19-作戦会議
気の強そうな顔立ちのロゼッタが、手振り身振りを交えながら、マノーリアにまくし立てるように喋る。マノーリアは、微笑みながら静かに聞いている。内容が聞こえない距離だと、クレーマーが騒いでいるようにも見える。喋らなければ美少女ではある。身長は梔子と同じくらいなので160センチくらいだろう、腰近くまである長いストレートの金髪は艶やかで美しく、前髪が眉毛の上で水平に整えられており、いわゆる姫カットと言うやつだ。犬耳の持ち主だが、白檀やリュウシの犬耳は、どちらかと言うと和犬やハスキー的な尖った耳だったが、ロゼッタは垂れ耳の形をしている。犬で言えばビーグルのような耳で、一見すると髪の毛と耳がわからないが、時折、ピクッと耳の根元が動くのでわかる。ロゼッタの会話の合間でマノーリアが口を開く。
「ロゼッタ、お話をしたいのは山々なのだけれど…まずはこの街で起きている問題を解決するお手伝いで来たのよ、アイズさんに助けていただいたから、お礼になればと思って」
「そ、そうね!アイズ様って素敵でしょ!」
「そうね、品位のある方ね、堅実に国を護られてきた方のようね」
「そうなの、爵位制度が廃止される前は、伯爵家だったのよアイズ様は!今なおアイズ様の御家は、勤勉にこの国の為に尽くされているわ!騎士団追放なんてありえないのよ!」
貴族のイメージは、見栄や権力に溺れているイメージしかなかった葵は、アイズを見て少し貴族のイメージが変わった。葵が梔子に尋ねる。
「皇国は爵位制度はないの?」
「昔からないよ、名家でって言うのはあるけど…ウチとかマニーの家もそうね」
「そうなんだ?」
「別に権限があるわけではないよ、ウチは代々騎士になる家でマニーのところは治療師ね、マニーのところが騎士なのは、お父さんとマニーだけだと思うよ。騎士並みの薙刀の使い手の家でもあるけどね。マニーも治療師の技能も習得してると思うよ」
「マニーってやっぱ頭良いんだね。」
部屋をノックする音が聞こえ、ロゼッタが入室を促すとアイズが入ってくる。アイズも冷えた体を暖めたかったようで、先ほどと服装が違い装備を外して着替えている。アイズが入ってくると、ロゼッタが先ほどとは、うって代わりしおらしくなる。
「アイズ様お帰りなさいませ。マノーリア達を助けていただいてありがとうございます。わたしからもお礼を言わせて下さい。」
「ロゼッタ嬢、おやめください。如月騎士長方はあえて、身分を伏せておいでだっただけなのですから、私の出る幕でもなかった案件です。それと私に様の敬称はおやめくださいとお願いしているではありませんか」
「マノーリアや梔子さんの実力は、わたしも存じ上げております。それでも友人を助けていただけたのですから、それにわたしにとってアイズ様はアイズ様です。」
アイズは困り果てるような顔をしながらも、それほど困っていないようだ、やはり人助けをして感謝されて嫌な気持ちはしない、しかし、今回は助けた相手が自分よりも、強者の可能性が高いので、素直に喜べないのだろう。ふたりの世界が永遠に続きそうなので、マノーリアが割って入る。
「アイズさん。そこまで困らなくても良いではないですか!わたしたちを助けていただいのは事実ですし、皆感謝はしております。ただ本題に入りましょうか」
アイズが、マノーリアの助け船に安堵し状況を説明する。豪商ロドリゲスの悪行の手口は、葵達のように野盗に襲わせたり、行商相手には積み荷が傷んだなどの理由で、補償金を要求したり、相手の立場を窮地追いやり、無謀な取引をさせて、損害額を払えない相手にし、裏社会で男なら奴隷、本人のみならず、家族に女性がいれば身売りさせているそうだ。騎士団で取り締まろうしたが、騎士団の警備巡回時間が漏洩したり、組する者が黙認したりと捕まえようにも、アイズ達の動きを把握されていて、捕まえる事ができなかったとの事だった。その責任をとるかたちで、アイズ達は騎士団を追放された。ずっと話を聞いていただけの葵が口を開く。
「最初からアイズさん達を追い出す事も計画だったんでしょうね?」
葵も騎士団の事はわからないが、悪党にとってはアイズの正義感が目障りであったのは理解できる。マノーリアが続けて問いかける
「葵くんの言うとおりですね。アイズさん失礼ですが騎士団での役職は何をされてましたか?」
「わたしは、首都守備隊隊長をしておりました。」
「この国の騎士団は皇国騎士団を模範に再編成されたと聞いておりますが、今も変わらなければ、首都守備隊隊長であれば騎士長同等の権限がおありですよね?不当追放であれば、ご自身で異議申し立てた上で、軍法会議を行うこともできたと思いますが?」
「如月騎士長おっしゃる通りです。ですが、異議申し立てを行いましたが、棄却されました。」
アイズは今思い出してもかなり悔しいと感じているようで、両手の拳を強く握り耐えている。
