21-異世界ラブロマンスは救出作戦の後で
その部屋に入ってきた少女の手には、ワンドを持ち現れた。ワンドの先には、女神を模した装飾がされ、綺麗な緑色の石がはめ込まれている。さっきまでさらりと下ろしていた金髪の髪は、アップにし後ろでまとめられている。オーダーメイドの魔装衣は、純白の膝長けの陣羽織は、金とエメラルドグリーンの糸で、刺繍がされたものを羽織り、手には肘までのドレスグローブのような手袋をはめ、ワンピースにロングブーツをはいている。
「どうですか?わたしの魔装衣!素敵でしょ!」
「ビナスゲートでも魔装衣は作れるの?」
「以前、ロスビナスに来た時に、ロゼッタがどうしても作りたいって言うから、その時にね。ロゼッタ久しぶりに見たけど、確かに素敵ね。」
「ロゼッタ嬢、確かにお美しいが、同行されるのは危険かと思います。」
「アイズ様。ご心配はありがたいですが、わたしたちの為に、梔子さんは捕まってしまったのです。救出に向かうのは当然の事でしょう。」
「アイズさん、ご心配されるのはわかりますが、ロゼッタの魔力量は、神官や魔導師と同等にあります。ロゼッタが治療院を継ぐ選択をしなければ、魔導師や騎士にもなっていたと思います。ストロングスピア防衛戦では、ロゼッタは、最年少で結界魔法隊の一員として、皇女やあざみ神殿長と共に結界を作ったのですから、こう見えて、ロゼッタも強者との戦い方を知っておりますよ」
マノーリアがアイズに伝えるとアイズが少し照れた感じに答える。
「そ、そうですね。如月騎士長の言うとおりでしたね。ロゼッタ嬢のその~お姿を見てると無用な心配をしてしまう。ロゼッタ嬢お許しください。わたしの身勝手な失言でした。」
アイズはロゼッタにも頭を下げ無礼を詫びる。ロゼッタが頬を赤く染め、アイズに頭を上げるように、手をパタパタとさせる。葵がニヤリとしてアイズに伝える。
「アイズさん、クーの身元が相手にバレたかは、わかりませんが、自警団との絡みは疑われていると思いますよ、なら、ロゼッタをここに置いて行くより、一緒に行って、アイズさんが護れば良いんじゃないですか?その方が他の誰かに護られるより、ロゼッタも安心だろうし」
ロゼッタが顔を真っ赤にして、葵を抗議する。
「な、な、葵は何を言っているの!あ、あ、アイズ様を困らせるような事を!」
葵がロゼッタに反論する。
「俺が護るより、アイズさんの方が数百万倍良いだろ?」
ロゼッタが下を向いて、口を尖らせて声にならない声を出してモジモジしている。
「じゃ決まり!クーいないから前衛は俺とマニーで後衛にロゼッタ、で、ロゼッタの護衛をアイズさん。」
「神無月殿、お二人では攻撃力が足りないのでは?」
「アイズさん、ご心配なく、このユキとわたしの支獣のアリスがいます。」
マノーリアがそういうと、デフォルメアリスがポンっと現れユキと戯れる。
「わかりました、ロゼッタ嬢を護ることに専念致します。」
「アイズ様よろしくお願いいたします。お手間をおかけします。アイズ様を心から信じておりますので、わたしを気にせずにアイズ様の思うように行動していただいてかまいません。」
「ロゼッタ嬢あなたをお護りすることが、わたしの使命になった以上、命にかけても護り抜いて見せます。」
葵がけしかける。
「まるでプロポーズですね?アイズさん」
「か、神無月殿!こんな時に茶化さないで下さい!」
ロゼッタはまた顔を真っ赤にして下を向いているが、おそらく全身真っ赤になっているのではないかというくらいワナワナと小刻みに震えている。葵はからかいすぎたかなと身構えるが、ロゼッタはバッと顔を上げアイズの前で両手を胸に置き、涙目でアイズを凝視し勢い良く伝える。
「アイズ様!ふつつか者ですがよろしくお願いいたします!ずっとアイズ様の事をお慕え申しております!アイズ様のお側にいさせて下さい!」
