第4話 1人より2人
目が覚めて、最初に映ったのは真っ赤な炎とと透き通る空。のような瞳!?
「って、う、ああぉぅ」
『きゃっ、あ』
覗き込む少女に驚き僕は木の上から落下する。少女はかなり慌てているのが見える。
これが空を飛ぶという事か……なんて考えてる間に、地面に到着する。頭から落ちたのだが、手をついたからか怪我はない。
怪我はない?そこそこ高い木の上から落ちて?普通は折れている、と言うか大怪我だ。
そうか!盗賊の頭を倒している。あれだけ強いのだ、レベルアップの恩恵が大きかったのだろうと、僕の中でとりあえず疑問が解決される。
そんな中、それを知らない少女は、自分のせいで僕が落ちてしまった事に動揺しまくっている。泣きそうな顔でこちらを見ている。
「大丈夫だよっ、と」
僕は再び登る。
『え、ええぇ、落ちましたわよね?』
「落ちたね?」
『何故平気ですの?』
「手から落ちたから?」
『そうでしたの。じゃないですわ!普通は手をついたら大変な事になりますわよ。そんな事が出来るのは高ランクの冒険者くらい……』
はっ、っと閃いたような顔をするミアン。考えてる事はわかる。僕を高ランクの冒険者と勘違いしてる。まだ登録前なんだけどね。
「まあ、僕は丈夫いんだよ」
『分かりましたわ。言えない理由があるのですね。助けられた身ですし、これ以上の詮索は失礼ですわね』
勘違いしていってくれるミアン。こちらとしては都合が良い。僕は嘘は一言も言っていない。
「それより、ミンクスの街へはどれくらいかかるの?」
しっかり眠れたし、今日はできる限り進みたい。
『ここからだと、3日程ですわね。勿論スムーズに行けてですわよ?』
3日もかかる距離があったのか……。適当に進めば着くと思ってたが、3日も離れててはそう簡単に着くはずもない。
ここでミアンを助けて街までではあるが、一緒に行けるのはラッキーだったかもしれない。良い所のお嬢様なのかミアンは知識が豊富だ。この機会に旅の間に色々聞くとしよう。
「歩けそう?」
ぐっすり寝ていたと思うが、足が動かなくなる程に疲弊していたので、ちょっと心配だ。
『ええ、もう大丈夫です。連れて行って頂くのですから、迷惑はかけませんわ』
「分かった。疲れたら言ってね」
豊かな緑広がる街道を進む。数時間歩くと、丁度休憩する為に作られた野営地を見つけた。
「休んで行こうか」
『え、ええ。歩くのって結構大変ですのね。馬車とこれほど違うとは思いませんでした』
「ミアンは何処かのお嬢様?」
『ええ、ミアン・エーゲストと申しますわ』
「そっか、知識も豊富だし言葉使いもしっかりしてるからそうじゃないかなって。向かう街すら知らなかったからとても助かるよ」
『そこですの?!エーゲスト家は侯爵家。次女とは言え私を救ったのです、相応の礼を期待するものではなくて?』
「礼はいらないよ。それより、知識が欲しいかな」
『ダメですわ、侯爵家としてそれは受け入れられませんわ』
困った。この国侯爵家と繋がりなんて出来たら実家にバレる可能性がある。街でお別れしたら、早めに次の街へ行こう。
それにしても、アルファム領に何しに来たんだろう?
「うーん、本当にいらないんだけどな。そう言えばアルファム領には何しに?僕の都合で遅らせてごめんね」
『良いのよ、所詮政略結婚ってやつよ。ザック・アルファムって言えば分かるかしら?』
「アルファム家次期当主でしょ?街に住んでたから知ってるよ」
『そう、その婚約者が私よ。今回がその初顔合わせでアルブムの街へ向かっていたの』
まさか、兄さんの婚約者だったとは。でも侯爵家と子爵家だと釣り合わない気がするけど。アルファム領は農業が盛んだけど、それ以外に突出した物はなかったような。
「そんなめでたい日に残念だったね」
『めでたくなんかないわよ。顔すら知らない人と添い遂げる事が決まってるのよ』
哀しそうな顔をしている。政略結婚か……。
「ごめん、無責任な言葉だった。と言うかタメ口はまずい?」
『いいのよ、私は侯爵家。家の繁栄の為に必要な事とお父様が決めたの。今更言葉使いなんていいわよ。命の恩人にそんな事言わないわ』
僕の場合倉庫に隔離からの毒殺が父の望みだった。今は自由になれたけど……。ん?自由か。確かにそれなら自由になれる。
「ミアンは自由になりたいの?」
『それは……なれるならなりたいですわ』
「ミアンは盗賊に襲われた。確かな証拠も残されてる。盗賊のアジトを探すのは困難。見つけてもあの惨状だからきっと見つかる頃には誰が誰か分からないと思う」
『それは……』
「でも、自由になれるけどミアンのお父さんやお母さんは悲しむだろうし。1人になれば当然親の保護もない子供が生きてくのは辛いと思う」
『別に悲しまないわね。政略結婚の失敗に怒りはするかも知れないけれど。レティスはこれからどうするの?』
悲しまない親なんて……いない。なんて言えないか。僕の親がいい例だ。貴族としての体裁を保つ為に僕を殺すと決めたのだから。
「貴族って、大変だね。僕は、旅をする。出来ればこの国から出たいと思ってる」
『私も連れてってと言ったら迷惑?』
1人より2人。知識も豊富でこんな可愛い子と旅が出来たら良いと思うけど、僕は訳ありだからな。下手すると巻き込んでしまう。
「迷惑じゃないけど、ごめん。1人旅したいんだ」
『貴方もやはり私のこの色違いの瞳が嫌いなのですね』
瞳?何言ってるのかな。
「どう言う事?その綺麗な瞳がどうしたの?」
『えっ、綺麗なんて初めて言われたわ。赤い瞳は魔物の瞳。貴族界では有名よ、魔物に呪われた瞳、呪われた少女ってね』
呪われた少女……。だから位の下の子爵家との婚約が成立したのか。
宝石のルビーが埋め込まれてるのかと思うくらいに綺麗瞳。実際呪いなんてあるのかな?
