを黒い炎で消し去る。サラがまたもや蔦で攻撃しようとした時に葵がロックウォールを作り蔦を防ぐ、マノーリアが紫炎を発動させ、アリスに飛び乗り、サラへ攻撃を仕掛ける。
「葵くん!クーをお願い!」
しかし、その時オーガ・ロード達がロゼッタとアイズに結界を破り襲いかかろうとしている。葵がオーガ・ロードにグラビティコントロールをかけるが効果が弱い、葵はロゼッタとアイズを優先し、紫炎を発動させてオーガ・ロードに攻撃して、オーガ・ロードの攻撃を自分へ反らす。ロゼッタから声がかかる。
「早く!梔子さんを!」
オーガ・ロードの一体がマノーリアに向かい、サラとの攻撃に防戦になる。その瞬間、蔦が梔子に巻きつきサラの元へと浮かび上がる。
「キャッ!」
「クー!」
「クソッ!」
「渡さぬと言ったろ~が!うん?」
すると、梔子とサラに繋がる蔦の間に黒猫いやミニチュアサーベルがひょこんと座っている。それを見た梔子が声を漏らす。
「ダニー?」
「マニー見えるか?あのミニチュアサーベル?」
「ええ、ハリーお兄様の支獣のダニーだわ!」
ハリーの支獣の名前はダニーだったようだ。ダニーが爪を立てて蔦を切り裂く。梔子はそのまま身動きがとれないまま落下する。すると人影が梔子を抱え、後方のロゼッタ達のところへ降りる。
「クー!遅くなってすまなかったな!」
「ハリー!」
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