第8話 黒き死人
ーー夜の街。
冒険を終えた冒険者、仕事を終えた男性、女性が楽しそうにワイワイと飲んでいる。冒険者用の品を僕達は買いに来ているからか特に冒険者達の楽しそうな姿が目立つ。冒険者は命懸け、1日の終わりはしっかりその日生きた事を喜ぶ。そう聞いた事がある。
「楽しそうだね」
『ええ、でもあの雰囲気に入るのは……』
「僕もそう言うの苦手だから、大丈夫。さっさと旅支度して、静かな所で食べようか」
『そうしましょ』
旅支度の初めは、服屋を目指していたのだが、戸締りをしていたので慌てて駆け込み購入する。女性の買い物は長いと言うし、閉店間際で僕的にはラッキーだった。しかし、ゆっくり選びたかったみたいでミアンは膨れていたので、また今度ゆっくり見よう。と思ってもない言葉が出てしまい、約束するハメに……忘れてくれないかな?
雑貨、テントや、食料品、鍋や薪など旅で必要そうな物を片っ端から購入した。
「何処で食べようか」
『そうね、と言ってもこの時間何処も混んでるわね』
「そうなんだよね、軽く済ませて戻る?」
『ええ、それなら多少煩くても仕方ないわね』
僕達が入ったのは冒険者ギルド近くの大衆食堂。冒険者ギルドが見たかったので近くで食べようって僕が提案したのだ。剣と盾が印象的な看板。見るだけでワクワクしてしまう。
『何、ニヤついてるのかしら』
「失礼な!ニヤついてるんじゃなくて、ワクワクしてたの!」
『あら、そう。てっきりあの魔法使いの女性を見てたのかと思ったわ。胸があんなに強調されてますものね』
言われるまで全く見ていなかったのだが言われると思わず上下に揺れるそれを見てしまう。
『レティスのえっち!そんな上下に顔動かして見るなんて何考えてるのよ。冗談でしたのに……』
「ち、違うって。本当に言われるまでは全く見てなかった。剣と盾の看板を見てたんだよ」
『今は?』
「今は……って、もう、あれだけ揺れてたら仕方ないような」
仕方ないよね?男だもん。
『変態!馬鹿!』
理不尽だ。ミアンの機嫌がどんどん悪くなってるのを感じる。機嫌悪くなるなら言わなきゃ良いのにと思うが、女性の考えは複雑だ。
「でも、こうやって周り見てるとミアンってかなり可愛いよね」
煽ではあるが、実際本当に思ってる事だ。まあ、少女なのが残念だ。早く大人の女性に……。
『そ、そ、そうかしら?レティスは見る目あるわね。そんな私の責任取れるのだから幸せものよ』
満更でもないようで、すっかり上機嫌だ。
「そうだね、僕は幸せものだと思ってるよ」
1人旅は寂しいもんな。出てくる料理は、軽めの物を頼んだつもりだったが、流石冒険者の集まる食堂。多すぎだよ!
