第一章 9 春 『ニコライは眠らない』
夜になって。
「なぁ……。いい加減、こんな事やめようぜ。犯人探し始めてならもう1時間だぞ」
「いいや。まだまだですよ。犯人逮捕でポイントゲット! 僕はC級底辺からSSS級のトップまで一気に成り上がってやるんです!」
春といっても、まだ外は寒い。 特に夜はよく冷え込む。犯人逮捕に意気込むニコライの鼻息も白く霧のようになって、やがて空気中に溶け込んでいった。
「こんな闇雲に街を歩き回ったって見つかるわけないだろ? 素人の出る幕じゃないって。ここは警察に任せよう? なっ?」
「桐島さん! 愚痴ばっかり溢してないで、貴方も周りに目をよく凝らして見て下さいよ。裏路地の隅とかに案外、ターゲットは隠れているかもしれません。見落としたらそれこそ、一生後悔する事になりますよっ!」
「いや、別にしねぇよ。俺はもう帰りたいんだよっ! 外は寒いし、見たい番組もあるし。あぁ、もう始まっちゃってるかな……。『本音で酒トーク』」
「…………あぁ、芸能人たちが酒を片手にお喋りを楽しむ大人気トーク番組の事ですか。どうせ来週もやるんでしょ? 別に今週は見なくなったって良いじゃないですか」
「良くない! 俺はあの番組が楽しみで、毎日頑張って生きてるんだ! こんな事になるとは思わなかったから録画もし忘れたし…………。もう最悪だっ!」
「そんなに叫ばないで下さいよ。なんなら今、暇潰しに僕とトークしてみますか? それなら退屈や寒さも紛れるでしょ? 僕は聞き役に徹しますから。なんだったら、最近あった辛い事とかを愚痴って頂いても構いませんし」
「いや、今だわ」
……それにしても寒い。
勝手に体が震えてきてしまう。手を擦って摩擦を起こしながら、俺はニコライの後をついていく。
その後も2、3時間、犯人を見つけてやると息巻くニコライと街の裏路地という裏路地を探し回った。
街の表通りは警察官で埋め尽くされているため、必然的に犯人は裏路地で息を潜めているだろう、とニコライが推理したからだ。
しかし深夜になっても、とうとう犯人を見つける事は出来なかった。