「そこまで、圧力がかけられる人間が裏にいる…それが元侯爵の可能性が高いわけですね?」
葵がアイズに問いかけると、アイズは目を伏せながら頷く、アイズの話では元侯爵が関わっているとなると、軍だけでなく、元老院にも悪影響を及ぼす可能性があると言う。
「もし、そうだとして、何が狙いなのでしょうか?」
ロゼッタが疑問を口にし全員に尋ねる。葵が顎をさわりながら考えられる目的を話す。
「シンプルに考えれば、爵位制度の復活が目的でクーデターを起こすのが手段とか?悪党に相容れない、アイズさんが、首都守備隊隊長であることは目障りだろうね。いつ頃からなんですか?」
「3ヶ月ほど前からです。それ以前、このようなことが頻繁起こるようなことは…」
マノーリアがアイズの返答に対しさらに質問を重ねる。
「この半年くらいで、何か公になった出来事ありますか?元侯爵が動き出すような出来事が?」
アイズが腕を組考えているが、大きな出来事が思いつかないようだ。
「申し訳ありません。思い当たるような公な出来事は…爵位制度廃止は以前から一部の貴族の不満は以前からでしたが、民主化の流れは止められませんでしたからね。内政的にも不満を悪化させるような問題もないはずです。元老院議長も各大臣も元貴族の不満悪化は内政悪化になるのは、理解されておられるので、強行策をとることはありませんでした。」
ロゼッタがふと思い出したのか顔を上げてこれだと言わんばかりに自信ありげに語り出す。
「アイズ様半年前に元侯爵に大きな出来事がございますよ!再婚されております!しかも、若くてお美しい女性と!新妻の為に表舞台に返り咲きたいと考えたのではないでしょうか?」
「ロゼッタ嬢さすがにそれは…」
梔子が葵とマノーリアを見て気づいた事を口にする
「そういえば、神殿でこの話になった時に悪魔が絡んでる的な話にならなかった?」
「首都の前は霊峰神殿に立ち寄られたのですか?」
「あ、そうなんです。新街道が土砂崩れで通行止めになったので」
3人はあえて、デイトや加護の話は、しないようにしていた。皇国や連盟で公表がない限りは、まだ機密情報だからだ、友人とはいえ不必要に話すことは避けるべきだ。
「神殿長のあざみさんがロゼッタによろしくって言っていたわよ」
「マノーリアもあざみ様とお知り合いでしたか」
「あの土砂崩れも人為的なものだったのかもしれませんね」
3人は苦笑するしかない。いくら悪党でもやってない罪を擦り付けられるのは嫌だろうなと思いつつ、葵はあれは人為的出なくデイトがやったんだよねと言いたい気もしたが今回の悪党達は罪一つ増えてもさほど変わらないので話を戻す。
「豪商ロドリゲスは隠れみので、元侯爵が黒幕の可能性も出て来たな、ところで元侯爵の名前は?」
「そうですね、ここでは名を明らかにしても問題ないでしょう、内通者封じに伏せる習慣がついてました。名をドレイクといいます。元老院議員でもあります。元老院内の3番目派閥を持っています。その派閥には軍のトップも…」
「ドレイク元老院議員を調べる必要がありそうだな?」
「しかし、どうやって?簡単にはしっぽを出すような相手ではないですよ」
そこで、梔子がやっと出番が来たと語り始める。
「そろそろあたしの出番ね~そういう仕事は斥候隊のお仕事だよね~情報収集ならおまかせあれ!」
「ひとりで平気?いつもならバディの咲がいたり、耳役の花がいたんだろう?」
「問題ないよ斥候はひとりで任務遂行できないとね」
葵が対したことではないが疑問に思い梔子に尋ねる。
「クーって斥候なのに服の色派手だよね?普通は黒とか地味な色じゃないの?」
「そこが魔装衣のいいところじゃない、葵が着てる魔装衣だって色を変えられるよ」
「便利だね」
「あたしの場合は、ほとんど色を変えないけどね。風魔法とレンジャーの技能でだいたい対応できるから」
「色が変えられるって透明にもなるの?」
「もちろん簡単よ!…あ、お、い!何させるつもりだった?ホント葵はバカな事を考えるよね~」
梔子が葵を半眼で見ている。ロゼッタがマノーリアに葵と梔子のやり取りを見て尋ねる。
「彼は本当に平気なの?」
「あれは彼なりのコミュニケーションよ慣れれば気にならなくなるわ、ああ見えて信頼できる人よ」
「マノーリアが言うならそうなんだろうけど…」
マノーリアが代表して今後の方針を纏める。
「それでは、これからクーに、ドレイク元老院議員の身辺調査をしてもらい、わたしと葵くんでロドリゲスの周辺を調べましょう。アイズさんとロゼッタは軍と騎士団とドレイク元老院議長に加担する組織を改めて調べて下さい。最大の黒幕は魔族もしくは魂を売り力を得た者がいるかも知れないので、皆さん、くれぐれも注意して行動して下さい。」
「了解!」
ビナスゲート共和国の大悪党の退治に3人は全面的に協力する事となる。
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