『もう食べれませんわ』
「1人前は僕達には多すぎるね」
2人で2人前頼んだのだが、想像のおよそ倍の量だった。
『それにしても、笑えたよな』
『聖なる鐘だろ?』
『ああ、まさに美女パーティーだ。と思ってたが、あれは魔物に同情するぜ。まさか、シーサーペントの頭だけ鱗剥がして剥げ竜にしちまうんだもんな。俺らも近付いてたら剥がされたりしてな』
『ちげえねえ。剥げ氷の魔女だもんな』
冒険者達の話が聞こえてきた。
シーサーペントの頭だけを剥がした?んん。何か覚えが、そして聖なる鐘……。
『ねえ、レティス。聞こえた?』
「う、うん」
『レティスこれ狙ってわざわざ頭だけ……』
「違うよ、本当に!時間もなかったし氷を全部解くと足場がなくなるから頭だけでもと」
『魔女さんってあの魔法使いのお姉さんよね。絶対恨まれてますわね』
「で、でも、名誉と、素材は……」
そうだよね。この街の英雄と言う名誉を得たのだ。二つ名くらいいいよね。
『二つな名は一生付き纏いますわよ。消し炭の聖女ってまさか、そっちにも関わってないわよね?』
「それは、大丈夫な……あっ!」
オーガの頭消し炭にした事を思い出す。
『はぁ、消し炭とは真逆の神官であるあの女性が消し炭の聖女なんておかしいと思いましたわ』
「全部僕の、せい?」
『ええ、そのようね。出逢わない事を祈っとくのね』
オーガの時は姿は見られていないはず。大丈夫、大丈夫だ。シーサーペントの時もはっきりとは見られてないし、バレても理由を話せば。
「そうするよ……」
◆ーーーーー
次の日の朝、僕達は依頼がないか冒険者ギルドへと来ていた。
「ここが冒険者ギルドかー。朝から人が多いね」
『良い依頼は取り合いだもの』
「なるほどね、僕達があの中に入るのは難しそう」
大人達が、依頼を取り合っている。流石にその中に入るのはね。暫く併設されてる酒場でミアンとミルクを飲みながら大人達が居なくなるのを待っている。
「護衛依頼残ってるかな?」
『うーん、良い依頼は取られてるはずよ。別に依頼じゃなくても普通に行けばいいじゃない』
「せっかくだからさ、冒険者っぽい事したいなって」
『変な所子供ね』
子供とは失礼な。男の子は誰もが冒険者に憧れるものなんだ!
『そんな顔して拗ねてないでそろそろ、空いたみたいよ』
依頼表の張られている掲示板は朝来た時とは変わり、見通しが良くなっていた。あれだけ張られてた依頼表が一気に減ったようだ。
「うーん、護衛依頼なさそう……。と言うか依頼も微妙なのしか残ってないし。そもそも僕達のランクだと常時依頼しかないんだけど」
『ほら、早く馬車の時間調べに行くわよ』
常時依頼は受ける必要がないと聞いている。と言うか護衛依頼ってランク不足で僕達受けれない?……。ランク上げてかないと不便だ。
「と言うか、護衛依頼受けれないの知ってたでしょ、ミアン」
『ええ、でもレティスどうせギルドに行くと聞かないでしょ』
「まあ、そうなんだけどさ」
僕達はギルドを出て、門へと向かう。そして、そこで……。
『あっ!あ、あっ!あの時の男の子!』
『うそ、どこよ、レイネ』
うおっ、こんなとこで会うなんて……。
『はぁ、レティスついてないわね』
『あ、あ、貴方ね!私に不名誉な二つ名を……』
「あ、あの。僕が何かしたのでしょうか?お姉さん達と会うのは初めてだと思いますが」
ここは10歳と言う年齢を活かして。やり切って見せる。子供の涙は強いのだ。
『え、あっ。ごめんね。見間違え、かな?探してた男の子に似てたから……』
「ぐすんっ、いえ、間違いは誰にでもあると思いますので」
『ほ、ほらレイネも謝って』
『う、うん。ごめんなさいね』
くっ、何か悪い気がしてくるな。
「いえ、では僕達も馬車探さないとなので」
『分かりました。今回のお詫びも兼ねて何か困ったら、聖なる鐘のレイネとリコを尋ねてくださいね。これでもBランク冒険者ですので力になれると思いますから』
「ありがとうございます。お姉さん達」
僕達は、聖なる鐘の2人と別れ鉱山都市行きの馬車を探す。