ロゼッタもアイズの発言に思考がエラーしたのかプロポーズの返答している。アイズが答える。
「ロ、ロゼッタ嬢!さ、先程のは……いや、あなたの気持ちありがたく思います。わたしもあなたを一生護り抜く事を誓う。しかし、まずは男のプライドして騎士へ復帰し、クローバー医院長に認めていただくまで、待っていただけますか?」
アイズは最初、ロゼッタの勘違いを否定しようとしたが、決心したのかロゼッタに気持ちを伝え、ロゼッタの手を両手で握りしめる。
「ええ、アイズ様のご納得するまで、わたしはお待ちしております。」
マノーリアが目の前で繰り広げられる、ベタなラブロマンスに呆けていると、何か言いたそうな葵の視線に気がついたのか、葵に口を尖らせて子供のように文句を言う。
「べ、別に羨ましくないからね!ふたりが幸せになればいいな~って思っただけよ!葵くんは茶化してないで、アイズさんを見習っても良いんじゃない?葵くんは無理だろうけど!」
「アイズさんみたいのは、柄じゃないなぁ~、さて、おふたりさん!そろそろ良いかな?」
葵に声をかけられ、手を握り見つめあっていた、アイズとロゼッタが我に帰り、お互い恥ずかしそうにしている。アイズがマノーリアと葵に詫びる。
「如月騎士長、神無月殿お恥ずかしいところお見せした。」
「アイズさんそれは大丈夫ですよ!ふたりの愛が深まって良かったです」
「葵くんは茶化さない!話を進める!」
葵は半眼のマノーリアににらまれる。アイズが先を促す。
「どのように、文月隊長を救出致しますか?」
アイズがマノーリアに尋ねるとマノーリアが答える。
「ここは、職権乱用致します。お忍びで、皇国騎士団の騎士長が面会を求めている、と言えば元老院議員はお断りできないはずですよね?少なくともドレイク議員とは面会できますし、しらを切るのか好戦的に出るかは、お会いしてからでしょうかね。」
「確かに、如月騎士長が面会希望とおっしゃられれば、面会まではせざるおえないでしょう。」
「なんで、マニーが行くと面会しないといけないの?」
葵が尋ねるとアイズが説明をする。20年前この地で国を滅ぼすほどの、魔族の侵入を周辺国も出兵し鎮圧させた。隣国の皇国が最大の救援国として、その後の支援も行い、王族が滅んだ後に皇国領土とするか、属国にするかとの話し合いの中、この国の貴族達が自治権を要求した、貴族達の考えは、自分達で国を建て直すとの考えが大半だったが、一部の貴族は領地を奪われたり権力を失うのではないかとの考えから、自治権を要求を後押しした。しかし、当時の皇女が、自治権どころか皇国は支援のみで、属国にも皇国領土にもせず、民主化し国を建て直すよう提案した。その皇女の提案に多くの勤勉な貴族が賛同し民主化し自身達の爵位も捨て去り、新しい国を作る事となる。元老院議長を国の長とし、国の領主と呼べるものは存在せず、隣国のロスビナス皇国皇女を同国の領主として崇めることとした。こうしてビナスゲート共和国が20年前に誕生し、両国は国の国境を越えた友好を築き姉妹国となった。その為、皇国の騎士団幹部がお忍びで夜に会いに来たと面会要求があり、それを断れば次は話を聞いた自国の他の者が、何故会わないのかと疑いをかけてくる事になる。アイズが説明を終えるとマノーリアが口を開く。
「クーの今の状況を確認して出発しましょう。おいでユキ!」
「ピー!!」
マノーリアがユキを呼び、ユキが梔子の声で喋りはじめる。梔子が無事であること、身元は明かしていないこと、ドレイク議員邸宅のどこかに拘束されているが、邸宅のどの辺りなのかは、梔子も把握できていないようだ。
「クーは無事だし、居場所はユキがいるから問題ないから、まずはドレイク議員に急用の面会を求めにいきましょう。それと行く途中で、ロドリゲス商会の関係者が、何かしてくるようなので、気をつけて下さい。」