「知らない僕からしたら、綺麗な瞳にしか見えないし。実際呪われてる訳ではないんでしょ?」
『ええ、教会からも呪いはないと診断されてますわ』
一度広まってしまえば、診断が出ても変わらない、って事か。侯爵家なのに、自由になりたいとか言うからおかしいと思ったが、嫌な目に遭ってきたのだろう事が想像出来る。僕は数ヶ月だったが、生まれてからずっと瞳は変わらない。と言う事は……。
「うーん、僕はミアンと居たくない訳じゃないよ?一人旅に可愛い女の子が付いてきてくれるなら歓迎したい所だけど、僕と居ると事情は言えないけどミアンが危ない目に遭う可能性があるんだ」
『可愛いなんて言っても騙されませんから!僕と居ると危ないとか、貴族の次女だからって庶民の事知らないと思いすぎてません?レティスさんは今いくつですか?』
「10歳だけど」
『私は11歳です!お姉さんです。10歳の男の子と一緒にいたら危ないって暗殺者でも来るんですか!』
「うん、暗殺者が来るかも?」
『ええ、そうでしょ。暗殺者がって。えぇっ!?』
驚いてるミアンだが、これ以上は説明も出来ないから分かってくれるといいな。
「だからね、一緒には居れないんだよ。僕は国を出ないと、本当の自由にはなれない」
『分かりましたわ』
良かった。分かってくれたみたいだ。
「うん、街まではちゃんと送るし、ミアンが一人で生きてくつもりなら、僕は絶対に言わないから安心して」
『ええ、レティスについてきますの。そもそもレティスが来なければ私は死んでましたの。死んでなくても酷い目に遭っていましたわ。暗殺者が来ようと助けられた命ですもの、レティスの為に使いますわ』
僕が歳下と分かったからか、呼び捨てに変わった。と言うか少し性格に変化が……これが素なのだろうか。侯爵令嬢感が出てきた。
って、そうじゃない。断る理由がなくなってしまった。
『断る理由探しなんてしても無駄よ。それに一人で生きていける、自信ないわよ』
くっ、何故分かった。と言うか僕は10歳だし、ミアンより生活力はないはずだ。
「分かった、けど僕とか10歳だし生活力0だよ!?初旅だし、冒険者に出来ればなりたいと思ってるし……」
冒険者になるにはいくつかの弊害があるが、盗賊のお宝があるから暫くは安泰だ。
『盗賊のアジト潰しといてよく言うわね。貴方なら何処でも生活出来ると思うけど。冒険者にレティスがなるなら私もなって付いてくわ』
ここまで言われたら断るのもあれだろう。
不安はあるが、旅仲間は正直嬉しい。
「じゃあ、これからよろしく」
『ええ、よろしく』
2人は握手を交わすのだった。
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その頃、アルファム家では。
『なんだと?侯爵令嬢が盗賊に拐われただと?!』
イカツイこの男はアルファム家当主だ。
『はっ、街道沿いで荒らされた馬車と、護衛に付いてた冒険者が死体で発見されました』
『何故このタイミングで盗賊なんだ。レティス……お前を助ける目処が付いたと言うのに。何故レティスは死に、次はザックの婚約者まで襲われるのだ』
『あなた、何故なの。レティスとこれからは暮らせるって言っていたのに。何故なの……』
レティスの母、レアンは食事も喉が通らず疲弊し、精神的にあまりよくない状況だ。泣き続けていたからか、涙も出ない程に綺麗だった面影は見られず、目が酷く腫れてしまっている。
『すまない、こんな事になるとは。俺が全て悪い。許せ、レアン。それに……いや、何でもない。お前は少し休め』
レティスを閉じ込めていた倉庫。レティスの死体は爆発で消え去り跡形もなかった。だが、色々と不自然な点が見られたのだ。例えば、レティスを溺愛していたはずのミュアとアンリ、あの2人の動揺があまり見られなかった。それにあれだけ燃えていた倉庫から屋敷へと燃え広がらなかった火。爆発の影響もあるだろうか不自然な所は多い。だが、不確定な事をレアンに伝える訳にはいかないと、ボーグは調べがつくまで黙っておくと決めたのだった。
レティスは嫌われてると思っていた。しかし、2人はレティスを心から愛していた。だからこそ、2人は作戦を練ったのだ。他の貴族から、レティスの存在が「死」という分かりやすい言葉で世間から消える事で、レティスが自由に生きられるようにと。
その事を知るのはまだかなり先の話だ。
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