『レティス……さっきのは何よ』
「いやー何とか誤魔化そうと」
『あんな良い人達、騙して……』
「うっ、言い訳も御座いません」
『冗談よ、揉めたら面倒くさいもの』
「心にぐさっと来たのに。凄い反省したんだけどな」
『じゃあ、今度会ったら本当の事言うのね。あの人達なら許してくれるんじゃない?多分。二つ名は消えないけど』
悪い事はしてないのに、何かどんどん悪い事した気分になるのは何故だろう。普通は危機を救った命の恩人扱いなはず!問題は二つ名だよな、剥げとか、消し炭とか女性は付けられたくないよね。
◆ーーーーー
『えぇ、なんでなんでよ、街の英雄になれたのに。また譲っちゃうの……。追ってくらい何とでもなるでしょ!それに命の恩人からのハーレム定番じゃない』
エアリルは活躍する気がなく見えるレティスを見て焦っていた。転生してそう時間が経った訳ではないが今回の試験に落ちたら神落ちだ。
早く、早く活躍して欲しいと言う思いが募っていく。
『エアリル、貴女は下級とは言え女神なのですよ。見守るのが貴女の役目。焦る気持ちは分かるけど、あの子の気持ちも汲み取るべきよ』
優しく諭すイデア。
『わ、分かってます。けど……』
私が女神になってから活躍した人いないんですもん。チート持って活躍したと思ったら、片っ端から女に手を出して……勇者ではなく、痴王と呼ばれてたり。最初の街から出ずに、一生を終える者。うぅっ、なんで私の使徒はこんなのばかりが集まるのよ……。
◆ーーーーー
『間もなく鉱山都市ピスタチア行き出発するよー』
「あっ、僕達も乗ります!」
『はいよっ、2人で金貨1枚だよ』
1人5000円か。遠出する際のバス代と考えたら妥当だな。
「ふぅー乗れたね」
『ええ、大体4日くらいかしらね』
馬車には他にも8人程乗っていた。冒険者パーティーと思われる5人組、母娘だろう2人と、小さい髭もじゃなおじさん。僕達含め10人だ。結構乗れるもんだな。
ーー数時間もすると。
「お尻が……」
『それくらい我慢しなさいよ、あんな小さ子が何も言ってないのよ』
そうは言っても、ガタガタ揺れるし硬い。防御力かなり上がってるはずだが、お尻には効いていないようだ。
「こんなに長距離乗った事なかったからさ」
『後3日はかかるのに仕方ないわね、貸してあげるわよ』
ミアンが膝枕をしてくれると手で合図してくれている。直ぐにでも飛び込みたい気分だが、周りを見るとニヤニヤしてる冒険者パーティー。不思議そうに僕を見る少女。恥ずかしい……。
『どうしたのよ?』
「いや、恥ずかしいからやめとく」
『変な所恥ずかしがり屋なのね』
『おい、少年、無理せずお姉ちゃんに甘えとけ!そんな事出来るの子供のうちだけだぜ?冒険者なら少しでも万全にするのが生きるコツだな。俺なんてもう何年膝枕されてねえか……』
20代後半くらいだろうか?先程のパーティーの中の一人。大きくくりくりした瞳可愛らしい瞳にチョビ髭が印象的だ。声はかなり男らしく少し怖い。髪はなく、つるつるだ。
アドバイス?なのだろうか。膝枕されたい願望を聞かされただけなのだろうか。
『バイス、あんたにいきなり話されたら怖いでしょうに』
『なんだと、リーニャ。俺の何処が怖いんだよ。このつぶらな瞳のどこが怖いか言ってみろ』
『瞳はつぶらだけど声はいかついおっさんなのよね、いい加減気付きなさいよ』
『なっ、少年。俺が怖いか?』
つぶらな瞳のスキンヘッドのおじさんがいかつい声で近づいてくる。ある意味恐怖だ。
「へっ、あ、あの。ごめんなさい」
『ぷはははは、謝られてやんの。バイス諦めな、それ以上は少年が可哀想だぜ』
『ヤクルト、お前までなのか……』
『またいつもの漫才?飽きないわね、貴方達』
『イリナは全然のってこないものね』
『ポテコよりマシだと思うけれど』
『ポテコは、お菓子のが大事なのです』
みんな仲良しなんだな、これがパーティーか。
『ほら、気にする必要なくなったじゃない』
なくなったのかな?僕はお尻の為にミアンの膝に頭をおろす。