「何故お分かりになるのですか?」
「アイズ様、マノーリアは闇の高位魔法を使えるから、そちらを使用したのでしょう」
「あちらは、わたしの事を裕福な令嬢と思っているようなので、誘拐でも考えているようです。」
葵達はクローバー治療院を出て中央に向かう、距離はそこまで遠くない、案の定ロドリゲス商会の手の者が5人ほど現れたが、マノーリアが手を出すまでもなく、葵が呆気なく撃退する。リーダー格の男を拘束し一緒に連れていく
「葵は想像以上に強いのね!」
「相手が大したことないだけだよ」
「神無月殿、ご謙遜なさらずに剣術もこちらの騎士にひけをとらないほどです。」
「こちらに転移してから、ほぼ毎日戦ってますしね。5日間ですが、紫炎武術の稽古もリュウシ師範直々に、受けさせてもらったので、多少は戦いなれたのかもしれませんね。」
「短期間とは言え、師範直々に稽古していただけるとは、霊峰神殿の一心壮傳流紫炎武術を…神無月殿の実力を見せてもらって頼もしくなってきましたな!」
葵は、今回は加護の力は、極力使用しないか、気づかれない程度に使用する話で、マノーリアと打ち合わせをしている。ドレイク元老院議員邸宅に到着し、門番に身分を伝えて、門番が慌てて報告に向かう。待合室で20分程度待ったが大広間に通され、ドレイク元老院議員が現れる。恰幅の良い50代前半の中年男性で、明らかに招かざる客を対応するといった感じだ。
「夜分遅くに申し訳ありません。」
「急を要するとは、どのような要件ですかな?」
「この街で、民や商人さらに旅人を罠にはめて、悪行が横行している事はご存知でしょうか?先程も私たちを襲った者を捕らえ連れて参りました。」
マノーリアは先程の男を前に付き出した。ドレイクは眉間にシワを寄せ、テーブルに置いた手の指を叩きイラつきを露にしている。姉妹国騎士団の幹部を招く態度ではない
「ほほ~、この男が騎士長殿を襲ったと?」
そこへ、部屋に妖艶な美しい女性が入ってくる。一礼して、ドレイクに耳打ちする。
「如月マノーリア騎士長殿?そなたが本当に本人である証拠はどう証明されますかな?」
「御石の確認で充分ではないでしょうか?」
「フンッ!そんなもの、いくらでも偽物を作れるだろう!」
「ドレイク議員!特に各国の要職に着くものの身分証明は、守星連盟の統一規格ではないか!あなたは、それを否定されるおつもりか?」
そこへ、また別の者が現れた。野盗のリーダーとおそらくロドリゲスと思われる人物である。
「お前は、昼間にうちの店に来た、ただの旅人ではないか!うちの従業員にこんな酷いことを!」
「昨日は、街道で脱輪した商人を助けた見返りに、高額な金銭を要求されたと騎士団に被害届けが出ているだぞ!」
「何よりも、お前らの女の仲間が、ドレイク元老院議員様の家を探っていた!無実の我々に濡れ衣を着せるなど卑劣な真似を!」
ドレイクが立ち上がり怒鳴りつける。
「え~い!この卑劣な女狐め!姉妹国騎士団の騎士長を偽るなど、恐れ多い蛮行を行いやがって!皆のもの生きて返すな!始末しろ!」
「ハァー」
葵は盛大にため息をつく、ベタな野盗の親分は、はたまたベタな悪代官と越後屋みたいな連中に飽き飽きしている。葵はあまりに想定通りでムカついてきた。
「お約束な上にお約束を重ねやがって!それがお前らの意志か!真実をねじ曲げやがって、腐りきってるな!」
「葵は何に怒っているのかしら?」
「お約束とはいったいなんなんでしょう?」
「アイズさん!ロゼッタ!葵くんは気にしなくていいから!戦闘は避けられないわ!戦闘態勢用意して!」
「承知した!」
梔子の救出作戦が想定通り、力ずくで救出することとなった。
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