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第一章 7 春 『朝帰りニコライ』
ニコライの帰宅は思ったよりも遅かった。
一夜明けた今日。
玄関先でガチャリッと扉の開く音がしたと思ったら、ペタペタという裸足で床を歩いてくる音がして、死んだ魚のような目をしたニコライが居間にやってきた。
そして、
「天使だって信じてもらえなかった……」
ニコライがポツリと寂しそうに呟いたかと思うと、そのまま布団の中に潜り込み、うんともすんとも言わなくなってしまった。
「お、おい。大丈夫か?」
俺はそんな彼に声をかけるのを躊躇いつつも、恐る恐る布団をポンポンと叩いた。
しかし、ニコライは何も言わない。
それどころか、
「うぅ……うぅぅ……」
という、嗚咽をもらすような声が布団の中から聞こえてきた。
「な、泣いてるのか?」
「………………」
ニコライは黙るばかりだった。