『反対向いてよね!!』
顔をミアン側にして寝転んだら怒られた。理不尽だ。顔を見られながらの膝枕は恥ずかしいと言うのに。
「顔見られてたら、膝枕に集中出来ないよ」
『集中って、何想像してるのよ。レティスのえっち!』
「ち、ちが。そう言う意味じゃ……」
『くっ、ご馳走さん』
何がご馳走さんだよ、バイスさん。そんな悔しそうな目で見なくても……いいおっさんが。
『いいおっさんが、そんな目しないの』
『俺はまだ23歳だ!!!!』
「えっ」『えっ』
僕とミアンの声が被った。
『お前らな……そりゃ傷つくぜ?』
「うっ、ごめんなさい」
『悪かったわ、思わず』
思わず声に出てしまった……悪気はないのだ。
◆
ーー2日が過ぎ、街道から森に入る。快適とは言えない旅だが、大分慣れてきた。
『何か、来る』
ポテコさんが呟く。
『おい、お前ら敵だ。気を引き締めろ。俺は前を見てくる』
ポテコさん呟きを聞いたバイスは即座に判断し動く。他のパーティーメンバーも同様だ。流石Cランクのパーティーだと感心した。
『私達はどうするの?』
「様子見かな?この馬車で一番状況判断に優れてるのは、バイスさん達だろうし。とりあえず任せて指示まとうか」
索敵スキル……欲しいな。僕の場合相手から出てきてくれないと分からないからどうしても後手に回る。既にオーガ達の時みたいに誰かが戦闘していたら良いのだが、森から強襲されても分からないのだ。空間魔法で空間把握的なの出来ないだろうか?
『一度馬車を止めるぞ!ポテコの索敵は的確だ。確実に何かがいる。すぐに来ない辺り、盗賊の可能性もある。気を引き締めてくれ。俺達が前に出る。レティスお前達は……後方で他の奴らを守っててくれ。くれぐれも無理するなよ』
「わかりました。バイスさんも無理なさらず」
『わかってら、みんないくぞ!』
『『おー!!』』
昨日散々からかわれてたバイスさんの面影はない。頼れるリーダー。そんな感じだ。
馬車を止めポテコさんを中心に周囲を探る。直ぐには襲ってこない、と言うことはまた盗賊か?と思って外を覗いていると矢が相次いで飛んでくる。しかも、四方八方からだ。
『けっ、囲まれてやがるな、かなり慣れた盗賊か……』
『バイスどうすんだ?』
『ヤクルト、後ろやれるか?』
『後は恐らく2人は確定、後はわかんない』
『十分だ、気をひいてく置いてくれよ』
ーーウォータースライサー。
イリナさんの声と共に前方に水の刃が放たれると同時に、バイスさん、ポテコさんが動き出す。2人が走り出した事で4人の盗賊が動き出す。2人なら行けると思って出てきたのだろう。
剣と剣がぶつかり合う。ポテコさんは短剣で巧みに逸らしながら、避けている。4:2と不利な状況だが、2人共全然焦っていない。
『準備出来たわ』
ーーファイヤボール。
ーーウォーターボム。
2人の声と共にバイスさんとポテコさんが飛び退く。
『うわぁっ』 『なっ』
『あちいいい』 『ぐふっ』
反応は様々だが、かなり効いたみたいだ、その隙に既に2人は動き出し盗賊を仕留めていた。
まだまだいるはずだが、4人がやられた事で動揺したのか、出てくる気配がない。
『ポテコ、ヤクルトの援護頼めるか?』
『分かった、少なくとも6人は隠れてる、後は遠くでわかんない』
『おう、それだけ聞ければ十分だ、2人共分かってるな』
『ええ、いつも通りね』
『タイミングは任せるわ』
バイスが走り出す。6人はいると聞こえたが大丈夫だろうか。1人突っ込んで行ったようだが……。
『バイスさん突っ込んだわね。リーニャさんと、イリナさんが囮になったバイスさんに合わせて魔法放つとか言うパターンだったりしないわよね』
「流石にそんな、単純な作戦じゃないと思うよ。奥に行くほど普通は幹部とか精鋭が居るはずだし」
ヤクルトさんとポテコさんは、後ろに向かったようだが、物音すら聞こえないな。と思ってたらバイスさんが猛ダッシュで走ってきた。
手を全開に振り回してる。そして後ろには、10人程の盗賊達が……。まさかピンチ?
