第6話 カップル専用部屋
ミンクスの街へと入った2人は、宿を探して彷徨っていた。
『うぅ、見つからないですわ。また木の上なんて嫌ですわよ』
多くの人が街へ入れなかった事や、家が破壊されてしまった住人などの宿泊が重なり宿がいっぱいだったのだ。
「どうしよう?」
『木の上以外なら何処でもいいですわ……』
2人して途方に暮れている。
『なんや、レティスはんにミアンの嬢ちゃんやないかい。どないしたんや?まあ、分かっとるけどな』
「はい、宿が取れなくて……」
『なんで、私の名前知ってるのよ。と言うか分かってるなら聞かなくても良いでしょう』
『レティスはんが呼んでたやろ?そんな邪険にせんでも、わいなら宿を紹介くらいできるで?』
『本当ですの?』
ミアンは宿で簡単に釣られている。
『まあ、ちょい高く付くかもやけどええならや。高級な宿には大体いくつか空きが確保されてるんやけど。わいのお世話になっとる宿なら何とかなると思うで』
『高級な宿……』
無理だー、と涙目なミアン。宿くらいなら余裕なんだけど、ミアンには盗賊の宝の話はしていない。盗賊を倒す程度の実力は知ってるが、普通の旅人じゃ高級宿に泊まるようなお金勿体なくて払えないと思うし、ミアンもそう考えてるのだろう。でも高級宿っていくらくらいなんだろう?ミアンと回ったのは安宿と中級宿だ。最初から高級宿は眼中にない感じだったから、特に拘りはないから提案はしなかったのだが。
『そんな顔せんでも、今後ご贔屓にって事で先行投資でわいが宿代払うてもええで?』
商人から借りる恩程、重たい恩はないだろう。後で何されるかわからない。しかし、僕達が高級宿に泊まれる程のお金を所持してると思われるのもあまり良くない気はする。
「高級宿っていくらくらいなんですか?」
『そやな、わいの泊まってるところは、部屋代が金貨5枚食事付きなら金貨8枚ってとこやな』
食事付きだと、庶民の一月の生活費くらいか。2人分の食事考えると金貨11枚になるから軽く超えている。
「金貨5枚、痛いですけど。仕方ない出費ですね。食事となると、厳しいので、宿泊だけでお願いしてもいいですか?」
『なんや、遠慮せんでもええのに』
「あまり貸し借りは好きではないので……。それに、冒険者になりたいと思ってますが返せるような当ても今の所ない旅人ですから」
『まあええで、金牛の長角亭って宿やけど、道は分かり……わからなさそうやな。この地図見てくるといいで、宿には言っておくで』
「ありがとうございます」
『今回だけは感謝するわ』
『ええって、ほなわいは商売に行ってくるで』
手を振りながら行ってしまった。
「宿まで紹介してくれたし、やっぱりいい人なのかな」
『分からないわよ……今回は助かったわよ?でも、偶然こんなとこで出逢うと思いますの?』
地図を指差しなぞるミアン。
確かに、宿からこの道は通らない。わざと逸れない限り。
「商人だから仕入れ先があったとか」
『小さい袋一つしか持ってませんでしたわよ?』
「うっ、でも僕達を待ち伏せするメリットなんてない気がするけど」
『それなのよね、私が侯爵令嬢だと分かったとしても次女だし、お父様に脅しをかけてもきっと得するほど私では取れない事くらいすぐにわかるわ。お姉様なら違うのだろうけれど』
唇を噛み締めている。何か事情があるのだろう。
「とにかく助かったよね。疲れたし向かってから考えようよ」
『ええ、そうね。ようやく木の上以外で寝れるのだものね』
ーー金牛の長角亭
「あれだね」
『そうね、あれね』
店の前に大きな、金色の牛、そしてその牛の像には長い角が付いている。とても分かりやすい。
『いらっしゃいませ。レティス様とミアン様ですね。ノジカ様から伺っております。カップル限定のお部屋をご希望との事でしたので既にご用意は済んでおります』
ん?今なんと……。
「えっと、カップルですか?」
『はい、ノジカ様から可愛いカップルの少年、少女が来るからカップル専用のお部屋を空けておいて欲しいと』
『私とレティスが、か、か、カップル……』
