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99-誠意の形

 その砦は、この島に一夜にして築かれた。その景観は“難攻不落”を具現化したと言っても過言ではない、まさに神業の建築である。まあ、デイトが作ったので神業であることは事実である。ハニワ型騎士が警ら巡回し、巨大なゴーレムが近寄る獣人を蹴散らしている。中位魔族では、デイトの眷属であるガーディアンを突破されることはないであろう。


「攻めてきている。獣人は統率が取れているようには思えないわね」

「たまたま、近くにいて人を見て襲いに来た感じかな?」


 マノーリアと梔子が砦の城壁上から、まばらに攻めてくる獣人の姿を見て会話をしている。その会話に咲が答える。


「返り討ちにしてあげますけどね。花は左よろしく」

「りょーかい」


 咲と花は、信治の作った魔力圧縮の武器で獣人を狙う、咲は実矢と魔力矢を放てる弓を使う、魔力矢の時もつる引くことで魔力を圧縮し魔力矢が顕現される。今は魔力矢で獣人の急所を命中させている。花はロングレンジライフルの形状をしたライフルを使用している。ライフルといっても銃口はなく、銃先は鋭角に尖り、魔力圧縮ができるとライフルの銃先に弾丸が顕現される。咲は剣と弓を使い、前中衛をこなす万能タイプだが、花は弓を専門としている。花はアーチャーの最強職能である必中を使いこなす。その為、花が放つ魔力の弾丸は、魔獣の急所を貫通し、さらに後ろの魔獣にも必中させる、タイミングが合えば、3匹を一発の弾丸で絶命させている。2人ともに命中率がそもそも高い上に、今はモノクルスコープを使用している。


「2人の弓さばきはさすがね!」

「信治さんのこの弓とモノクルスコープのおかげですよ」

「そうですね。魔力消費も少ないので、普通の弓みたいに矢筒の中を気にしなくて済みますしね」


 マノーリアが咲と花を絶賛するが、2人は謙遜しつつも表情は嬉しそうだ。4人で会話しているところに、葵がデイトとアインと共にやってきて声をかける。


「備蓄品なんかの搬入は終わったよ、ほとんどデイト様の眷属がやってくれたけどさ」


 次にデイトが口を開く。


「環さんと白檀さんがこの砦があるなら、ここを作戦拠点にするとのことで、集合するそうです。その為、備蓄品も初期の予定よりも多くなりましたので、新たに眷属を生み出しました」

「デイト様の眷属がいるとホントに助かりますね。今も咲ちゃんと花ちゃんは、獣人の狙撃はお願いしてますけど、わたし達は見てるだけなので…」

「カラダなまるよね~」


 マノーリアと梔子が手持ちぶたさの状況に若干飽き気味の様子だ。葵が2人に口を開く。


「まあ、すぐにここに増援が来て、作戦が決まれば嫌でも戦うんだから、まずは、ここを万全な砦にしようか、まあ、デイト様が防衛面は完ぺきにしてくれるから、俺たちは環境整備くらいしかやることないけどね」

「まあ、劣悪な環境じゃ精神的にしり込みするからね、雑用でもなんでもやりましょう」


 そんな話をしているとアインが咲と花の前に立ち2人に声をかける。


「2人がユーオズ教官の娘さんかい?」

「あ、はい!卯月咲です」

「卯月花です」

「俺はアインだ。昔、教官には教導隊の時に世話になってな…それと…」


 アインは2人の前で片膝をついて頭を下げる。この世界の土下座に相当する姿勢だ。


「アインさん…?」

「アインさんやめてくださいよそんなわたし達に」

「いや、こんなんで許されると思ってないが、謝罪させてくれ!君たちの親父さんを殺したのは俺たちの隊が安易に魔族に突っ込みすぎたからなんだ…」

「アインさん3年前の防衛戦の陽動隊に?」

「ああ、親父さんに術を掛けられていたとは言え、昨日まで知らなかった事を俺は恥ずべきことだ。俺たちが迂闊うかつな行動しなければ、親父さんだってあんなことにならなかった…本当にすまなかった!若気の至りとは言えすまない。君たちにどんなことを言われても当然なんだ。それで、親父さんが戻るわけじゃないが気が済むまで俺を責めてくれ!本当にすまない!」


 咲と花は両手の拳を握り唇をかみしめ、目の端には涙が浮かんでいる。2人にも思う感情はあるのだろうがこらえている。マノーリアと梔子が咲と花の肩を抱く。咲は目をゴシゴシと袖で拭き、花は指で拭い、ふたりで顔を見合い、アインに言葉をかける。


「アインさん…わざわざありがとうございます。でも、大丈夫です。父がそうするべきと考えてしたことです。不器用な父だった事は、わたし達もわかってるので…」

「いや、しかし…」

「アインさん、タヌキオヤジですよ!いろんな事をごまかしたり、隠したり、得意な人なんで、それでいいんです!あたし達は、そんな父を誰に何て言われても、誇りに思うことに決めたし、だから騎士になりました」

「もし、アインさんが思うことがあるとしたら、生きてください!そして、わたし達みたいな、新米の騎士や冒険者のお手本なってください」

「しかし…いや…わかった…それが教官の考えなんだろうな…誇れる冒険者になってやるさ!ただ、この作戦終わったら、墓参りだけはさせてくれ」

「ええ、父も喜ぶと思います」


 アインは咲と花と握手をし、少し表情を緩ませる。アインも若い頃の過ちを本人ではないが、恩師の娘に謝罪できたことで胸の引っ掛かりを払拭できたようだ。葵が口を開く。


「じゃ、冒険者パーティー ウイングスと皇国守星調査隊は、絶対的協力関係でこの作戦を成功させましょ!」

「そうだな!そちらの隊と力量の差があるが、よろしく頼む!」


 こうして、葵達は新たな協力者を得ることとなった。

お読みいただきありがとうございます。

引き続き次話をお読みいただければ幸いです。

よろしければ、評価とご感想をちょうだいいただければ励みとなりますので、よろしくお願いいたします。

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