ーーファイヤボール。
ーーウォーターボム。
2人が詠唱していた魔法を唱える。バイスさんは走りながらヘッドスライディングをかまして避ける。流石にそれは予想してなかったのか後ろの盗賊3人を巻き込む。しかし、残り7人は無傷だ。かなり怒ってるようでバイスさんに向けて魔法の詠唱をしているようだ。倒れてる人に至近距離から魔法とかえげつない事するものだ。
僕は咄嗟に魔法を放つ。
ーー氷矢・改。
強すぎる魔法は目立つ。しかし、氷矢ではこの距離から間に合うか怪しいところ。僕は矢を回転させるイメージで貫通力と速度を上げて放った。これが改部分である。
ぐふっ、とかぐほっとか、本当に痛かった時に咄嗟に出るような声を上げる盗賊達。お腹を見ると偶然一列になっていた盗賊達のお腹に綺麗に穴が空いている。近くで見たら先が見えたんじゃないかと思うくらい綺麗に奥まで貫通した。順番に倒れていく盗賊。何が起きたんだ、って顔をしてるんじゃないだろうか?よく見えないけど僕ならそう思う。
『えっ、イリナ……じゃないわよね』
『わ、私は氷魔法なんて使えないわ。それに、あんな威力と速度の魔法覚えてないわよ』
後ろを振り返る2人と目が合う。僕は視線を逸らす。
「2人共、バイスさん早く助けないと!」
何故かヘッドスライディングしただけのバイスさんが起き上がらないのだ。まさか、僕が助ける前に敵に毒でも盛られたのか?
『り、リーニャ。早く行くわよ』
『わ、分かってるわよ』
2人は不自然さに慌ててバイスを連れ戻しに行く。後はヤクルトさんとポテコさんか……。
と思ってたら2人が、盗賊を引きずりながら戻ってきた。後は2人だけだったようだ。
『疲れた』
『ポテコさんきゅーな。助かったぜ。まさかあんなとこから狙われてるとは思わねえからな。てか、あそこで倒れてるのバイスか?リーニャとイリナが呼びかけてるってやばくねえか?』
『バイス、チーンΩ?』
『チーンってな、とりあえず見に行こうぜ、流石にリーダー死ぬのは洒落になんねえ』
「僕達も、様子見に行こうか」
『そうね、いきましょ』
僕達が向かうと、豪快な笑い声とパシーンっと鋭い音が響く。
「大丈夫ですか?」
『あぁ、バイスは無事だ。と言うか、頭から飛び込んだ先に石が合って顔面ぶつけて痛みで気絶してただけだ。心配かけた罰としてリーニャに制裁されてる訳だな』
ヤクルトさんが答えてくれた。
『自業自得』
ポテコさんは、お菓子以外には素っ気ない。
『痛え。後輩の前でカッコつかねえだろうが』
『うるさいわよ、心配かけて!』
『あ、あぁ。わりい。思ったより敵の数が多くて焦っちまってな』
『ビンタで済んで良かったわね』
イリナさんもなんだかんだ心配してるようだ。
『あぁ、全くだ。みんな心配かけたすまん』
慕われるのがわかる気がした。
『そ、れ、よりも。あの凄い氷の魔法って……』
僕に視線が集まる。
『貴方魔導士だったのね』
「魔導士?」
魔法使いじゃないのだろうか。
『魔導士は、上級以上の魔法が使える魔法使いの事よ。魔導士ギルドでライセンスを取れば名乗れるわね。だから、レティスは魔導士ではないわよ』
「という事見たいです。それに使ったのは初級魔法ですよ」
リーニャとイリナは驚いた顔をしている。
『あんな、威力の初級魔法ある訳ないでしょ!』
『Bランクパーティーの付き添いをした時にアイスアローは見た事ありますが……あんな貫通性能なかったですね』
『なんの話だ?』
バイスは理解してないようだ。
『盗賊7人を討伐したのは、レティスよ。と言うかレティスがいなければバイスは今頃あの世ね』
『はっ?お前らが倒してくれたんじゃねえのか?』