顔を真っ赤にして何か言ってるが戻ってこなさそうだ。話しかけても反応がない。男女で旅してたからノジカさんも勘違いしたんだろう。
「すみません、ノジカさんの勘違いです。カップルではないので普通の部屋でいいのですが」
『申し訳ございません。カップル専用部屋でとの事でしたので、他の部屋が空いておりません。あんな事がありましたから、すぐに空くこともないかと思われます』
「そうですか……。ミアン、カップル専用部屋でもいい?」
「ミアン!?」
『へっ、あ。うん、レティスに出して貰ってる訳だしレティスが良ければ、私は……。でもまだ覚悟が……』
モジモジしているが最後の方は小さく聞き取れなかった。
「では、その部屋で1泊お願いします」
『かしこまりました。では案内致します。こちらへどうぞ』
付いていくと辿り着いた部屋は他の部屋とかなり印象が異なっていた。通路を抜けた一番奥。何故か扉がピンク色。
まさか、ここ?と思ったがそのまさかだった。
『こちらです。どうぞ』
中に入ると、壁も一面ピンク色、少し薄暗い気がする。部屋は2部屋あり、とても広い。ソファーもピンクという事以外は、柔らかく座り心地も最高だ。
隣の部屋を見にいくと大きなベッドが一つ。不思議な香りがする。
「さっきからどうしたの?落ち着かないのは分かるけどさ」
『え、だって、カップル専用部屋って』
「???」
外の知識の疎い僕には、部屋の詳細はわからない。
『はぁ、私だけ緊張して損した気分だわ。なんでそんなことも知らないのよ』
「高級宿、と言うか宿に泊まったこと自体初めてだからね」
『どんな生活してたのよ』
街の外に出る事なんてなかったからな。
「とりあえずさ、これから先の事を決めないとなんだけど」
『そうでしたわね』
「冒険者になりたいとは言ったけど、冒険者になるにはいくつか、障害があるんだ」
『鑑定石の事でしょう?』
「あれ、知ってたの?」
『うちの領にもありますし、それくらい基本ですわ。私の名前がバレてはまずいですものね』
それもあるけど、僕もバレたらまずいんだよね。
「誤魔化せないかな?」
『無理ね。鑑定石は、正確だもの、誤魔化せる訳ないわよ』
「名前、スキル、能力値が鑑定されるんだっけ?」
『そうよ。ただ、スキルと能力値に関しては大きな支部以外では表示されないわね。小さい支部にあるのは、犯罪歴と名前を調べる鑑定石のみよ』
名前だけなら、別の国へ行けば冒険者になれそうだ。
「じゃあ、この国を出たらになるかな」
『そうね、でも国を出るって大変よ?許可なんて、バレずにとれるのかしら』
「何とかなるかなって……」
『ならないわよ、それにそれまでのお金はどう稼ぐつもり?』
登録出来ないとなると、冒険者活動は無理か。お金に余裕はあるけど、ずっと無職な旅人という訳にはいかない。
「魔物の素材とか買い取るだけならしてくれないかな?」
『それなら商人ギルドかしら。商人ギルドに卸すだけなら出来るはずよ。ただ、登録無しでは手数料取られるからかなり損と聞いた事があるわ。それにどちらにしても、身分証なしでずっと旅するのも厳しいわよね。迷惑かけてるわよね』
僕も名前バレ出来ないのだけど、ミアンは自分のせいでと思ってるようだ。話すべきか、話さないべきか。
「ノジカさんなら、何とかしてくれそうな気がするけど。訳ありなのバレてる訳だしさ」
『あの怪しい商人ですか……』
「怪しいけど、高級宿に顔も効くし、結構凄い商人かも知れないかなって。それに、誰にもバレずに国を出るのは難しいと思うし」
『そうですわね。私も国内の知識はありますが、国外の知識はまだ学ぶ前でしたので……大人の方の知恵は必要だとは思いますわ』
2人で方針を決めてるうちに心地よく柔らかなソファーに眠気が勝てず2人は眠ってしまった。
コンコン、コンコン
リズムよく音が鳴る。
「あ、寝ちゃってたのか」
体は正直だ。木の上ではやはり疲れが蓄積していたらしい。
「はい、今いきます」
扉を開けると、この部屋まで案内してくれた人が立っていた。
『レティス様、お食事の時間です。呼びに参りました』
「あれ、僕達食事は頼んでなかったかと思いますが」