『私達は3人巻き込んで何とか倒したけど……後ろの盗賊達には被害なし。後の7人がバイスを殺そうとしてるのに何もできなかったのよ』
悔しそうだ。
『そうだったのか。レティス助かった、ありがとう』
「いえ、僕も搭乗者ですから、気にしなくて大丈夫です」
『そうはいかん。街へ着いたら飯でも奢らせてくれ』
「それくらいなら、有り難く受け取りますね」
『おう、決まりだ。うぐっ』
笑顔で話すバイスさんの表情が一変する。そして、腹からは黒い剣が貫通して見える。
『きゃあっ、な、な、なんでバイスのお腹に剣が……』
『みんな下がれ』
『うっ、こりゃまずそうだ。みんな逃げろ……』
苦しそうに声を上げたバイスさんが倒れると、後ろには先程の盗賊……そして全身が黒く
魔物のような姿になっていた。
『レティス』
「うん、僕もそうだと思う。ミンクスの街を襲ったオーガとシーサーペントと同じ状況だ」
しかも、他の盗賊も全身が黒く染まったかと思えば蘇ったかのように動き出す。
ーー氷矢。
確かに命中した。貫通してるにも関わらず動きが止まらない。
ヤクルトさんとポテコさんが剣を弾き、食止めている。しかし、相手は10人。
いや、後ろから……12人か。
「ミアンは、僕の援護を」
『わかったわ』
僕は剣を抜き、盗賊の元へと向かう。押し負けそうになっている2人の援護だ。そして、後ろの盗賊にはリーニャさんと、イリナさんが魔法で牽制している。
「ヤクルトさんは後ろの援護をお願いします」
『おっ、おお。わかったが大丈夫か?』
僕の急な指示に驚いたようだ。
「大丈夫です。後衛3人では、時間稼ぎにしかなりません。まずは後ろの盗賊2人をお願いします」
『わかった、ポテコ頼むぞ』
『言われなくてもやってる』
これで、後ろの盗賊2人は何とかなるだろう。問題は前。
襲いかかる盗賊。1人の剣を弾けば、また1人ときりがない。僕の剣の腕なら先程の盗賊くらい楽勝なはずなのだが、力とスピードが先程とは比較にならない。浅くは斬れるが連携されて踏み込めない。それに回復してる?スキル頼りの剣術では難しい……か。
「ポテコさん、1箇所に重なるように動けます?」
僕と背合わせになっているポテコさんに僕は提案する。
『レティスから見て、重なればいい?』
「はい、それで大丈夫です」
『わかった』
そう言ったポテコさんは、そのまま相手に突っ込み撹乱し始める。僕はその間に少しでも機動力を削げればと足を狙っていく。
3人を引きつけながらポテコさんの様子を伺っていると、上手く4人の動きを釣れたようで、ポテコさんが僕目掛けて走ってくる。動きは凄いが思考レベルは下がってるようだ。そして後ろから付いてくる盗賊達。僕に引きつけていた盗賊達を1直線になるように誘導する。
そして、ーーフロストノヴァ。
一直線に氷が伸びていき盗賊達を氷漬けにする。中級魔法だが、魔力を多く注ぎアレンジした事で硬度と魔法の速度は大幅に上がっている。これで終わりだといいのだが……。
『すごい……』
「これで、終わりならいいですけど」
『大丈夫、だと思う。援護いく』
ミアン達の方を見る、押して見えるが倒し切れてないようだ。
「ミアン、大丈夫?」
『小さな傷だと回復するみたいね。ホントなんなのこの黒いの!』
そうなのだ、浅い傷はすぐに再生するように回復する。だからこそ、凍らせた訳なのだが。
『ファイヤーボールが直撃したのに、殆と効いてないみたいね』
リーニャさんの魔法が効かないって事はかなり魔法耐性が高いのだろうか。黒くなった事で能力だけでなく、魔法耐性も付くようだ。まるでーー。
「とりあえず凍らせますね、2人はバイスさんを……」
恐らく手遅れだ。
『俺とポテコで誘導する、レティス頼んだ』