『ノジカ様からの、ご招待で御座います。個室を用意しておりますので、準備が出来ましたらお呼びください。こちらでお待ちしておりますので』
ご招待?……なんでここまで僕達にしてくれるのだろうか。ギュー、っと鳴るお腹。
「考えても仕方ないか」
僕はミアンを起こして、簡単に説明して外へと出る。ミアンは、納得はしてなかったが、高級宿の料理は美味しそうと話すと、空腹には負けたのか、直ぐに、準備し始めた。
「お待たせしました」
『では、こちらです』
2Fへと上がり、僕達の泊まる部屋より明らかに豪華そうな廊下を通過すると、レストランらしき広い場所に出た。
『7の部屋へとお通しを』
『かしこまりました。レティス様、ミアン様ご案内致します』
受付の女性に引き継がれた僕達は、ノジカさんの待つ部屋へと到着する。
コンコン、と女性により開かれる。
『レティスはんに、ミアンの嬢ちゃん、さっきぶりやな』
相変わらず軽い感じの口調で手を上げて迎えてくれるノジカさん。
「ご招待ありがとうございます」
『ありがとう』
『気にせんでええで。1人の食事は寂しいもんやで。はよう座ってな。ほな、料理頼むで、どんどん持ってきてな』
『かしこまりました』
遠慮するのもあれなので、席に座る。
「あの……」
『なんでここまでしてくれるんや?って話やろ?』
『そうよ、おかしいわよ』
「はい、僕達は有難いですが、ノジカさんにメリットなんて」
『まあ、ええやろ。これは秘密にして欲しいんやけどな。わいのスキルにはこの人達と関わっとくとお得やで。みたいなんがわかるんや。あんさんらと出逢ってからスキルがビンビン反応しとる。だから、良くしとる。そんだけや』
そんなスキルがあるんだろうか?でも、あってもおかしくないよな。いろんなスキルがあるし。僕の場合女神様から貰ったチートもあるし、向こうからしたら良縁に当たるのかもしれない。活躍出来るかは僕次第だけど。
「良縁を繋ぐ的なスキルですか……」
『そんな感じや』
『何簡単に信じてますの!そんなスキルあると思ってますの』
「えっ、ないの?」
『い、いえ。わかりませんけど……都合良過ぎる気がして』
『信じられへんのも分かる。これまで発動したのは3回だけや』
「信じてみてもいい気がする。僕達みたいな子供になら、もう少し上手い言い訳も出来るし僕達を騙しても考える限りメリットないと思うんだ。誘拐してもこんな高級宿に気軽に泊まれる人にとって大したお金じゃない気がするし」
『私は、レティスを信じるわ。そもそも、私は……』
『とりあえず来たみたいやし、食べようや』
出てきた料理は生まれてから一度も食べた事ない料理ばかりだった。一応貴族だったのだけどな。日本の記憶では、同じような高級料理を食べた事があるのだが。
分かりやすく言うと中華のフルコースに近い味わいだった。フカヒレらしきスープはBランクのジャガーシャークから取れるもので希少だそうだ。これだけでも金貨3枚以上は確実な気がする。最低限の食事が金貨3枚だったのかな……。
他にも、リトルオークのお肉が使われた小籠包のような料理。リトルオークは別名デスオークと言われており、動きが素早く、鎌を振り回して襲ってくるBランク上位の魔物らしい。普通のオークのお肉程取れず貴重だが旨味のみで作られたかのようなお肉で富裕層にかなりの人気らしい。
「美味しかったー、こんな美味しい料理があるものなんですね」
『私も、こんな料理食べた事なかったですわ』
『気に入ってもろて良かったわ、んで、さっきから迷ってるようやけど、なんか話があるんやろ?』
バレてたようだ。話すタイミングを伺ってたのが出ていたのだろう。
全ては話さない。しかし、嘘もつかない。取引にウソを交えてはどこかで矛盾が出てくる。
それでは、きっと信用は得られない。僕達が頼む側な事は変わらないのだから。
「実は……」
『なるほどな、嬢ちゃんも運が良かったなあ。ここらで元Aランクが盗賊してるのは、髑髏牙だけやでな。普通は生きて帰ってこれへんで。それにしてもそれを全滅させるとは驚いたわー。わいの中の株が急上昇しとるで』
話したのはミアンの事が大半だ。
「罠に嵌めて時間かけて削りましたからね。普通に挑んでたらあっさり多分死んでましたよ」
『それでもや。元Aランクってのはな、そんなくらいでやられる程あほやない。レティスはんはやっぱし儲かる匂いがプンプンするわ』
『そんなことより冒険者証は用意出来るのかしら?』
『出来るか、出来ひんかで言えば出来るで。ただな、条件付きやな』
「条件……ですか?」
無理な条件でなければいいが。
『たまーにでええから、わいの依頼を出来るだけ優先的に受けて欲しいんや。勿論ただちゃうで?』
『冒険者は普通依頼を受けますわよ?しかも指名依頼なんて喜ぶものですわ』
『高ランクになる冒険者ってのはな、取り合いなんや。自分の依頼が優先される状況、これは商人に取っては勝負所で大きく左右するんや』
デメリットある?出来るだけって事は無理はしなくていいだろうし。こちらとしてはメリットしかないけど。
「僕としては、有難い話に思えますが、今強い魔物の素材を……と言われても取るのは難しいです。ミアンは戦闘経験ありませんし、僕も初めてが盗賊で、剣なども、見様見真似と言いますか」
『分かっとる、頼んだとしてもまだ先や。それに無理なら無理でええ。出来る依頼なら受けて欲しい。これでどうや?』
ミアンの方を向くと頷いている。
「はい、ではお願いします」
『よっしゃ、明日の夕方には渡せると思うわ。期待して待っとき。受付で受け取れるようしとけばええな?』
「はい、よろしくお願いします」
1日で訳ありの僕達の身分証作るとかこの人何者なのだろう。やっぱり偉い人?それとも大商人?どちらにも見えない……。
お礼を言い部屋へと戻る。
「あの人何者なんだろうね」
『わかんないわね、冒険者ギルドで身分証を秘密裏に作るくらいならお父様でも出来たと思うけど……1日で出来るものなのかしら、こんな事ならもっと真面目に家の手伝いに参加したりした方が良かったわね。あまり好かれてなかったのは分かってたし、最低限しか近寄らなかったのよね』
「ミアン……」
『そんな顔しないでいいわよ。侯爵家として必要な事はしてくれたし、お金で困ったこともない。いつか使う道具としては大切にしてくれたと思うわ。だから、私も色々学ぶ時間があったんだもの』
「僕はその知識に助けられてるよ。出会いはあれだけど、良かったと思ってる」
『そ、そう。良かったわ』
「じゃあ、お風呂でゆっくりしようかな」
『え、え、一緒にお風呂はちょっと……』
「ん?1人で入ってくるよ?」
あれ、僕一緒になんて言っただろうか。
『え、あっ、そうよね』
あっ、もしかして。
「ごめん、気付かなくて、ミアンも寂しいんだよね。一緒にお風呂入る?恥ずかしいけど」
そうだよね、親に好かれてなかったとは言え家族の元を離れ、盗賊に捕まり。誰かと一緒にいたいよね。1人になりたくないよね。
『え、い、、いいわよ』
「うん、じゃあ行こっか」
『その、いいじゃなくて……』
何か聞こえたが、僕は手を引いてお風呂へと向かう。お風呂はとても、広い、気持ち良さそうだ。思えばスキル鑑定の日以来入ってない。アンリが偶に吹いてくれてはいたが。
あれっ、僕って臭くないよね。大丈夫かな……盗賊の返り血とかは落としたけど。今まで気付かなかった。日本人だった頃の記憶が不潔と訴えかけてくる。
「じゃあ、先はいってるね!」
『わ、分かったわ』
僕は先に入り急いで洗う。赤と青の綺麗な魔石が嵌められているシャワーのボタンを押し体全体を綺麗に流す。
そして、石鹸。
「そう言えばそうだった……」
この世界の石鹸は、髪がギシギシになるのだ。ただ洗えるだけの薬草石鹸だ。臭いが消えるだけマシだと思い全身満遍なく泡だてていく。
『れ、レティス。背中流す?』
ミアンが入ってきたようだ。背中は洗いづらいから有難い。
「お願いするよ」
『わ、分かったわ』
手の柔らかさが丁度気持ち良い。背中を優しく洗ってくれている。
『どうかしら?』
「凄く気持ちいいよ」
『そ、そう。前は……』
「前はいいよ、恥ずかしいか……うっ」