ヤクルトさんとポテコさんが2人の盗賊を引きつけつつ、隙を作る為動いてくれている。前衛がいるだけで魔法が凄く使いやすい。
『いま』
ーーフロストノヴァ。
ポテコさんの合図と共に魔法を放った。重なりあった盗賊は氷漬けだ。
『やったのか……それより、バイスは!?』
『……』
「今、リーニャさんと、イリナさんが」
『そうか。わりい、少しの間見張り頼めるか?中の人達も不安だろうけど、少し頼むわ』
「ええ、もちろん」
僕とミアンは氷漬けにされた盗賊を見張る。
中の人達は状況がわかっていないようだ。御者の人も恐怖で怯えて縮こまっている、これではすぐに移動は難しいかもしれない。
『大変な事になったわね。あの黒いのは何なのかしら』
「わからない。でも何かが起きてるのは確か。ーーそれに」
僕はこの特徴を記憶で知っている。小説などでよく出てきていた魔族の特徴にとても似ているのだ。魔物化、闇化、魔族化。色々な言われ方をしていたが、魔物または、魔族になる事で身体能力や魔法耐性があがった。そう考えるのが一番しっくりくる。
『それに?』
「後で話すよ」
『わかったわ』
一体目的は何なのだろうか。人間vs魔族。また大きな大陸争いでもするつもりなのだろうか。人間同士ですら争っているのに魔族まで攻めてきたら国は簡単に滅んでしまうのではないだろうか。
「みなさん、盗賊は退治しました。安心してください」
僕はみんなを安心させる為に馬車の中へ戻りそう告げる。まだ不安気だが、少し落ち着いたようだ。髭もじゃなおじさんは1人寝ていたみたいで、終わったのか?ととても気楽だ。
「馬車は出せそう、ですか?」
『す、すみません。体が震えてしまっていて……』
「いえ、大丈夫です。休憩して落ち着いたら出ましょうか」
僕は4人が、バイスさんを弔い終わったのを見計らい声をかけようとするが、言葉が出ない。大丈夫ですか?なんて大丈夫な訳ないのに言うのは失礼だ。僕が迷っていると……
『よし、切り替えるぞ、わりいな待たせてしまって』
「いえ、御者の方もすぐには出れそうにないのでしばらくは休憩なので」
『そうか、イリナ、ポテコ馬車に戻るぞ』
リーニャさんは、っと思ったがすぐにわかった。涙を流し、じっと埋葬したバイスさんのお墓を見つめている。2人は恋人関係だったのだろうか、そんな事今更気軽に聞けないのだが……他の3人が気を使うくらいだ、リーニャさんにとって、バイスさんは特別だったのだろう。
3人も辛いはずなのに、周囲の警戒や、今後の行動、御者さんのメンタルケアなど休む暇も無しにしている。
「逆か……」
辛いからこそだな。暫くし戻ったリーニャさんの顔は酷かった。目も腫れ、充血している。それでも笑おうとしている、リーニャさんに僕は何も言えなかった。
『臨時でとりあえず俺がリーダーをする事になった。一応ランクが上だから仕切らせて貰うぞ』
「はい、僕達は冒険者登録したばかりですから、気にせず指示してください」
『わかった。とりあえずここから一番近い野営地に向かう。御者は俺とポテコがやる。日が沈むまでに着かねえとまずいからな。リーニャお前は休んでろ』
『わ、私だって……』
『リーニャ、休みなさい。今の貴女では足手纏いになるわ』
イリナさんにはっきり言われ、何も言えなくなったリーニャ。ヤクルトさんの指示ですぐに馬車を走らせる事になったので、出発し野営地へと向かう僕達。
野営地まで会話は一切無く、魔物や盗賊もその後は現れる事はなかった。凍らせた盗賊については、街に着いたら報告する事になった。
お読み頂きありがとうございます。
魔物だけでなく、人までもが……。この先どうなるのでしょうか。
興味持って頂いた方は評価頂けると嬉しいです。