『ダメ!後ろ向かないで』
後ろを向うとしたら顔を泡だらけの手で掴まれ戻される。そう言えばミアン裸だったな。11歳の裸を見て何か思う所はないのだが……多分。
「ご、ごめん。忘れてた。僕は流して湯に浸かってくるよ」
『み、見えちゃうから私が隠すから待って』
僕を手で目隠しするミアン、しかし、しかしだ。後ろに密着してて色々当たっている。まだ未発達だが、割とある方だ、将来を考えると……。まずい、無心にならなくては。10歳と油断していたが反応してしまっている。
『つ、着いたわよ』
「セーフ」
『何ですって?』
「いや、久々のお風呂楽しみだなって」
『そう、私は洗ってくるから入るならあっち向いてるのよ』
ミアンが体を洗いに行ったので僕は寛ぐ。はぁ、気持ちいい。記憶に左右されてるのかな?レティスになってからこんなにお風呂が気持ちよく感じたのは初めてだ。
のんびりしていると、ポチャっと、音がし、湯波が広がる。ミアンが入って来たのだろう。
『ふぁー、気持ちいいわね』
「うん、疲れが取れるのがわかるよ、そう言えばミアンはスキル何貰ったの風魔法は聞いたけど。ってスキル詮索は良くないんだっけ」
『いいわよ、冒険者になるならお互い知らないのは不便だわ。私の貰ったスキルは2つ、癒しの女神と風魔法よ。後は魔力操作を覚えてるわ』
おお、癒しの女神とか凄そう!
「女神が付いてるとか如何にもなスキルだね、魔法主体だし後衛かな」
『がっかりするわよ、癒しの女神は回復力を大幅に上げる効果があるわ。聖女が持ってたスキルらしくて最初は驚かれたわ。でも私は回復スキルの才能が無くて頑張っても初級回復魔法すら身に付かなかったの。今となっては無意味なスキルよ。だから、風魔法が中心になるわね』
「風魔法、すごく助かるよ。使い勝手良さそうだよね」
そんな事もあるのか。スキルが噛み合わない……。きっとみんなに配られるスキルもあのガチャから出てきてるんだろうな。そりゃ、相性悪くもなるか。
僕はスキル今はあるけど……なんて説明しよう。全部話すのは僕的にはまだ難しい。
『レティスはどんなスキル貰ったの?剣を持ってるし剣術、盗賊の頭を倒したとなると、剣王とか剣聖だったりして』
「僕はスキル無し判定だったんだ……。全部は話せないけど僕はそれが原因で殺されそうになって逃げてきた。そんな感じかな」
『えっ、貴方まさか、アルファム家の5男?!』
「やっぱりバレるよね。噂されてるとは聞いてたし、何よりアルファム家に嫁ぐ予定だったなら知らない訳がない。がっかりした?」
『がっかりなんてしてないわ。私は噂より今いるレティスを自分で見て判断してるわ。殺されかけたなんて……』
「だから、僕は多分死んだ事になってるはずだよ。だから国を出たいんだ。僕が死んでない事がバレてれば追手も来るかもしれない。それに、後で僕が何処かで生きてると伝われば何かしら……ね。とにかく僕は親の権威が効かず自由になれる他の国へ行こうと逃げ出した訳さ」
『だから、危険って言ってたのね』
「今なら……」
口に指を当て止められる。
『それ以上は言わないでいいわ。私はレティスに着いてくと決めてるから』
「ありがとう」
『どう致しまして』
「ミアン、ちょっと近くて恥ずかしい」
『きゃっ、わ、私先でるわね』
僕の目の前まできて、先程からリアクションする度に立ち上がって色々見えていた。いつ言おうか迷ったがそんなおちゃらけたムードではなかった。
「将来に期待かな?」
ミアンは絶対美人になるだろう。それまで一緒に居てくれるだろうか?居てくれたら嬉しいな。と思いながら暫くして僕もお風呂を出た。
ベッドへ行くと、ミアンが爆睡していた。ソファーで寝ようかと思ったがこれだけ開ければ端で寝れば良いだろうと僕もそのまま布団に入る事にする。
程よく沈み込むマットが体にフィットする。ふかふかの羽毛布団もとても気持ちが良い。夢の中へと行くまで時間はかからなかった。
◆本日もお読み頂きありがとうございました。
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